ようやく君が死んだんだ。
うたう
ようやく君が死んだんだ。
僕が病院に着いたときにはもう君は息を引き取っていた。
「まだ死にたくない」「もう死んでしまいたい」と繰り返し嘆いてきた君が最後に口にしたのはどちらの言葉だったか、僕は思い出せなかった。
君の死に顔は穏やかで、僕には笑みを浮かべているように見えた。
なぜだろうか涙は出なかった。
ようやく君が死んだんだ。
*
昨年の冬の始まりに、僕は君とデートした。
繁華街はクリスマス一色で、平日ではあっても特有の賑わいと慌ただしさがあり、多くの人が行き交っていた。君は、待ち合わせ場所に僕の姿を見つけると大きく手を振って、僕ににっこりと笑った。君の頬に深くあったえくぼがなぜだか印象的で、そのときの君の表情は今も僕の瞼の裏に焼き付いている。
学生時代と違って、就職すると互いの休みが合わなくなり、デートらしいデートの回数はめっきりと減っていた。そうは言っても、ほぼ毎日のようにLINEで連絡は取りあっていたし、時折通話して声を聞くこともあった。たまにではあったが仕事帰りに落ち合って、一緒に食事に行ったりもしていたから、僕自身はさほどデートの回数を気にしてはいなかった。
三か月ぶりのデートだったかもしれない。その前のデートがいつだったか、はっきりとは覚えていなかったが、秋の間は仕事に忙殺されていたので、おそらくそれくらいぶりのデートだったろう。
君との交際は大学三年のときに始まった。それから四年と少しが経っていれば、誕生日だとか何か特別な日を除いて、いちいち気取ったデートをする時期はとうに過ぎていた。このときのデートもクリスマスデートを意識するにはまだ日が早すぎて、ありふれた内容だった。
コメディ映画を観て笑い、鑑賞後にカフェで感想を言い合ってまた笑った。その後は立ち並ぶショップを手あたり次第に冷やかして回っただけで、やはり何とも言えないデートだった。
この取り立てて言うことのないデートが君との最後のデートになることを僕は知らなかった。もしも知っていたなら、僕は一生懸命にエスコートしただろうし、たとえそれが初デートのときのような空回り気味のエスコートになったとしても、僕は後悔しなかっただろう。
結局のところ、僕は知らなかったのだ。
僕の休日に合わせて、君が有給休暇を取得したものだとばかり思っていたけれど、実際にはこのとき既に君は仕事を辞めていたし、君がどんな想いでこの日のデートに臨んでいたのかも僕は知らなかった。本当に僕はなにも知らなかったのだ。
日が暮れて冷え込みが強くなったため、僕はどこか店に入ることを提案した。少し早めではあったけれど、夕食を摂るのに悪くない時間だった。だけど、君は「今日はもう帰る」と言い出した。久々のデートなのだからともう少し一緒にいようと言っても君は頑なに拒否した。店を予約していたわけではなかったし、君の様子に僕はなんだか白けた気分になっていたので、根負けして、君の手を引いて駅へと歩き出した。
君は苦痛だか疲労だか、君の身体の発する悲鳴を僕に聞かせまいとしていたのだろう。君が帰ると言い出した理由も後から考えれば、そういうことだったのだと合点がいった。けれど、このときの僕は君の態度に少し苛立っていて、視野が狭くなっていた。君が押し黙ってしまった訳など考える気もなく、君の顔色、歩調を気にする余裕もなかった。駅まであと少しというところで、君が急に足をぱたりと止めたときに、「やっぱり食べて帰る?」と訊いたのが、僕なりの精一杯の気遣いだった。
君は僕の問いかけには答えずに、肩を大きく上下させて深呼吸していた。君がどれだけの覚悟を持って歩みを止め、深呼吸していたのか、今の僕には想像がつくし、考えると胸が苦しくなる。
僕がもう少しだけでも敏感であったなら、君が
「どういう意味?」
僕はそう返すのが関の山だった。
困惑していたのだ。デートの誘いは君からだったし、デートの最中、街中に流れるクリスマスソングに合わせて、君は鼻歌をうたったりして上機嫌そうに見えた。とぼけた表情をしたタヌキのぬいぐるみを見つけたときには、僕の顔と見比べて「そっくりね」と笑ったり、どうしても君が嫌々デートしていたようには見えなかったのだ。何より君の手は、別れ話を切り出してからも僕の手をしっかりと握ったままだった。
「お願い。別れて」
「どうして?」
「好きじゃなくなったからかな」
「いつから?」
「いつからかなんて覚えてないよ。わかるのは、今はもう好きじゃないってことだけ」
君は僕の手を変わらず握ったままで、振りほどく気配すら見せなかった。
「嫌なところがあるなら改めるよ」
「そんな必要ない。もう遅いの」
俯いたままの君の表情を窺うことはできなかった。
「本気で別れたいなら、せめて顔を見て言えよ!」
デート中は散々楽しんだような素振りを見せていたのに、帰り際、唐突に別れ話を切り出す。そうした釈然としない君の態度に僕は腹を立てていた。
俯いていた君が顔を上げて、僕のほうを向いたとき、僕は思いもしなかった君の表情に面食らった。君の目尻にはじわりと涙が溢れ出し、瞬きによって大粒の雫がこぼれ落ちたのだ。
「もう手遅れなの」
君は握っていた手を離して、僕の胸に飛び込んできた。そしてまた「手遅れなの」と涙声で呟いた。
君の余命が半年しか残されていないことを君に打ち明けられたとき、僕はひどく狼狽した。悲しみよりも先になぜだか憤りに似た感情が沸き起こった。君なんかよりももっとずっと死に値する悪人が世の中にはごまんといるはずなのに、どうして無垢で
腕の中の君の身体は以前よりも一回り小さくなったように感じた。来たるべき君の死を突きつけられたような気がして、そんな不安を振り払うように、僕はさらに強く君を抱きすくめた。君は僕のコートの胸元を両手でぎゅっと掴んで離さなかった。
君はこのデートの二週間後に入院した。
なんの病気を患っているのか、君は僕に言わなかった。僕も聞かなかった。結局、僕は最後まで病名を知らないままだった。病名を知ったからって、僕にできることは限られていると思ったし、病名を知らないままでいたってできることは同じだろうと思った。君の余命がどれだけ残されているのか、知っておくべきはそれだけのような気がしていた。
でも知ろうとしなかった本当の理由に僕は薄々気づいている。僕は臆病だったのだ。君がどのように弱って、苦しんで、そして終のときを迎えるのか、先んじて知るのが怖かった。
君は、僕と違って勇敢だった。君との別れが僕にとって、ただの失恋のひとつになるように気遣い、画策するほどに君は強かった。病床でも君は苦痛に悶え、その度に「もう死んでしまいたい」と嘆いていたけれど、調子を取り戻すと「まだ死にたくない」と言って、痩せ細っていく身体で必死に生にしがみついてきた。
どんなにか君は頑張ったのだろう。半年だと言われていた余命より二ヶ月も長く君は生き、そして息を引き取った。
君は存分に病魔に抗ったのだ。君は満足そうに微笑んだまま、永遠の眠りに就いていた。僕の目にはそう映った。君の死に顔はあまりにも穏やかで尊かった。
僕は君の両親の許しを得て、君の頬に触れた。亡くなってまだ間もなかったのだから、体温はまださほど失われていないはずだった。茹だる暑さの中、急いで駆けつけた僕は、びっしょりと汗をかいていた。君の肉体が活動を止めてしまったことを思い知るには十分なまでに、僕の手のひらは熱く
天を仰ぐと自然と溜め息が漏れた。君が安らかな眠りに就いたことへの安堵の溜め息でもあったが、同時に僕自身に対して吐いたものでもあった。君の亡骸を前にして、とうとうこの時を迎えてしまったかと空虚な面持ちでいながらも、心のどこかにはやっと終わったと肩の荷が下りた気分でもいた。君の闘病生活ほど厳しいものではなかったにせよ、僕自身も疲弊するに余りある生活を送っていたのだ。
君が旅立つまで、なるべく傍らに寄り添おうと決めていた。仕事を終えて、君を見舞い、面会が許された時間のぎりぎりまで君と過ごした。休日も午前中に掃除や洗濯を済ませ、午後には君の横にいた。そうした生活のサイクルに義務感を覚えることはなかった。限りある君との時間を僕はただただ惜しんでいた。しかし八ヶ月ほど続いた、こうした生活は無理を通したものだった。僕は随分と前から蓄積した疲労を栄養ドリンクで誤魔化していた。
君の両親は、娘である君の死に目を赤くして泣き腫らしていた。君の弟は、早すぎる君の死に憤懣やる方ない、険しい表情を浮かべていたけれど、君の両親と同じように目は赤かった。僕だって、彼らと同じくらいに打ちひしがれていたはずだった。それでも涙のひとつも溢れなかったのは、君の死が、僕にとって解放の意味合いを含んでいたせいなのだろうか。
ひっそりと去りたいと生前に希望したこともあって、君の葬儀はこじんまりとしたものだった。君の親族の他に君のかつての友人が数名、それから君がいた職場の直属の上司だったという人など、参列者は
君の両親は、僕を遺族同然に扱ってくれた。しかし、僕は君の弟の隣に座り、読経がなされる間、葬儀に参列する資格が僕にあるのだろうかと考えていた。
君の家族は、両親も君の弟も表情には悲しみよりも疲労を滲ませていた。泣き尽くした後で葬儀の支度に奔走したのだろう。その最中に君の家族は君の死を受け入れる準備をしていたのかもしれない。僕はただ葬儀に参列しただけで、なんの手伝いもしていなかった。
だが、なんらかの手伝いをしていたとしても、僕は居心地の悪さを感じただろうと思った。そのことを、君のかつての友人が君の両親に想い出話を語るのを聞いたときに強く確信した。
僕は君がこの世を去ってから、まだ一粒の涙も
小学生時代の君の親友だったという彼女は、小学二年生のときに行った遠足で、弁当の卵焼きを交換しあったという本当に些細な想い出を君の両親に語った。彼女自身、このときまで思い出したことがあったのかさえ疑わしい、記憶の奥底に埋もれていただろうその出来事を思い返して、彼女はさめざめと泣いた。
僕にだって君との想い出はたくさんある。君と彼女との間にあるものに負けないくらい濃密な君との日々の想い出だ。だのに、どの記憶を辿っても涙の呼び水にはならなかった。
詰まるところ、僕は薄情な人間なのだろう。
君と籍を入れていたのなら、あるいは君の死に対する受け止め方は違ったものになっていただろうか。君が亡くなる三ヶ月前に僕は赤いバラの花束を携えて、君を見舞ったことがあった。
僕が「結婚しよう」と告げると、「カッコつけすぎ」と言って、君はケラケラと笑った。僕自身もそんな気がしていたので、照れくさくなってそれでも籍を入れようとは言えなかった。しつこくプロポーズしていたら、君は僕の妻になってくれただろうか。亡くしたのが妻であったなら、僕は涙を流すことができたのだろうか。
君を失って、僕は気づいた。
僕の生活を複雑たらしめていたのは、どうやら君だったようだ。君の葬儀を終えて、僕の生活は驚くほどシンプルになった。
もう君を見舞う必要はなく、君の容態の変化を報せる電話が鳴りやしないかと身構える必要もなく、ただ仕事に打ち込んでいれば一日が終わった。
君がいた頃には考えられなかったくらいに、僕は仕事に集中していた。大げさに聞こえるかもしれないが、僕は労働の喜びを感じていたのかもしれない。
昼休憩の時間に入っていることにも気づかずにいつも昼食を食べ損ねそうになるくらいに仕事に没頭していた。上司に声をかけられて、すでに終業時刻を回っていたことに気づく毎日だった。切りのいいところまでやったら帰ると上司に伝えて残業し、そして午後八時頃に空腹を覚えて我に返る。会社の近場にある適当な飲食店で夕食を済ましてから、駅に向かう。もう君はいないというのに、なぜか自宅とは反対方向の、君のいた病院のほうへと向かう電車のホームに立っているのだから染み付いた習慣というのは恐ろしい。
自宅近くのコンビニで缶チューハイを買って帰り、風呂上がりに観もしないテレビ番組の音声をBGM代わりにして、それを飲む。何ヶ月もアルコールを摂取していなかった僕は、すぐに酔っ払ってしまって、いつの間にか眠りに落ちている。やがてスマートフォンのアラームが鳴って、またシンプルな一日が始まるのだ。
君が生きていた頃、僕はやりたいことをあれやこれやと我慢してきたつもりだった。しかし、いざ君が死んで、初めてなんの予定もない週末を迎えてみて、我慢してきたこととは何だったのか、まったく思い出せなかった。僕の中にはなんの情熱も欲望も残っておらず、退屈な週末という空間に放り込まれ、僕はそこを漂っている気分だった。時刻はまだ正午を過ぎてもいなかった。
試しにゲーム機のスイッチを入れてみたけれど、ほんの少し遊んだだけで飽きてしまったし、大好きだったお笑いコンビの動画を流してみてもちっとも笑えやしなかった。着替えて外出してみても行く宛など思いつきもせず、結局自宅近くのコンビニで缶チューハイを買い込んで戻ってきただけだった。
やるせない週末が早く過ぎ去るように、僕は酒を飲んだ。浴びるように飲んで、そして朦朧とした意識の中で、僕は君の夢を見たのだ。
夢の中の君の頬はふっくらとしていて、まだ元気だった頃の姿をしていた。君は甘ったるい仕草で僕の小指をつまみ、そこに自身の小指を絡めた。
「あたしより先に死なないでね」
君がまだ病魔の存在を知らなかった頃に実際に口にした言葉だった。本来ならば、何十年も後に果たすつもりでいた約束だった。
「僕の頭が禿げあがって、君の髪が真っ白になっても仲良く笑い合っていよう」
かつて君とそうしたように、僕はまた指切りをした。
「なに当たり前なこと言ってんの?」
君は白々しい口調でそう言ったけれど、表情はやわらかく、頬にはくっきりとえくぼが刻まれていた。
僕だって当たり前のことだと信じていたのだ。居たたまれなくなって、君から目を逸らすと君は不満げな口ぶりに僕に問いかけた。
「あたしはどこにいるか知ってる?」
天国という言葉が一瞬浮かんだが、夢の中の出来事であるとしてもその答えが正解であるようには思えず、口を
「僕の隣?」
「惜しいな。正確じゃないよ」
答えにまったく見当がつかず、僕は助けを求めるように君の顔を覗き込んだ。
すると君は、「あ、正解!」と言って、拍手した。
「え?」
何がなんだかわからずにきょとんとする僕に、君はこう言った。
「あたしは、君の視線を遮るところにいるんだよ。ずっとあたしのことを見てないとイヤだよ。あたしも君をずっと見てるからさ」
目を覚ますと、すでに日が落ちかけていた。
薄暗い部屋の中のどこに視線を向けたって、君の姿は見つかるはずもなかった。君が僕の夢の中まで逢いに来てくれたことを喜ぶべきなのだと思おうとしても、今逢えない悲しみが強く胸にこみ上げた。
どうしようもなく君のことが好きなのだ。
夢の中で君に再会して、僕は狂おしいまでに君の声を欲し、君のぬくもりを求めていた。失われてしまった今、そのすべてが
かつて実際に君とかわした会話は、夢で見たものとは少し違っていた。
僕は指切りをした後、君にこう訊いたのだ。
「もしも僕が先に死んでしまったら?」
「そのときは決まってるじゃない。君の後を追って逢いに行くよ」
君がどこまで本気だったのか、今となってはわからない。けれど、僕はこのときの君との会話を思い出して、名案だなと思ったのだ。
酒に酔った身体で僕はふらつきながら、引き出しからナイロンの紐を取り出し、それをドアノブに括った。ドアノブを使って首を吊る方法があると聞いたことがあった。正しいやり方などわからないから、ドアノブに何重にも巻き付けてから輪っかを作った。そこに首を入れて、君との日々を思い返した。浮かび上がってきたのは、最後のデートの日に待ち合わせ場所で見せた君の笑顔だった。あの笑顔をまた見たいな。そう思うと覚悟は決まった。
勢いをつけて、いざ首を吊ろうとした瞬間、何かが割れる音がして僕ははっとした。ほどなくして、ラベンダーの香りが僕の鼻腔をくすぐった。
僕はナイロン紐の輪から首を抜き、音のしたほうへ足を運んだ。割れたのは君が僕の部屋に泊まった際に置いていったアロマオイルの瓶だった。ガラス製のものではあったけれど、小さいながらも厚みがあって、ちょっとやそっとの落下では割れそうにないものだった。棚のさほど高くないところに置いていたその瓶が転げ落ちたのか、割れていた。地震があったわけではない。窓だって閉め切っている。エアコンは作動していたが、棚の瓶を動かすほどの風量を出すことは不可能だ。
不思議に思っていると、瓶の欠片のひとつが小刻みに振動しはじめた。かと思うと欠片はふわりと浮かび上がり、僕の方へゆっくりと寄ってきた。意思を持っているかのように、欠片は僕の鼻先付近までやってきて止まった。
しかし僕が欠片に手を伸ばすと、欠片はするりと逃れるようにまたスーッと動き出した。欠片は浮遊しながら、玄関のドアのほうへ向かった。そのまま欠片は扉にぶつかり、カツンと音をたてて落ちるのだろうと僕は思って見ていたが、おかしなことに欠片はドアをすり抜けてしまった。
わかっている。アルコールが見せた幻覚のようなものだ。瓶の欠片が穴も隙間もないドアを通り抜けることなんてあり得ない。それ以前に欠片が重力に逆らって宙に浮かぶことなどあるはずがない。
頭ではわかっていた。それでも身体は慌てて、欠片を追い始めた。慌ててサンダルを履き、戸締まりなど気にせずに欠片を追った。欠片はひとっ飛びにマンションの敷地の外へ出たりはせず、律儀にも通路を通って、大きく螺旋を描くようにして階段を降りていく。アルコール混じりの息を吐き出しながら、僕はそれを追った。
階段を降り終えマンションの敷地の外に出ると、欠片は逃げるように速度をあげて飛んでいく。僕は喘ぎながら、必死に追いかけて走った。暮れなずんだ街の中を小さな欠片が白く強い光を放ちながら飛んでいる。どうやら欠片は僕にしか見えていないようで、街ゆく人々は欠片とすれ違っても振り向いたりすることはなかった。
脇腹が痛くなりはじめ、少しずつ光る欠片と僕との距離が開き始めていた。日頃の運動不足に加え、酒の入った身体だ。もう限界だった。
僕は堪らず君の名を叫んだ。
呼応するように欠片は一瞬強く光ると、遠ざかるのを止め、走れなくなった僕のほうへ歩み寄るようにゆっくりと戻ってくる。小さい、けれど強い光に僕は君の姿を見ていた。
もうわかっている。光は君の魂だ。他の通行人には見えず、僕にだけ見えていたことにもそれで納得がいった。君は僕に自殺を思いとどまらせようとして、咄嗟にアロマオイルの小さな瓶を依り代にして、僕の前に現れたのだ。
夢の中で君が言ったように、君は僕のことをちゃんと見ていた。
君に救われたと知って、僕は恥ずかしさでいっぱいになった。どうしてもどうしても君に逢いたくて、命を絶ったら逢えるような気がしていた。精一杯に生きて亡くなった君の魂に面と向かうと、安易で浅はかなことをしようとしていたのだと気づかされた。
君の魂である小さな光は、そんな僕を
夜空を見上げ、僕は泣いていた。我慢できなくなって、
「大丈夫です。大丈夫になったんです」
僕は、涙声で返事した。
君が亡くなってから八日目のことだった。
ようやく僕は泣けたんだ。
ようやく君が死んだんだ。 うたう @kamatakamatari
★で称える
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