第9話 農業日誌
農業作業一日目。
俺はフードトラックから少し離れた場所に立っていた。
「ここなら畑が作れるかな?」
ここだけ木が避けるようにポッカリと空いている。
下はフカフカとしているが、実際に畑にするのは難しそうだな。
「ほとんど、落ち葉だな」
この辺りは暖かい場所のようだから、溜まった落ち葉はすぐに分解され、土になる。
だが、その速度以上に落ち葉が堆積されれば……。
「まずは落ち葉をどかす作業から始めるか……」
この作業だけでドラゴンさんがやって来る時間になってしまった。
……。
農業作業二日目。
昨日の続きだ。
ひたすら落ち葉除去作業。
……終わらない。
……。
農業作業三日目。
ひたすら落ち葉との戦い。
次々と降ってくる落ち葉に悪態をつく。
……。
農業作業四日目。
ソラが炎ブレスを漏らす。
集めた落ち葉は全て灰になってしまった。
せっかくなので、周りの木を燃やしてもらった。
ドラゴンさんに怒られてしまった。
……。
農業作業5日目。
ついに畑らしい表面が現れ始めた。
ソラに燃やしてもらった落ち葉がいい感じに草木灰となってくれた。
肥料を入れるかどうか、迷ったが……。
「入れずにやってみるか。様子も見ておかないとな」
農薬も同じだ。
虫や病気の様子を見ながら判断したほうがいいだろう……。
……。
農業作業6日目。
ついにクワを入れて作業を開始する。
根が張っているかと思ったが、深い場所なのだろうか?
表面は柔らかく、クワがサクサクと入っていく。
拍子抜けをしてしまった。
……。
農業作業7日目。
ついに種まきをするところまで来た。
紐で目印をしてから、直に種を撒いていく。
苗を作らなくても、大丈夫だろうか?
キャベツ……頑張ってくれ。
……。
農業作業8日目。
信じられなかった。
昨日撒いたはずなのに、すでに芽が出ていた。
今の気温なら、早くても4日はかかると思っていたのに。
……。
農業作業9日目。
またまた、信じられないことが起きた。
すでにキャベツの葉がかなり大きくなっていた。
結球をするのも時間の問題だ。
……。
農業作業10日目。
小さな形で収穫するなら、してもいいサイズまでになっている。
信じられない……。
キャベツに何が起きているのだろうか?
ドラゴンさんも一緒に観察をしている。
……。
農業作業11日目。
種を撒いて、4日目。
収穫一歩手前まで来ていた。
頭を押さえてみる。
これだけ早く成長すると中身がスカスカになってしまう。
だが、ぎっちりと詰まっているようだ。
これなら千切りキャベツにしたら美味そうだ。
ドラゴンさんは今日も一緒に観察していた。
……。
農業作業12日目。
ついに収穫を向かえることになった。
しかし、大事件が起こったんだ。
……。
「ソラ、一緒に収穫を手伝ってくれるか?」
「ん!」
なんだよ……胸なんて突き出して……。
まさか……
「働いたら負けって言いたいのか?」
「うん」
……全く。
とりあえず、ドラゴンさんが食べる分だけ収穫すればいいか。
収穫籠を準備して、行こうとすると……。
ドスン!!
と地響きが聞こえてきた。
「あれ? ドラゴンさん、随分と早いな」
ドスン!!
もう一つ?
ドスン、ドスン、ドスン!!
連続して起こる地響き。
一体、何が起きているんだ?
フードトラックから出てみると……。
信じられない光景があった。
……ドラゴンが5体。
ドラゴンさんより少し小さいが……恐ろしい顔でこちらを睨みつけてきた。
「誰だ!? 貴様はぁ!」
5体の内、一番大きいなドラゴンが恐ろしい声を発してきた。
「俺は……」
すると、ドラゴンが炎のブレスを擦れ擦れの距離に放ってきた。
「熱っ! 何をするんだ!」
ドラゴンって友好的な生物ではないのか?
「我らの聖地を人間ごときが踏みにじりおって! こんなものまで」
ドラゴンは丹精込めて作ったキャベツ畑を巨大な足で踏み潰してしまった。
……許せない。
折角、作ったものを……。
「何をするんだ!」
「それはこっちのセリフ。このような汚いもので聖地を汚すな」
なんて奴らだ。
だが、俺には何も出来ない。
こんな凶悪な存在に太刀打ちなんて出来るわけがない。
これは嵐だ……。
静かになるのをじっと待つしか……。
「殺す」
ソラ?
ソラの口から怖い言葉が出たと思ったら、姿をドラゴンへと変えていく。
小さい……目の前にいるドラゴンからすれば、まるで子供だ。
だが…・・。
ドラゴンたちはソラの姿を見て、明らかに動揺していた。
「ぐぬっ……なんだ、この圧力は……」
「お前たちをコロス」
ソラの口からはまるでビームのような熱戦をドラゴンたちに放った。
「ぐあああああ。やめ……」
「シネ……」
圧倒的なソラの力に、ドラゴンたちは一瞬で戦闘不能状態になった……様に見えた。
倒れ込んだドラゴンたちは聖地と言っていた場所を大きく破壊していった。
それでもソラは攻撃を止めようとしなかった。
このままではドラゴンを殺してしまう。
子供にそんな事をさせてはダメだ。
「ソラ! そろそろご飯だ。帰ってきなさい!」
「……うん」
良かった。
ソラはいつもの人に戻って、お腹を擦っていた。
「お腹、空いた」
「ああ、今日はたくさん作ってやるからな」
ソラのおかげで嵐を払いのけることが出来た。
畑はぐちゃぐちゃになったけど……。
「うおおおおおおおっ! これはどう言う事だァァァァ」
次は何だ?
なんだ、ドラゴンさんか……。
急にブレスを吐く体勢に入る。
ちょっ……。
「ドラゴンさん! 止めててくれぇぇぇぇぇ」
「むう?」
良かった。
とりあえず、落ち着きを取り戻してくれたみたいだ。
なんか、嬉しいな。
畑を破壊されて、そこまで怒ってくれるなんてな……。
五体のドラゴン達は姿を人間に変え、目の前で土下座をしていた。
この人が話していた人だろうか?
「竜王様。誠に申し訳ありませんでした」
へぇ……ドラゴンさんが竜王だったのか……。
全然、そんな感じしないなぁ。
「我に謝罪は不要だ。我が友に許しを乞え。許されれば、良し。そうでなければ、死を覚悟せよ」
なんとも恐ろしいことを……。
けど、ドラゴンさん、俺のこと、そんな風に……ちょっと嬉しいぜ。
それだけで俺の怒りはかなり下がっていた。
それでも、理由もなく畑を壊されるだけでなく、ブレスまで吐かれてはな……。
結構、怖かったし。
「ひいいっ。人間様、どうかお許しを……」
「どうしようかな?」
「頼みます! 何でもしますから!」
ちらっと畑を見る。
「じゃあ、畑を直してくれるかな? そうすれば、許すよ」
「本当ですかっ!? じゃあ、すぐにでも」
さて……。
「どうだ? 一緒に飯でも食っていかないか?」
「いや、しかし……」
「いいだろう? ドラゴンさん」
「むう・・…」
「だそうだ」
「ありがとうございます。人間様」
こうして、常連客が5人追加されることになった。
畑の労働力も増え、結果的には良かった……かな?
「お腹空いた……」
ソラがまた怒る前に食事を用意したほうが良さそうだな。
おっさん農家のフードトラックにようこそ〜竜王の棲家に異世界転移〜お客様はドラゴンばかりなんですが? 秋 田之介 @muroyan
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。おっさん農家のフードトラックにようこそ〜竜王の棲家に異世界転移〜お客様はドラゴンばかりなんですが?の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます