幼馴染の婚約者を王子に寝取られて婚約破棄されたけど特に問題は無かった

サドガワイツキ

第1話

「カール、アンタとの婚約は破棄するわ!!」

王都の高等学校の卒業パーティーで多くの同級生、貴族の子女たちが見守る中、幼馴染で婚約者の侯爵令嬢ベルタ・デッカーランドは俺を指さし、そう婚約破棄を宣言してきた。手入れの行き届いた金の髪に勝気な目元、ハッキリと美人と言える整った顔立ち。そして豊満なその胸元はドレスから零れ落ちそうなほど。

そんなベルタとは物心ついたころからの幼馴染で、ベルタの祖父と俺の祖父が友人だったことから俺たちは婚約者として同じ時間を過ごしてきた、それなのに。

「そう言う事だ、カール・ベルマン。幼馴染だかなんだかしらないが、君のような子爵家の跡取りに、ベルタ嬢は釣りあわない。潔く身を引き給え」

そう言ってベルタを抱き寄せるのはこの国の第三位王位継承者である、オポンチ王子。

社交界で浮名を流し、パーティに現れれば黄色い悲鳴が飛び交う美男子だ。

そんなオポンチに抱き寄せられ、うっとりとした顔を浮かべるベルタ。…なんだよ、そんな顔、俺の前では見せた事なかったのに。

「そう言う事。私はオポンチ様の妻になるの。アンタみたいな田舎の格下貴族に嫁ぐつもりなんてないわ!だいたい幼馴染だからって周りをウロチョロされて目障りだったのよ。とっとと田舎に帰って二度と私の前に姿を見せないでちょうだい、貧乏能無し子爵にはそれがお似合いよ!」

「そうだ、王子である私が命じる!君のような臆病者に王都は似合わない。二度と王都に立ち入るんじゃない」

そういってニヤニヤといやらしい笑みを浮かべるオポンチが俺のところに歩いてきて、耳元でそっと囁いた。

「ベルタの初めてご馳走様。いやぁ、君が手を出してなかったおかげで楽しませてもらったよ」

それは俺にだけ聞こえる、オポンチの悪意。その言葉にオポンチを睨むが、侮蔑した表情を浮かべている。ついでベルタを見ると、ベルタは完全にこちらを見下し、鼻で笑っている。そんなベルタの様子にわざわざ何かを言うのも馬鹿らしくなり、俺はため息をついた。

「わかった、正式に婚約破棄を受ける。いいんだな?」

俺の言葉に、「そういってるじゃないこの馬鹿!」とゲラゲラと笑うベルタ。

「オポンチ王子も、これは国の決定という事でいいんですね」

俺の言葉に俺を小馬鹿にしながら頷くオポンチ。

「承知した。では俺は去るとするよ。二度と君たちの前に現れることも無いだろう」

俺はそう言うと、踵を返してその場を後にした。周囲の同級生たちは事の成り行きを見守っていたが、第三位とはいえ王子直々の言葉に意見をできるものなどいない。

…だからこれは、仕方のない事なのだ。

子供の頃のベルタは、この学校に入学したころのベルタはこんな子ではなかったんだけれどな、と残念に思いながら…。俺はその足でパーティーの場を後にし、その夜のうちに『領地へと帰った』


その日の夜、王子の私室、一糸纏わぬ姿のオポンチとベルタがベッドに横たわっていた。

「最高だったわねオポンチ!カールのあの顔見た?」

そういってパーティの事を思い出し、ゲラゲラと笑っているベルタを、オポンチは抱き寄せる。

オポンチがその胸をもみしだくと、それにあわせてベルタが艶やかな声をあげる。

…このベルタはいい女だ。またムラムラしてきた、もう何度もその身体を愉しんだが、まだまだ抱き足りない。自分がこの美しい女を手に入れたことに優越感を感じる。見た目も、その身体も国一番の美少女といっていいだろう。

そして、俺が目をつけたころは初心で一途にカールの奴を想っている娘だった。

だが子供のころから国中のいい女を喰いまくった俺にかかれば、堕とすのなんて簡単なものだ。

口八丁手八丁でたらしこみ、快楽を教え、そして贅沢に満ちた将来を提示してやるとあっさり俺に鞍替えした。

こんないい女があんな冴えない男の女になることなど許されないのだ。むしろ国中の女は全員俺に傅いて抱かれるべきだと思う。

いずれ第一王位継承権のある兄貴を暗殺し、第二位の姉貴は俺の奴隷にして俺がこの国の王になってやる。外遊に出ている親父や兄貴や姉貴のいない今このタイミング。何もかもが思い描いた通りに進んだ。ベルタはその第一歩にすぎない。

しかし何度やっても寝取りは最高すぎる。…次はどの娘を寝取ろうか。

俺はそんな事を考えながら、ベルタの胸に顔をうずめ、これからのバラ色の未来を思い描くのだった。


次の日、領地に戻った俺は両親や爺様に事のあらましを見せた。録画の術、という術式がある。

それは起きた事柄を魔力で映像として保存する術で、そういう術が使える事を何かあったときのために誰にも口外せずに秘匿していたのだ。俺はその術で婚約破棄された様子を水晶玉に保管していた。

王家に連なるものや大人のいない場であるからこそ何を言っても最終的にはどうにかなるのだろう、と、子供じみた浅はかな考えだったのかもしれない。まぁ、いちいち深く考える必要もないか。

「というわけでベルタとは婚約破棄となったよ。これで俺は自由でいいよね」

映し出された映像と、俺の言葉に両親は渋い顔をし、爺様はブチ切れていた。

「構わん。こんな扱いをされたんだ、もはやお前がこの国に尽くす必要はない。当主である私の決定だ、お前は好きにしろ」

親父の言葉に「そうさせてもらうよ」と俺は頷いた。

「デッカーランドの娘は馬鹿なことをしたな。わしも降りさせてもらう。国王にはその旨で親書を出しておく。…外遊から帰ってくるまでに『間に合えば』よいがの」

さて、これからこの国がどうなるか楽しみだ。


…と思っていたが、事態の変化は翌日、あっさりと起こった。

「へぇ…デッカーランド領が壊滅、ねぇ。ベルタも実家がなくなって大変だな」

屋敷に届いた新聞の一面記事をよみながら、特に感慨もなく呟く。

『デッカーランド侯爵領、山脈を越えて飛来したモンスターの群れにより壊滅。領地の特産である穀物は灰燼と化し、侯爵家の屋敷も全壊。領主一家は脱出したが、領民は』

凄惨すぎる内容に今頃王都はこの話題で持ちきりだろう。

「おお、カール。新聞をみたのか」

「爺様。ああ、まぁ、そうなるな…って。自業自得だろうけど」

「フン、最早ワシの関与する問題ではないわ、知ったことか。次は…」

俺と爺様はこの後起きることを予想、いや、確信していた。だが俺は何もしない。

なぜなら俺は「二度と王都に立ち入るんじゃない」とオポンチに言われているからだ。今何が起きているのか理解しているのはこのベルマン家の人間と、あとは現国王ぐらいだろうか。今頃バカ息子のでかしたことに頭を抱えているのだろうか?知らんけど。あぁ、自由って素晴らしい!

俺とこの領地は安全なのは理解しているので、ここから何が起こるのか、ドキドキワクワクしながら見守らせてもらうとしよう。


「ええっ?!お父様とお母様が!?」

早朝の早馬で知らされた報に、ベルタは顔面蒼白になっていた。自分の領地であるデッカーランド領がモンスターの大群に襲われ、領土は焦土と化し領民もモンスターの餌食になり、そして屋敷も全壊。生き残った一族の者は僅かな従者を連れて王都に避難してきた、との事だった。モンスターが飛来することなんで、今まで一度もなかったのに。それなのに、どうして急に…?!

頭の片隅で働いた女の勘に、なぜかカールの顔が思い浮かぶ。

…いいや、あんな昼行燈の冴えない奴がなにか関係している筈がないのだ。

バタバタとしているとオポンチ王子も起きてきた。

「何だ、朝から騒がしいじゃないかベルタ。とりあえず一発ヤろうぜ」

そういい抱き着いてくるオポンチを止め、事の次第を説明する。

さすがにオポンチも王子だけあり、驚く。

「あぁ…?モンスターの群れが?そんな事今までなかったじゃん」

だが、暫くした後でオポンチは鼻の下を伸ばしながら、ベルタの胸を両手で揉み始めた。

「まぁ、お前の実家は不幸だったが…この王都は安全だ。お前の家族だしうちで面倒みるから、何も心配なんていらねえさ。とりあえず一発ヤろ」

そんなオポンチの言葉を、爆発音が遮る。

「魔物だ!!魔物が来たぞー!!」


「「えっ?!」」


ベルタとオポンチが顔を見合わせ、着の身着のまま外に飛び出す。そこには空を飛ぶ様々な魔物、飛龍、怪鳥、キマイラ、そんな魔物達が火を噴き風を起こし雷を呼び毒をまき散らしながら王都の美しい街並みを破壊し、逃げまどう人々を貪り喰らう地獄絵図があった。王都は瞬く間に殺戮の餌場となっていた。


「ワオ、王都までいっちゃったのかモンスターたち。サラマンダーより、ずっとはやい!」

そんな独り言をいいつつ、新聞を見ている。昨日の今日で、デッカーランド領に続いて王都までもがモンスターに襲撃され、被害甚大。王都の防衛隊も空から飛来する魔物に対しては無力で、ほぼ一方的に蹂躙され悲惨な状態との事だ。

「あっちゃー・・・この国オワタ☆」

そういいながらコーヒーを啜る。言っておくが俺は何もしていない。いや、俺が何もしていないからこうなったのではあるが。まぁ、後の祭りだからどうしようもないよね。

ベルタを寝取られた後は凹む気持ちもあったが、進撃の魔物の速報をみていると愉快痛快な気持ちになってしまう。これが復讐は蜜の味というものだろうか?モンスターの被害にあった罪のない人々は可哀想だが。そんな事を考えていると、使用人に呼ばれた。

来客だそうだが、誰だろうね?


…国王と第一王子と第一王女様だった。

国王は顔真っ赤、王子と王女は何が起きたのかわからないという顔をしている。あぁ、この様子だと「知らされていない」んだなぁ。国王もご愁傷さま。外遊からまっすぐここにきたのかな?

「これはいったいどういうことだベルマン卿!!」

国王一行と対面する形で親父と爺様が座ってる。俺は最後に遅れてきたのか。

「そう騒ぐなよオッサン」

俺がぼそり、とため息交じりに呟くと国王はキッ、と俺を睨んできた。

「何じゃと…貴様誰にものを…!」

「俺はカール・ベルマン、ベルマン家の息子。で、ベルタを寝取られた負け犬でアンタの馬鹿息子に女を寝取られた情けない男」

別にもう国王を恐れる義理もないので、遠慮なく言う。

「な、なに…寝取られ…何じゃと?」

あ、この王様賢い人だ。俺の言葉から何が起きて、どうしてこうなったのかを理解したな?

…理解してしまったな?

顔の色は青を通り越して土色になりつつあり、汗なのか脂汗なのかわからないようなものでびっしょり。

「ご理解いただけま・し・た・カァ~?はいそういう事でーす。」

両手でパンパンと掌を叩いて煽る。

「どうした?笑えよ国王」

国王は口をパクパクさせてる。陸に打ち上げられた魚みてーだな、と思ってまた笑えるな。

「…カール。あれをだせ。」

「はいはい」

取り出したのは水晶玉。水晶玉が映し出す婚約破棄の様子に、コヒューコヒューとチアノーゼみたいな変な音出し始める国王。南無阿弥陀仏、成仏してくれよな!

「す…すまなかったあああああああああ!!」

映像が終わるや否やジャンピングダイブスライディング土下座をキメる国王。おっ、このオッサン思ったより面白いぞ。

「ワシの息子がとんでもないことをした…赦してくれえ!!」

国王の大絶叫が響き、王子と王女はポカーンとしている。

「いやでーす」

親父や爺様が何かを言おうとしていたが、それより先に俺が言ってしまう。

まぁ俺はもうウンザリだしなぁ。

「そ、そこをなんとか…なんとか怒りの矛をしずめてくれえ!」

そういって地面に何度も額をぶつける国王。

「や、そういうのいいから。うん。やるだけ無駄だからやめときなよ、ほら息子も娘もドン引きしてるよ」

「いいやそこをなんとか!!なんとかあああああああ!!」

「いやどすえー」

悪いけど俺は自由になった今の生活のほうがいいんだわ。

「…王が安易に土下座などするものではない」

爺様の言葉に動きを止める国王。

「王子も王女も何が起きているのかついていけてないのであろう。まずはその説明からせねば」

爺様がそういう。

「この国、元々は飛行タイプの魔物に狙われてた。で、うちの家系は代々ドラゴンライダーで国の防空を担ってた。でも王子に女を寝取られたからそんな義理も無くなったからやめた。そうしたら秒で魔物が来た。OK?」

爺様の言葉に続いて俺は王子と王女にわかりやすく、簡潔に説明する。

「は…?ド、ドラゴンライダー?そ、それは伝説上の存在では?」

「伝説ではないよ?ドラゴンはいるし、この国の最後の切り札だったんだよ。ほら、2人ともちょっと窓観てみて」

俺の言葉に窓の外を見る王子と王女。

『ぎゃおう☆』

青い甲殻に一本角を持つ、翼持つ竜がこっちをみて右手でピースサインをしていた。

こいつは俺の相棒のドラゴンである。俺の様子を見守ってくれていたんだね…後で尻尾のつけねをいっぱいトントンしてあげよう。

「ぎゃおう」

俺も同じようにピースで返しておく。

「「ド…ドラゴンー!?」」

王子も王女も両手を上に伸ばし、どっひゃあと鼻水を垂らしながら同じタイミング同じ動きで仰天する。目が飛び出してる様なギャグ顔。意外に面白いなこの人たち。

「勿論ワシも、息子である現当主も、そしてワシの孫も全員ドラゴンライダーじゃ」

俺の言葉に続いて爺様が説明を引き継いでくれた。あとは任せておこうかな。

「領主である息子はこの土地を、そしてワシはモンスターたちが向かってくる最前線にあたるデッカーランド領の守護を、そして孫は王都の守護をしていたのじゃ。この配置は代々一族のしきたりでな。空を飛ぶ魔物に対しての防衛は難しい。じゃが、ワシらベルマン一族は代々ドラゴンとともに生き心を通わせる一族。他国に知られぬよう、ドラゴンの存在を秘匿しつつ国を護り仕えていたのじゃ。他の貴族たちから目をつけられないように、わざと低い爵位でな」

ここまでの説明で、王子と王女はバカじゃなかったのか状況を理解した。

元々モンスターに狙われていたこの国をうちの一家が秘密裏に護っていたが、

弟君の馬鹿王子が寝取りをやらかしてしまったのだ。

「元々この国の空を護る仕事は多大な負担じゃった。いい加減ワシの代で役目を終わらせて別の地へいこうとしていたが、国王の頼みも有り、デッカーランド領の娘と一族になる事でこの役目を継いでいこうという話だったのじゃが…」

「もうそんな義理もないよね」

そう、日々生活しながら何かあるたびに最高速度は音の速度を超えるドラゴンに乗りながらモンスターを駆逐しに行くのは本当に大変だったのだ。

爺様の言葉に続けて今度は俺が言うと、サーッと顔色を変えた王子も国王の隣で土下座を始めた。おっと父親そっくりのナイスなジャンピング土下座ァ!

「愚弟が…愚弟がとんだ真似を!!」

「親子そっくりな土下座!だが断る。もともと大変だったし、無理してやりたいような事でもないしさ。あとは自分たちでなんとかしてよ。」

「うむ、爵位も領地も返上する。いい機会だ、ワシらベルマンの一族はこの国の守護の任を降りる。元々無理に無理を重ねて貯蓄をすり減らし苦労してばかりの仕事じゃった。ぶっちゃけ労働の内容と実入りがあっとらん。誇りややりがいなんかじゃ人間食っていけないんじゃよ」

爺様の言葉に絶望する国王一行。王女が立ち上がり、

「そ、それでは私が!私がカール殿に嫁ぎます!それであればいかがでしょうか?」

「え?やだよ俺おっぱい星人だから」

そう、第一王女の胸は絶壁であった。ズゥゥゥン、と沈み込む第一王女。

「頑張れ、貧乳はステータスとかいう言葉もあるからそういうのが好きな人もいるさ」

そこまで言ったところで、コホン、と咳ばらいを一つ。

「でも一応、国王と王子がジャンピング土下座をキメてくれたので今の王都の襲撃だけは俺が止めてきますよ。そっから先は、アンタ達で防空設備ととのえたりしてなんとかしてよね」

俺の言葉に、顔を上げる国王。

「でもそっから先はマジで知らないからね。…ブルー。行こうか」

そう言って窓のところまで歩いていき、窓を開くとブルー…俺のドラゴンが顔をすりすりと寄せてきた。かわいいやつめ。

「ちょっと王都にいるモンスター殲滅するからのっけてってくれる?」

『ぎゃおう』

2つ返事である。

「というわけでちょっくらいってきますわ」


「もうだめだぁ、おしまいだぁ」

震えるオポンチと抱き合いながら、ベルタは震えていた。

2人や貴族は王城に籠り、騎士たちに守られてはいたがすでに落城寸前で在った。

ワイバーンや、怪鳥や、キマイラや、様々な姿の魔物が城壁を破壊し、王城へと侵入しつつあった。もはやこれまで…そんな絶望が、そこにはあった。だが…。

「はいちゅどーん!ぼんぼーん!」

青い風が吹き抜け、城壁に取りついていた魔物たちが爆散していく。

「ブルーたん最高!かわいい!ナイスゥ!」

そんな声と共に吹き抜けた風がピタリと空中で動きを止め、そこには伝説の存在…青い一本角のドラゴンがいた。

その場にいた騎士や貴族たちは、その光景を夢か幻かのように見入っていた。

「今回だけは餞別代りに助けてやるから、まぁみておれ」

ドラゴンの背中から顔を出し、声をかけるのは先日この王都を追い出された少年、カール・ベルマンだ。

「はいブルーちゃんどんどんブレスはいてこー上上下下左右…」

『ぎゃおぎゃおう♪』

青いドラゴンが口から火球を飛ばすたび、命中した魔物が爆殺されていく。

「ろうそくみたいできれいだね!」

そういいながらドラゴンの背中でけらけら笑うカール。

城壁に取りついていた魔物を瞬く間に殲滅し、今度は市街地へと向かうと一刻もたたぬうちに、王都を襲っていた魔物をすべて駆逐したのであった。

「嘘…あれ、カール?」

そんなカールの背中を、姿を見て、ベルタは言葉を失っていた。


そしてそこからは慌ただしく状況が変わっていき、魔物の襲撃から一週間がたっていた。ドラゴンライダーの存在を秘匿できなくなった国王は王族や貴族たちにドラゴンライダーの存在と、ベルマン家についてとその婚約の意味についての説明をした。

当然、この事実を知った中でこの襲撃で命を落とした者の家族や生き残りたちは特に怒った。事の発端である第三王子と婚約者であったベルタの処刑を望む声も噴出した。何より、人知れず国の空を護り続けていた存在を失う事への恐怖、不安がそれを加速させていた。そしてカールは最後に一度だけ、と王城に招聘され、まぁ面倒くさいし嫌だけど…最後なら、と文句を垂れつつ渋々王城へと向かった。


丁度謁見の間の壁が破壊されており、そこにブルーで乗り付ける。

「ありがとブルー、ここで待機しててくれよな」

そう言ってブルーの喉をさすりさすりと撫でると、「ぎゃおおおん♡♡」と可愛らしい声をあげる。かわいいね!

「はいはい、呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン、ドラゴンライダーのカール・ベルマンです」

軽口をたたきながら歩いていくと、玉座には王が、その左右には王子と王女が、そして左右には名だたる貴族たちが並び、固唾をのんで見守っていた。

「何?皆仰々しいわねぇ」

へらへらと笑いながら玉座の前まで歩いていく。

「で、何ですか?俺、というかうちの一家もう出立する準備万端ちゃんなんだけど?」

国王と言ってももう赤の他人なので跪くこともなく、適当に話しかける。

「…この度の件、真にすまなかった」

そういい改めて頭を下げる国王だったが、別にそんな事をしてほしいわけでもない。

「あー?そういうのはもういいんで。後は頑張って再建なり遷都なりお好きにドーゾ」

俺の言葉に、渋面を浮かべる国王。

「…連れてまいれ」

国王が側近に指示すると、鎖の音が鳴り、2人の男女が連れてこられた。

全裸の第三王子オポンチと、ボロの服を着せられたベルタだ。

「離せ!俺は王子だぞ!」

「黙れオポンチ!貴様は廃嫡だ!」

叫ぶオポンチを、国王が一喝で黙らせる。なんだ、腐っても王らしいところあるじゃん、とか少し感心する。それ以上の事は何も感じないけど。

「…カールよ、この2名の処遇をそなたに委ねる。それで溜飲を下げてもらう事は出来ぬか?」

え、何?今更?というかそんな事のために俺、呼ばれたの?

…くっだらねぇ!!と思うが最後だしきちんとしておこう、と口を開く。

「無理ですね。もうそこの2人には何の興味もないので」

そんな俺の言葉に、なぜか悲壮な顔をするベルタ。

「カ…カール!ごめんなさい!!私、貴方がこんな凄い人だなんて知らなくて、王子に騙されて、それで、あの、私、わた」

何故か涙をこぼしながら支離滅裂な言葉を言うベルタ。

「いやいいよ別に謝らなくて。謝るくらいなら最初からやらなければいいだけじゃん」

俺の言葉に、ぐっ、と言葉を詰まらせるベルタ。

「で、でも本当に!貴方を愛していたんです!王子に騙されて…!お願い、許して、助けて!」

ベルタの懸命な懇願だが今の俺には微塵も響かない。

「もう俺とお前は関係ない。俺からはそれ以上いうべきことがない」

「そんな…何でもします!あなたに尽くします!もう裏切りません!お願いします!」

「え?いやだよヤリチンに抱かれた女なんて」

指さしながらケラケラ笑ってやると、顔を真っ赤にするベルタ。

ほら恥じ入るでもなく怒る。助かるために俺の情を誘おうと必死だっただけだ。そんな事お見通しなんだよね。

「私を好きにしてもいい、何をされたってかまわない、お願い、ずっと一緒だったじゃない!子供のころから一緒だった幼馴染じゃない!」

「それを裏切ったのは君だよね」

「何だっていい、助けて!このままじゃ私処刑されちゃうかもしれないのよ!!可哀想だと思わないの?!」

「え?別に…」

自分に都合の悪い今の話の流れは無視して、助かるために必死に叫ぶベルタ。うーん、正直不愉快すぎて耳が腐りそう。

『ギャオオッ!!!!』

俺の心の不快感を感じたのか、ブルーが咆哮を挙げた。腰を抜かしたオポンチとベルタが失禁してる。

「ともかく俺達ベルマン一族は、これで貴国とは縁切りです。あとはどうぞお好きに。それでは」

言う事だけ言って踵を返す。衛兵たちが槍を構える様子を見せるが、ブルーが睥睨しているので誰も動けない。

俺はブルーの背に跨ると、颯爽と飛び立ち…

「ちょやぁぁぅぅっ!!」

城壁から飛び立ったブルーの尾に何か…否、誰かがジャンプしてしがみついていた。凄い勢いでダッシュしてきてとびついたのか。

「あぁん?…げっ、乳無し王女か!!」

ブルーの尻尾の先に両腕両足でしがみついているのは、先日うちにもきていた第一王女(バストサイズA確定)だ。名前そういやしらんわ。誰だよ君。

「お、お待ちになって!!私も連れて行ってください!!」

「えー?嫌だよ人さらいになっちゃうじゃん。すぐUターンしてもどるから」

「そんな事するなら今この両手足を離して落下死してやりますわ!そうしたら王族殺害の犯人ですわよ!!」

「おどりゃクソまな板王女ォ!どっちにしろ犯罪者になるだろうが!!」

「これが頭脳プレイ!!」

風圧で顔をプルプル震わされブッサイクな顔になりながら負けじとしがみつく王女(胸はない)。

「書置きをしてきました!私はカール様についていきますと!!」

「しるかボケ今すぐ王城に送り届ける」

「ではアデュー」

俺の言葉に躊躇なく両手足を離し空中を落下していくぺったんぺたぺた胸ペッタン王女。

胸の前で両手を組み、瞳を閉じた王女がスイーッと落ちていく。

「何考えてんだ阿呆ー!」

「受け止めなさいカール」

「畜生!」

ブルーが即座に方向転換してくれたので、空中でとっ捕まえて背中にのせた

貧相な胸の王女が俺の腰にしっかり掴まる。

「無茶するなアンタ。…で、どうしてこんなことしたんだ」

「はい。まず、あの国は滅びます」

おっ、理解が早い。俺もそう思う。

「なので王家の血を残すためにカール様についていくと書置きを残しました」

何この王女すげー判断が早いんだけど。

「あと普通に死にたくないのでカール様についていった方が生き残れそうなので」

それは間違いない。げらげらげら。

この扁平胸王女もイカれてるなーと感心してしまった。

「あと私は男性経験はありませんので任せてください!」

「頼んだよ、じゃないんだよなぁ。大体アンタの名前も俺は知らんぞ」

「私ですか?私の名前は…」


そんなこんなで、顔はいいが胸のない王女が無理やりついてきた。これからあの国は大変な思いをするかもしれない。第三王子や幼馴染だった女はどうにかされるのかもしれない…もはや興味もないが。

「子供をいっぱい作りましょうね、カール様♡」

割と生き汚い残念胸王女に、ブルーが嫉妬の声を上げている。

ブルー…お前雌だったのか…。

この国を旅立ち、一族で次の安住の地を探した先で何かいいことがあるといいなー。多分いい事あるさ!

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