第二章 熱田(2)
吉法師は寝所へ下がったが、本当に寝るつもりなどなかった。
自分より四つか五つ上の小姓が次の間に控えていたので、申しつけた。
「久助を呼べ」
「はっ」
小姓は次の間を退出し、すぐに長身の少年を伴い、戻って来た。
少年は背丈ばかりでなく肩幅があって胸板も厚く、大人と変わらない
だがその上に載った顔は幼さを残し、にこやかに白い歯を見せて愛嬌がある。
この者が滝川久助だ。
年は十四と吉法師は聞いている。体格ではその五つか六つ上と思えるが。
久助は床に片膝をついて、笑みのまま吉法師に言った。
「お召しでございますか」
「熱田へ参る。伴をいたせ」
「御参詣でございましょうか」
にこやかに問い返す久助に、吉法師は眉をしかめる。
十蔵なら、このような無駄なことは言わない。
すぐに下がって外出の準備にとりかかるだろう。
「……町と湊にも参る」
「それでは日のあるうちに戻れますかどうか。いや、でもはい、馬を飛ばせばどうにかなりましょう」
軽い調子で久助は請け負い、
「それで、供回りは、いかように」
「……そのほう一人でよい」
吉法師は怒りを押し殺し、答えて言った。
調子のよすぎる久助の態度は腹立たしいが、これでも気の利いた者だと備後守は言うのである。
ならば手元で使って器量を見極めるほかはない。
「お……お待ちくださいませ、それでは我らがお叱りを受けまする」
小姓が慌てて口を挟んだ。
「どうか、ほかの近習の方々もお連れいただくか、我ら小姓衆をお供にお加えくださいませ」
「無用じゃ。誰がうぬらを叱ると申すか、林か平手か」
吉法師は眉を吊り上げる。
「この城の主は儂じゃ。うぬらは儂の申すことに従えばよい」
「は……申し訳ございませぬ」
小姓は平伏した。
久助のほうは、にこやかな笑みを崩さぬままで、
「それでは馬など支度いたします。用意が整いましたらお声掛けいたしますので、御免」
ぺこりと頭を下げて、引き下がった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます