一人の、一つの気持ちの切り取り。それを飾らずに、あるがままに表現していたのが非常に魅力的でした。小説に限らず、創作をする方には自覚があるかもしれませんが、どうしても自分の作品を美化してしまいがちです。こんなにも精緻な作品なんだから、感動してほしい。深いメッセージを込めたから、読者が納得するのは当たり前。自作には誰にも真似できない素晴らしさがある、などなど。そうした気持ちもよくわかります。
ですが、本作からはそうした意図がまったく感じられませんでした。ただ、そこに気持ちがあって、一つの考え方がある。あとは読者が好きに感じるだけ、と。別に、突き放しているわけではありません。純粋に自然体なんですよね。そうした作家と読者の間にある絶妙な距離感が、個人的には好きな部分でした。まるで、自分も作品の一部になっているような感覚を味わえます。
三千字ほどの短編ということで、スキマ時間にも手が出しやすい作品なので、興味を持った方は是非とも読んでみてください。