第49話 終末を告げるドラゴンとの戦い

「そのつもりだよ。ヴァルガスさん、ラグナロクドラゴンについてもっと教えて欲しい。俺たちも自前に調べてはいるが、大まかな特徴しか知らないからな」


「あんたらには世話になっているからな。包み隠さず教えよう。ラグナロクドラゴンは空を飛んでいるため攻撃を当てることが難しい。また、強力なブレスを吐くことができる。さらに、火属性の魔法を自由自在に操れる」


「火属性の魔法とは具体的にどのようなものなのでしょう?」


「いわゆるファイアーボールだよ。ただ、当たり前のことだが威力はかなり高いぞ。新米の魔法使いが使うようなものを想定していると痛い目にあう。さて、次は奴らの弱点について説明する」


「弱点がありますのね」


「まず、氷属性の攻撃は非常に有効だ。逆に炎属性には強い耐性がある。それと水属性にも弱いようだが、氷属性ほど有効ではないぞ。まぁ、水属性の攻撃でも温度の低い水魔法の攻撃に関してはそれなりに効果がある」


「なら、氷魔法が得意な私の出番ですわね」


リーゼロッテは自信ありげな表情を浮かべている。彼女の実力ならば大抵の敵に対しては有効なはずだし、今回も活躍することだろう。


「そうだな。よし、それじゃあ、次にどうやって倒すのかについて考えるとしよう。ヴァルガスはこれまでに他の冒険者がどうやってラグナロクドラゴンを討伐したのか知ってるんじゃないか?」


「ああ、知っているよ。まず、特殊な武器や魔法を持っている奴が麻痺させて動きを止めてから、氷属性の使い手や重装騎士といった攻撃力の高い連中が一斉に攻撃をするという流れが多いみたいだ」


「ふむ。わざわざ動きを止めて倒すということは、それなりに素早いのか?」


「ご名答。ドラゴンは空を飛べる種が多くて厄介だが、ラグナロクドラゴンは動きも速いせいで攻撃を当てるのも難しい」


「分かった。それじゃあ俺が魔法によって動きを阻害していくから、リーゼロッテが氷魔法でダメージを与えていくこととしよう」


「賛成ですわ」


「よし、なら後は成体のラグナロクドラゴンを探すだけだな」


「ちょっと待ってくれないか?」


いざ出発しようとしたところでヴァルガスが話しかけてきた。彼は懐から小瓶を取りだす。


「さっきから空気を浄化するために魔力をつかっているだろ? こいつは魔力回復薬だ。飲んでおくことをオススメするぜ。ラグナロクドラゴンを探している間に魔力を回復させることができるはずだ。ラグナロクドラゴン討伐がお2人の昇格試験である以上、俺は直接手出しができない。なので代わりにこういったサポートをさせてくれ」


「それは助かる」


魔力回復薬で魔力を回復させるのには時間がかかる。胃袋で消化されない限り身体に吸収されないのだから当たり前だ。しかし、今から飲んでおけばラグナロクドラゴンと戦う前に魔力を回復できる。


「分かってるじゃないか。まあ、お前さん方だからそこまで苦戦する事はないと思うが、油断だけはしないでくれ」


「了解だ。それじゃあ、ソラス」


「キュイイ!!」


ソラスは空高く舞い上がった。空中から成体のラグナロクドラゴンを見つけるためだ。



◆◆◆◆◆◆



そして数十分後。上空にいたソラスが地上へと戻ってきた。


「見つけたか!?」


「キュイーーーン!!!!」


「見つかったようですわね! 行きますわよ!!」


「ああ」


俺たちはソラスの後に続いて歩きだす。すると、前方に大きな岩山が見えてくる。その頂上付近に赤い鱗に覆われた巨大なドラゴンの姿があった。どうやらあの場所が奴の巣らしい。周囲には数匹の幼体がいる。


「間違いありませんわね。成体のラグナロクドラゴンですわ」


「これはチャンスだな」


俺たちはラグナロクドラゴンの様子を岩陰からこっそりと覗いているため、奴らは俺たちがいることに気がついていない。つまり、先制攻撃をすることができる。


「彼らにもっと近づきたいですけど、途中で気が付かれたらまずいですわね」


「そうだな。透明マントを使う時が来たようだ」


「え? 透明マント?」


ヴァルガスが怪訝な声をあげる。


俺とリーゼロッテは魔法の袋から透明マントを取りだすと魔力を流して頭から被る。


「消えただと!?」


「ヴァルガス、落ち着くんだ。俺たちは透明になっているだけだよ。ここにいる」


「そうか。取り乱してすまない。確かに透明な状態であればラグナロクドラゴンに近づけるはずだ。俺はここで待っているよ」


「承知した。行くぞ、リーゼロッテ」


「ええ」


「ソラスはヴァルガスと共に残って俺たちの戦いを観察してくれ」


「キュウ!」


俺とリーゼロッテは成体のラグナロクドラゴンに向かって慎重に進む。まず最初に俺が成体のラグナロクドラゴンに向けて魔法を放つ。


「ライトニングショック!!!」


「グルルルル!!!!!?」


巣の中で眠りこけていた成体はマヒ状態となり、自由に身動きがとれなくなった。


続いてリーゼロッテの氷魔法による攻撃が始まる。


「喰らいなさい!!『 マルチ・アイスニードル』ッ!!!」


鋭い氷針が無数に放たれる。幼体たちは回避しようとするが、数が多すぎて避けきれずに串刺しにされていった。


「グギャアァァアッ!?」


当然、アイスニードルは成体の身体にも突き刺さる。


「次はこれですわ! 『ブリザードストーム』!!!」


吹雪が巻き起こり、無数の氷柱が渦の中心に吸い込まれていった。凄まじい冷気がラグナロクドラゴンを襲う。


「グアオオォオオッ!!」


氷漬けになった幼体たちが息絶えていく。これで残りは傷だらけとなった成体のみだ。


「よし、このまま一気に片付けるぞ」


「了解ですわ!」


俺たちはラグナロクドラゴンに向かって全力疾走した。そして、十分に近づいたところでリーゼロッテが魔法を放つ。


「凍てつきなさい! 『絶対零度』ッ!!!」


少しずつ成体の巨体が氷結していった。もともとマヒ状態になっていたこともあり、成体は完全に身動きが取れなくなった。


「雷光一閃」


刀身に雷を帯びた剣を成体の太い首筋に突き刺す。首からは多くの血液が流れ、ラグナロクドラゴンは倒れ込んだ。


「ふう……終わったな」


「やりましたわね」


2人でハイタッチをする。こうして、無事に成体のラグナロクドラゴンを倒すことに成功した。後は素材を回収してから帰るだけだ。


俺はラグナロクドラゴンの死骸から翼と尻尾を切断し、背中の部分にある逆棘を斬り落とした。さらに爪と牙、皮を剥ぎ取り、背骨や食用となる部位の肉も切り取る。


それらを布で包み、魔法の袋へと収納していった。


「よし、こんなところかな」


「他の部位はどうしますの?」


「大した値打ちにならないし、そのままにしておこう。きっと魔物がきれいに食べてくれるはずだ。さて、これで昇格試験は終わりだ。今日はとりあえずエルプティオ村に戻ろう」


「分かりましたわ」


俺たちはヴァルガスの元へと向かう。彼はソラスに豆のようなものを与えていた。付近にも気体となった硫黄が立ち込めているが、ソラスが結界を張っているので快適だ。


俺は彼らとともにエルプティオ村に帰還した。

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教会をクビになった祓魔師の俺は冒険者になって特殊な依頼を解決する 紫水肇 @diokuretianusu517

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