祈りだけが残った
物部がたり
祈りだけが残った
昔から語り継がれる物語には、普遍的なテーマがある。
当たり前の教訓や心理を書いているが、歳を重ねれば重ねるほど、しみじみと作品の良さがわかるのだ。
例えば、遥か昔から語り継がれるギリシャ神話には『パンドラの箱』あるいは『パンドラの壺』というエピソードがある。
昔々プロメテウスというティターン神族の神様が、最高神ゼウスの元から火を盗み人間に与えてしまった。
ゼウスも人間への嫌がらせで火を与えなかったわけではなかったのだ。聖書の神様が人間に知恵の実を与えなかったことと同じ理由からだった。
だが、ゼウスの想いも知らず、いやプロメテウスの罠だったのか、プロメテウスは人間に火を与えてしまった。ゼウスの予期した通り、人間は火を手に入れたことで争いは激化した。ゼウスは怒り、人間に火を与えたプロメテウスを生きながら鷲に肝臓を食べら続けるという罰を与えた。
プロメテウスは不老不死であり、鷲に食べられた肝臓はすぐに再生し、永遠に鷲に肝臓を食べられ続ける無限地獄だった。
それだけではゼウスの怒りは収まらず、ヘパイストスを始めとした神々に「パンドラ」という女を創らせ、決して開けてはならない箱を持たせて人類に与えた。
パンドラが創られる以前は人類には男しか存在しておらず、彼女の登場により、人類に男性が誕生したという。
パンドラは地上に降ろされると、プロメテウスの弟であったエピメテウスの妻となり、決して開けてはならないという箱を好奇心を抑えきれずに開けてしまう。
すると箱の中から、疫病や欠乏、悲嘆、などの災いが世界中に広まり、箱の底に希望だけが残ったため、人間は絶望に暮れずに生きていけると伝わる。
それらの物語が伝えていることは、人間の
プロメテウスが人間に火を与えたがために、ゼウスが危惧した以上に戦争の規模は拡大し、地球を滅ぼすことができるほどの兵器を生み出すに至った。人間が神を越えた日である。
地球を滅ぼすことができる兵器を振りかざし、力を誇示し、牽制し、それだけに飽き足らず、度重なる世界大戦が数十年の周期で起こった。
戦争が終わるたびに、人々は争いの悲劇を教訓として「平和」を掲げるが、歴史から学べる人間は世界のどこを探しても存在しなかった。
とうとう自分たちが暮らす地球を再生不能なほど破壊尽くして、やっと何度目かになる「平和」が掲げられた。
「過去の愚かな過ちはもう二度と繰り返さない! 我々は一致団結して、争いを根絶する!」
世界の国々は歓喜を持って、二度とこのような過ちを繰り返さないために、核兵器封印・科学技術規制条約、通称「パンドラ条約」に合意した。
核兵器をはじめとする強力過ぎる兵器の製造技術の
「パンドラ条約」の条文が収められた箱には、平和への祈りが書かれていた――。
祈りだけが残った 物部がたり @113970
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