第208話 弾丸

「それならいかせてもらうで! お前ら、配置につけッ!」


「ラジャー!」

「オー!」

「ッシャアアアアアア!」


 カオスゼブラのメンバーは何やら、フォーメーションのようなものを作り出す。その姿はキックオフ直前のサッカーチームのようで、彼らの戦意が本物であるということが垣間見える。


 今から、「何か」が始まる。言葉を交わさずとも、アキヒコとヒュウマはそれを瞬時に悟った。確実にヤバい何かが、襲ってくるのだと。


(……ヒュウ)


(……ああ。やるぞ、しっかりと)


 アキヒコとヒュウマは目でお互いのメッセージを送る。散々バッテリーを組んできた2人だ、戦場での意思疎通など容易いことだ。


 そうして、ついにその時は訪れる。カオスゼブラの11人は同時に足元に光球のようなものを作り出す。それを一糸乱れることなくリフティングの動作で宙に浮かし、同時に蹴り飛ばしてきた。


「仕留めるなら早いこと仕留めたほうがええ……今までの不満、受け止めてもらうでェェッ!」


「……アキヒコッ!」


「あぁ……"固定"ッ! 留まれェェェェ!」


 ガタンッ! 質量のない、エネルギーだけの存在。そこから鉄球同士をぶつけたような重い音が響き渡る。11つの光球はブルブルと震えながらも空中にて止まる。


「どれだけだ、どれだけ耐えれる!?」


「……へっ」


 ヒュウマが問うが、アキヒコは歯を食いしばりながらも笑顔を見せるだけだ。だがこれが虚構の余裕であることを瞬時に悟ったヒュウマ。それ以上何かを語るわけでもなく、無言で全力を出す。


「……オラアアアアアアアアアッ!」


 ガタガタ、ギシギシと揺れ動いていた光球は少しずつカオスゼブラの方へと歩み始める。重い荷物を押して移動させるように数センチずつ、ゆっくりと動く。


「ヒ、ヒュウッ!?」


「……当たり前だろ」


「最高だな、本当にッ!」


「「オラアアアアアアアアアア!」」


 2人はありったけの力を光球に解き放つ。均衡は破れ、ついにエネルギーはカオスゼブラに反旗を翻す。


「コレがアキヒコとオレの!」

「これぞヒュウとオレの!」


「「合わせ技だああああああああああッ!」」


「な、何やて!? 合体技やと!?」


 光球は少しずつ速度を増し、ついに「打球」となった。ライナー性のその打球は、容赦など一切することなく跳ね返っていく。


(なんて奴らや……オレら11人の合わせ技がこんな簡単にや振られるなんて、あいつらタダ者やない! こうなったらこっちも一肌脱ぐしかなさそうやな……)


「……おい、やるぞ。"アレ"を!」


「ア、ア、アレだって!? キャプテン、いくらなんでもそれは……!」

「その通りですよ! キャンパスがまたボロボロ状態に戻ってしまう、そしたらサッカーがまた遠のいてしまいますって!」


「だから『抑えて』やるんや、『抑えて』。 出したらあかん威力の閾値が100やとしたら、99くらい、いや90でええ。90の威力であいつらを潰してやるんや!」



「……あいつら、何をコソコソ話してるんだ?」


「分からん、だが技を跳ね返したにしては奇妙なほどに悠長だ……気を引き締めるぞ、ヒュウ」


「ああ、もちろん」


 アキヒコとヒュウが跳ね返した「打球」はカオスゼブラに衝突寸前である。その瞬間、カオスゼブラの11人は一斉に「打球」を脚で防ぎながら、全身の力をそのつま先に集め始めた。


「……あれは!?」

「……まさか!?」


「ギャハハハハ! どうやら"分かってしまった"ようやな、自分達の行いが間違ってたっちゅーことをッ!」


「この技の名前は"弾丸"ッ! その名の通り、お前らなんて簡単に貫通してしまうおっそろしぃ〜技だ! もっとも、出したことはこれで2回目、オレ達にもお前らがどうなっちまうかなんてはっきり分かんねェ!」


「後悔するんだな、グラウンドの恨みはそれくらい恐ろしいってことだ! さぁ喰らいやがれ、"弾丸"をぉぉぉぉぉッ!」


 再び、襲いかかるカオスゼブラの合体技。それは先程のものとは比べ物にならないほど大きく、恐ろしく、嫌なほど光り輝いていた……。


「……止めるぞ、ヒュウ」


「……ああ! いくぞぉぉぉぉ!」


「フハハハハハハ! やれるもんならやってみろや、この技はあのヒビキとかいう奴すら吹き飛ばす自信がある、いやそのために開発した技や! アイツら、調子に乗りすぎてたからな……"あの方"に歯向かうなんてなァ!」


「「あの方に、歯向かう!?」」


 アキヒコとヒュウマが異変に気付いたその瞬間、弾丸は2人のすぐ目の前にまで迫っていた……。

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