第209話 散り散り

「……ここに来るまでに何人も見たな、こういう感じのヤツ!」


「ああ。まさかこいつらも同じだったなんてな……!」


 アキハコとヒュウマの、大学への道中。ユウヤ達が各地で対峙したように、カオスゼブラのメンバーもホリズンイリスの手駒になっていたのだ。



――――――

『ふぅ〜! 野球できんの久しぶりだなぁ〜!』


『ヒュウ、テンション高すぎだろ! ま、オレも楽しみさ』


『だよなぁ〜! あれから1ヶ月くらい経ったもんな、早いのか長かったのか……って、なんだアイツら?』



『ホリズンイリス一族、バンザーイ!』


『『バンザーイ!』』


『我らは"あの方"のためにー!』


『『"あの方"のためにー!』』


『この腐った文明は、謝罪と共に駆逐されるべきだー!』


『『駆逐されるべきだー!』』



『うーわ、何アイツら、怖ッ! めっちゃアクセ付けてるし……あれバズってたやつよな?』


『しっ! 声が大きいぞ、ヒュウ! でも……不気味だな。変な胸騒ぎがする』


『あぁ……絶対にただの演説じゃない。もっと強大な何かが動き出しそうな香りがする……ま、関わらない方が良さそう。さっさと行こうぜ』


『そうだな……行こう』

――――――



「ヒュウマにアキヒコォ! 第一、オレ達に黙ってグラウンドを手渡しとけば痛い目見ずに済んだのになぁ〜! "あの方"は怖いでぇ、容赦なんて知らぬ方だからなぁ〜!」


「うわ、やっぱりさっきのと同じじゃないか! やべぇ、これは大ピンチだ……!」


「ああ。決して目を離すなよ……せーので技を跳ね返すッ!」


「アァッ!? まだ逆らう気なんかい、この技を目の前にして……ま、度胸だけは褒めてあげるわ。でも、お前らは勇敢なんかやないぞ。強いて言うならば……無謀や」


「何――」


 不気味に笑うカオスゼブラのキャプテン。その口元には怪しく輝く、やや大きめのピアスが輝いている。そこから反射するかすかな光が、2人が最後に見る明かりになると悟ったときにはもう遅かった。


「……アキヒコ」


「……ヒュウ」


 間に合わない。どうやっても、間に合わない。同時に2人はそれを察した。

 その動きはまるでガウス加速器の鉄球。急にメーターを振り切り、ヒュウマとアキヒコに襲いかかる。反撃する間など与えられず、理不尽に2人はカオスゼブラの前に散っていった……。せめてものバリアを貼り、グラウンドへの被害を最小限に抑えながら。


 グラウンドには隕石でも落ちたのか、というほど大きな穴が作られた。再びキャンパスを破壊されてたまるか、そんな2人の思いが皮肉な形ではあるが叶ったのだ。


「……なーんや、結局弱いんやないか。残念やわ……ま、お前ら行くぞ、早速念願のサッカーを――」


「はい、お疲れ様でした〜。あの子のお友達を片付けてくれて、ありがとね。ほら、手を出して。約束通りのアレよ」


「……ああっ。そういや、そうやったな……」


 スズはキャプテンをねぎらう。裏で約束していた報酬を受け取ろうと手を差し出した瞬間、その腕は力強くスズに鷲掴みにされる。


「グアッ!?」


「キ、キャプテン!」

「大丈夫ですか!?」


「アアア、アアアアアアアアアア!」


「遅いのよ! 技跳ね返された時はヒヤヒヤしたのよ、恥かかせやがって、この無能……! 消えなさいッ!」


「グア、グアアアアアアアアアアア……!」


 キャプテンは消えた。野犬に骨の髄まで食い尽くされたかのように、跡形もなく。

 10人のメンバーは状況を理解できない。キャプテンの命を奪われた怒りなどゆうに超えて、もはや何も思いつかない。ただただ、立ち尽くすのみだ。


「……所詮、無能の集まりね。人間社会って」


 そんな恐ろしい女スズは、ある目的のために大学を後にした。次はどこへ向かうのか、それは誰にもわかるよしもない……

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