第206話 アキヒコ、ヒュウマバッテリー
「安心しろ。オレたちゃ女に本気は出さないスタイルだ、少し反省させるだけで済むからよォッ!」
「その通りだぜ。だが2人、一緒に戦えば話は別。だって単純に2倍に威力が膨れ上がるんだからなぁ!」
アキヒコとヒュウマ。彼らはリサトミ大学、錬力術野球サークルのメンバーである。彼らの錬力術の実力は人並みであるが、友人のユウヤ達があれだけ頑張っている中、自分達が戦いから逃げるなんてことはできなかった。
「……じゃあ。オレは早速いつもの"位置"につかせてもらうぜ。アキヒコ、いつもの『アレ』。見せてやろうぜ」
「ああ。ヒュウとオレのバッテリーは絶対に関西ナンバーワン! 翻弄してやるよ、黒尽くめのお姉さんよォ」
(一体何? かなり距離がある、挟み撃ちの形になって……)
ヒュウはおよそ18メートルほどアキヒコとスズから小走りで離れる。一方アキヒコは軽くストレッチをしてから、中腰で左手を体の前で構え、右手では指で5,4,3,2,1と数字をカウントする。
スズのすぐ後ろにはアキヒコが立ち、その18メートル向こうにはヒュウマが立っている形だ。
「……覚悟はしたか? 見知らぬお姉さんッ!」
「……まさか!」
ヒュウマはどこからか「ボール」を取り出し、スズに向かって剛速球を投げてきたのだ。
スズは思い出した。ユウヤの技、タイフーン・ストレートを。だが1つ違うのは、このボールが本物のボールである、ということだ。
(あのヒュウマとかいう男、いつの間に野球ボールを!? まさか能力は物体の生成!? いや、もしくは――)
「どこ見てんだ、しっかりと
「なっ!?」
ヒュウマが投げたボールは突如舞い上がり、スズの頭上でぷかぷかと浮遊していたのだ。
「こ、これは……!」
「おっと、バレちゃったか。オレの能力は『物を好きなように動かす』能力! 引っ越しのときとかマジ助かるんだぜぇ。戦いのときにはさらになァッ!」
「……こんなものッ!」
スズはあわてて錬力術で落ちてくるボールから身を守ろうとする。だがそのボールはまるで意志を持っているかのように、スズの身体に食い込んでくる。
「なっ……! 重い、一体何なのよ……!」
「これはオレの能力だぜッ!」
アキヒコは自信満々に教える。
「オレの能力は『固定する』能力! そのボールを跳ね返そうなんて不可能だぜ、なぜならオレが今! ボールに身体を削られ続ける状態を作り出してみせたんだからなァッ!」
「オレとアキヒコの
「ヒュウとオレの
「「二律背反、かつ表裏一体ッ! これがオレ達の"力"ッ! さぁ、頭下げるまで喰われ続けろォォォォォ!」」
「チッ! 面倒くさいことしてくれるじゃないの、それならこっちだって少しだけ本気を、ケルベロス……コンパウンド……ッ!?」
煩わしいことが嫌いなスズ。予想外の戦術に足元をすくわれてしまったが、錬力術の実力自体は自身の方がずっと上のはず。ならば手っ取り早くけりをつける! そう思い立ち少しだけ本気を出そうとしたが……スズの身体は金縛りにあったかのように動かないのだ。
「こ、これは一体!? いやあり得ない、神の一族であるこの私が……!」
「誰がボール"だけ"を固定すると言った! オレが固定したのは……そのボールとお前の身体だ!」
「……チッ! 読めない、たかが人間の思考なのに! 落ち着け、落ち着け私!」
天才。天才が故の失態。スズの知能は、高い。高いからこそ、時折単純なことを「あり得ない」と切り捨て失敗する。
一方、アキヒコとヒュウマの知能は並レベルだ。だが、決して油断しない。幾度のピンチを乗り越えてきたコンビは、常により良い策を模索し続けてきた。それは、今も変わらない。
「残念だがおしまいだ! ズバッとど真ん中、とどめの一発だぜ! タイフーンストレート……こうやるんかなあァァァァァァ!」
(タイフーン、ストレート……ですって!?)
間違いない。タイフーンストレートはユウヤの技。風を切り裂き、周りの空気を巻き込み、目まぐるしい回転と共に飛んでくる「球」。100マイルなど優に超えているであろう直球が、真っ直ぐスズに向かって進んでくる。
ただ違うのは、野球ボールか風で固めて作ったかの違い。それ以外は、まるっきり同じだ。
(チッ……マズイことになったわね! こうなれば……奥の手を使うしかッ!)
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