第205話 故郷 その2

(これはただの親子喧嘩。そう、命を奪ったりはしない。あいつが言っていた「周りの人間を不幸に陥らせる呪い」をここで発動させるための……)


『アンタには……ざっと数えて5体は聖霊が取り憑いてるね。中でも最もヤバい影が見えるのよね。そいつがアンタの友達、身内、知り合い……すべての魂を喰らい尽くそうと。つまり破滅に導こうとしてるわ』


(……だとすれば、やっぱりこうするしかねぇんだ)


 ユウヤはもはや自分が仲間の死の元凶であることを認めてしまっていた。というより、認めなければ先に進めないと考えたのだ。

 自分が疫病神ならば、その呪いを神域に持ち込んでやるんだと。外界から離れることで、仲間のもとから姿を消すことで……それ自体が、仲間を守り続けることになるのだと。


 これはあくまで時間稼ぎ。そう、こっちに呪いの矛先が向くための時間稼ぎ、時間稼ぎ、時間稼ぎ、時間稼ぎ――


「……何をぶつぶつと言っているのだ、今は戦争中なのだぞッ!」


「……しまっ――」


 失態。完全に自分の世界に入ってしまっていた。ユウヤは刹那の隙を付かれ、オーディンの勢いをつけたパンチで吹っ飛ぶ。


 オーディンの眉間にはシワがよっている。息子の姿が情けない、息子がいきなり反抗してきた……「息子」に対する様々な怒りが爆発し、その拳の威力を高める。


「……情けない! ああ情けない、情けない! やはりクソみてぇな世界でなまっちまったようだな! こんなことになるくらいなら……」


 オーディンは全身に力を入れる。辺り一帯に自響きが起こる。オーディンの怒りはやはり本物のようだ。


「最初から、処分しておくべきだったのかもなァァァッ!」


「……ペガサス! コンパウンド!」


 ユウヤはペガサスの力を開放させ、オーディンに向かって突撃する。見たこともないが、明らかにオーディンが放とうとしている技はヤバい! 野生の本能が、そう察知した。


 だが、当然その程度の力でオーディンにかなうはずなどない。分かってはいるのだが、動かざるを得なかった。


「ボレアス……本気を出しやがれ? その程度のパワーで挑んでこようなど、侮辱に等しいぞォォォッ!」


「黙れ! トルネードリィ・スラッガー……マジのフルスイングでお見舞いだあああああああ!」


「ならばその生半可な覚悟を後悔に変えてやろう! カミカゼグングニル、フルパワーでなあああ……!?」


 オーディンは目を疑う。今、ユウヤ……いや、ボレアスは何をした? 一瞬、姿が大きく変化したように見えたのだ。


(今一瞬、ケルピーとペガサスの両方の姿、そしてミノタウロスの姿がチラついたぞ!? 3体の聖霊を同時に……いや、そんなはずは!

 特にミノタウロスは凶悪な聖霊……ケルピーとの仲も悪く、同時にコンパウンドを発動など不可能なはずだ! 何をしている……落ち着くんだ、オレ!)


「……情けない。情けないよクソ親父……慢心してるのはそっちだろうがよぉぉッ!」


「グッ……グアアアアアアアアアア!」



 一方、外界ではとある事件が巻き起こっていた。突如ユウヤの前に姿を表したスズが、またまた何かのために動き出していたのだ。


「……ねぇ、アンタ。この『鳥岡ユウヤ』って人。知ってる?」


「……は? いきなり何、てかお前誰だよ? 知ってるか? ヒュウ……」


「……いや、知らん。けど……ユウヤに手出したら、分かってんだろうな?」


「ハァ……鳥岡ユウヤと同じサークルのアキヒコとヒュウマ、だよね。この"意味"、分かるよね? もう一度聞くけど、鳥岡ユウヤについての情報、全部吐きなさい」


「あのなぁ……見知らぬ人に友達の情報流すワケねぇだろ、いい加減にしろ?」


「その通りだぞ! チーム・ウェザー繋がりなのか何なのか知らねぇけど……錬力術、使えるのはアイツらだけじゃねえんだぞ?」


「フゥ……面白いね。ならかかってきな!」

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