第201話 オーディンの野望
ジェフリー・オーディン・ホリズンイリス。人々の歴史から外れ、ひっそりと、それでも強く長い時を生き続けた男の名だ。
オーディンは自身の強さを何時も追い求めた。雨の日も、風の日も、もちろん雪の日も嵐の日も。同族を何人抜きしようと、猛獣を片腕で仕留められるようになろうと、それでも「上」を追い求めた。
『ハァ、ハァ……もっと。もっとオレは強くならねばならぬ! さもなくば、人間共に雪辱を果たせないッ!』
『アナタ……最近怖いわよ? まるで、常に敵が視界にでも入ってるみたいに……』
『敵が視界に入ってる……だと? それは我ら一族にとって当たり前のことだろう、ヘパイストスッ! いいか? 我らは一度ホモサピエンスに負けたのだ、ネアンデルタールのようにな! そして、あろうことか我らの存在や名前を知るものなどほんの一握り!』
『それはそうですけど……でも周りの仲間にまでイライラしなくても――』
『それはお前も含めて、恥晒ししかいないからだろうがッ!』
『ヒャッ!? ご、ごめんなさい……!』
『ヘ、ヘパイストスさん大丈夫!?』
『ちょっと、オーディンさん! ヘパイストスさんは今子どもを授かってるのよ!? そんな横暴な態度をふるわなくてもいいじゃない!』
『チッ……! どいつもこいつも、脳内お花畑かよ……!』
ホリズンイリス。それは大昔、人類同士の生存競争で追いやられ、その痕跡すらほとんど残さず、流れる時間とともに忘れ去られていった一族だ。
彼らは本来、優秀だ。知能や運動能力はホモサピエンスなどと変わらず、そして錬力術、いや魔術をそれより何万年も早く見つけていた。
だからこそ優先的に消されてしまったのだ。家電どころか
『ウホ、ウホホウホ! ウホホホホホホ! (おい、あれホリズンイリス共だぞ! やっちまえ!)』
『ウホ……ウホホ、ウホホッホホホ? (でも……あいつら強いぞ? できるのか?)』
『ウッホー! ウホホホホホホ、ウホホッホー! (やるしかないだろ! アイツらは睡眠時間が長いんだ、今奴らが寝ている隙にやるぞ!)』
『ウーホホホ、ホホホホホ! (万が一カミサマを召喚されたなら、この石でやっちまえ!)』
『ウホホホホホ、ウッホー! (全員、突撃ー!)』
『『『ウホー!!!』』』
ホリズンイリスの弱点。それは睡眠時間が長く、寝ている間に襲われやすいこと。そして、獄霊石の存在だ。ホモサピエンス達は石を使った武器を作っている間に、「なぜかホリズンイリスの力を弱体化させられる不思議な石」を見つけていたのだ。
そのおかげでホモサピエンス達は競争に勝利、今の文明を創り上げてきたのだ……
『……恥ずかしいと思わないのか、歴史の恥をッ!』
オーディンは人一倍負けず嫌いだった。戦いの中でも、いくらピンチになろうとも最後まで抗い、むしろ力を絞り出す。自他ともに認める、良くも悪くも「戦士」だったのだ。
だからこそ、何十、何百年経とうとも、その灯火は消えることはない。それは今も同じで……
「こうなったら奥の手だ、こんな街など……無に返せば良い! 泣き叫ぶ準備はできたか? いくぞおおおおおおおおおおおお!」
「お、奥の手ですって!? まさかアナタ、あの技を!?」
「あ、あの技って?」
「分かってるんだろう? 人間もその気になればできる『革命』だよ! さぁ、泣き叫ぶ準備はできているよなァァッ!」
オーディンの全身から突如、眩い光が漏れだす。オーディンの顔は見えないが、さぞその表情は邪悪なものなのだろう。
「ぐっ……! 何だよこれ!」
「……やる気です」
「……え? やる気って!」
「えぇ……聖霊の力をあわよくばエネルギーとして爆発させ、無差別的に人類を殲滅させるつもりです!」
「そ、それは……! 何考えてるんだ、やめろ……ぐがぁっ!」
ユウヤは慌ててオーディンを制止しようとするが、まるでバリアでも貼られているかのように弾き飛ばされてしまった。
オーディンは息を切らしながらも、野望を不気味に呟く。
「ヘパイストスにボレアス……! 家族ならよぉ、いい加減察してほしいなぁ……オレが死んだとしても、まだまだホリズンイリスの革命派は多く存在するッ! この意味が分かるか? 止めたくばオレについてくるのだボレアスよ! この世界に破壊の風を巻き起こすのだァァァ!」
「ふ、ふざけないでよ、アナタ! この子は……そんなことを考え――」
「……ゴメン。考えさせて、自分のことだから」
「ボレアスッ!」
「ゼピュロス!?」
「……オレなりの考えをまとめたい、だから……父さんも母さんも、黙ってて」
そう返したユウヤの表情は、とても恐ろしいものであった。まるで邪神を彷彿とさせるような、恐ろしいものであった。
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