第200話 修羅場 その2

「獄霊石……だと!? そんな忌物をなぜ!?」


「フフフ……焦っているようね、アナタ。それもそうでしょうね、だって貴方は最近ずっと聖霊と共に生きて……ううん、聖霊に依存してその力と権威を見せつけてきた。それが今、突然消えるなんて……さぞ悔しいことでしょうね」


「ふざけるな、そんなことありえぬことだ! 四天王の一角を担うこのオレが、ただの不意打ち如きでくたばるものか! お前らなんぞ吹き飛び消えやがれ、カミカゼグングニル3連発だあああああああああ!」


 オーディンは聖霊の力を封印されまいと2人に猛攻を仕掛ける。山さえ貫きそうなその風圧に吹き飛ばされそうになるも、ユウヤとヘパイストスはそれに動じない。逆にオーディンを倒せる自信という名のシェルターがあるからだ。


「……やりますよ、せーので私と一緒に!」

「……はい、いきましょう」


「……くそ! お前ら、いい加減にしやが――」


「せーのっ!」

「せーのっ!」


「や、やめろおおおおおおおおおお!」


 獄霊石をオーディンに押し当てた途端、その接点が怪しく光る。数日前に見た、あの光だ。磁石が磁石を吸い寄せるように、水滴が重力にならって落ちるように、熱が高い方から低い方へと移動するように。いくら人智を超越した存在同士の反応でも、既知の現象と並ぶ当たり前の理であるように。オーディンから力が抜けていく。


「ぐおおおおおおお、ぐぬぬ、ぐあああああああああああ!」


「ぐっ……! なんて力だ、弾き飛ばされてしまいそうだ……!」

「もう少しの辛抱です! ここで歯を食いしばって! さもなくば待つは絶望、だけど成功すれば希望が見えてきます!」


「こんな石なんぞに! 我々が負けるものか……! 我々は神と等しき一族、自然なんぞ超越した存在、それに負けるなど……ありえぬのだ……!」


「ふぅん……それにしてはかなり余裕を失ってるみたいだけどね! 私は一応アナタと寄り添ってた、正真正銘の"妻"よ! 夫のクセなんて覚えてるに決まってるでしょう!」


「黙れ……エリートに向かって偉そうなクチをぉぉぉッ!」


 オーディンは力を奪われつつある中でもタックルを仕掛ける。聖霊の力を奪われるワケにはいかないと。だが、オーディン側にも余裕は全然ないようで、その動きはスキだらけである。ヘパイストスはすぐに勘付いた、オーディンの行動とその先を。


「やはり来ると分かっていました! チャコールバインド! スキだらけなのよ!」


「グアアアアアア、ガガガ、グオオオオ……!」


「ぐっ……! 力を制される中でもその馬力! 流石ね……ッ!」


 ヘパイストスの拘束作戦、初動は成功だ。だがこちら側にも余裕がたくさんあるワケではない、なにしろオーディンが持つ剛力、それは重機の何倍もあるからだ。


(私のチャコールバインド。あの日、東雲ヒビキ君を一瞬拘束できたものの、完全には至らなかった技……あの日からずっと、隠れて特訓してたけど……やっぱり今日もカンペキには……!)


 ヘパイストスには悩みがあった。自分の能力が劣っているという悩みだ。

 かつて暮らしていた、ホリズンイリスの神域。その中でも落ちこぼれのヘパイストスの魔術……いや、連力術は人間界でもまぁまぁの腕でしかなかった。劣等感を人には見せず、血の滲むような努力を重ねた成果は、現実という壁にこれでもかと苛まれる。


 だが、ある意味親子は似るものなのか……ここにはもう1人、術の精度にかつて悩んでいた青年が1人いる。彼はそんな母の背中を見て、動かずにはいられなかった。一度もやったことがないことでも、試さずにはいられなかった。


「オ……オレも援護する! 風をこうやって……オラッ!」


「み、見様見真似で私の技を!?」


「オラオラオラオラァ! えっと……喰らえええええええ! 追加の拘束だああああああッ!」


「ぐ、ぐあああああああ! 2人揃って……! こうなったらこっちも奥の手だ、こんな街など……無に返せば良い! 泣き叫ぶ準備はできたか? いくぞおおおおおおおおおおおお!」

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