第199話 修羅場 その1
「ハハハハ、ガハハハハ、ギャアアッハハハハハハ! この光が止む頃にはお前は骨すら残っていないだろうなぁ……! だがこれでいい、我々に歯向かう裏切り者など、そうなって当然なの……ん?」
光の中で有頂天になっていたオーディンだったが、目の前に立っていたのはユウヤ……ではなく、ユウヤの実の母にしてオーディンの妻。真銅……いや、マウロ・ヘパイストス・ホリズンイリスだったのだ。
「マウロ……!」
「せんせ……!?」
「呼んでいいのですよ。先生じゃなく、お母さんでも……グッ!」
どこからともなく現れた"真銅先生"。あの日から何度も気にかけてくれた、ただの講義の先生と呼ぶには温かすぎた存在。そんな先生が今、目の前でユウヤを庇った。
「っ!? なぜここに!」
「貴様ァ……なぜここが分かった、なぜ戦っていると知っていた、なぜこいつを庇ったんだ! 出来損ないのクソガキを、ましてやオレの邪魔をするなど……どれほどの重罪なのか分かっているのかァ!」
「ハァ、ハァ、ハァ……そんなの……決まって……いるでしょう……? ハァ、ハァ……大事な子どもの……危機から目を背けるなんて……一族の教え以前に、親失格でしょう……!」
「この野郎……! ボレアスは裏切り者なのだ、そしてそれに加担するお前も同様、裏切り者――」
「ボレアスなんて暴れ神なんかじゃありません、この子は! この子の名前は春の訪れ、新たな生命の生まれを告げる優しき神。ゼピュロスです!」
「ああああああああ! どいつもこいつも邪魔ばかり、目障りだ! こうなりゃもう容赦はせん、2人まとめて"裁く"、それだけだッ!」
オーディンは両腕を火打ち石のようにパチン、パチンとぶつけながら真銅……いや、ヘパイストスを軽々と持ち上げる。もはや虫の息となったヘパイストスはオーディンを見下ろすことが精一杯で、反撃をする力など全く残っていない。
ユウヤは感じた。今ここで選択を誤れば全てが終わる、だが最適解を考えている隙など、断じて無い。
まず、このまま動かぬこと。これはあり得ないことだ。理由を述べるまでもない。
次に、オーディンに攻撃してヘイトをこちらに向けること。これも不可能。ユウヤとオーディンの力の差はまさに月とスッポン。下手に中途半端な攻撃をすれば、さらにオーディンを怒らせてしまうだけだ。
そして、なんとかオーディンを説得している隙に呼べる仲間をすぐに呼ぶこと。これもできない。数々の仲間が倒れている中、これ以上犠牲を出すなんて接待にできない。
こうなりゃまさに背水の陣、ユウヤは今ひらめいた"1つの作戦"を決行することにした。
(これは仮定に仮定を重ねた先にある、小さな希望。たどり着けることこそ天文学的な奇跡。やるしかない!)
ユウヤは黙ってヘパイストスに近づき、腰に手を当てる。無表情のまま、ただ手を当てる。
「……フフッ、フハハハハハハハハ! そうだ、それでいいのだボレアスよ! 反省したなら、多少の酌量の余地はくれてやる! さぁ、その手で刺すのだ、とどめを……!」
「鳥岡く……ううん、ユウヤ! ゼピュロス! 落ち着くのよ、大丈夫だから……!」
「……勘違いしてるな、お二人とも」
「……は?」
「……え?」
「……あれは"布石"だったんだ、今、この時のッ! 相対する聖霊の力が強大ならば、今すべきことはただ1つッ!」
「布石? 何を意味不明なことを……待て、『聖霊の力が強大』だと!?」
「……やるのね、あの方法を! ちゃんと用意、してたわよッ!」
「……ああ。あの時だ。チーム・ウェザーのアジトに向かうとき、ケルピーに奪われそうになった自我をギリギリで取り留めるのに使ったあの秘策ッ!」
――――――
『詰めどころか最初から甘々でしたね、聖霊さん……! 痛手になりますが、こうなっては仕方が無い!』
『……その石!』
『聖霊、Z≮%◣さん……残念ですが、しばらくの間貴方には眠ってもらいます』
『や、やめろ……! それだけはまずい!』
(何でだよ! 計画が台無しだ……! クソ野郎ッ!)
『鳥岡君の体を使い暴れまわろうとした罰です。そもそも彼には、既に扱い慣れている他の聖霊が――』
(あ、あの石にオレ達聖霊は
『うるせええええぇぇ! ならこいつに取り憑いた聖霊、まるごと道連れだあああああ!』
――――――
「獄霊石。発動の時間だ」
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