第198話 迷い その2

「その反応……その"カナ"というヤツとやはりお友達のようだな。だ残念であるが……もうここにはいない。最期は醜くも素晴らしいものであった……聖霊の支配に抗いつつも信念を貫こうとして、最後まで抗ってきた。そやつと会うための片道切符化か、もしくはこちら側に戻るか。再度選ばせてやろう」


「オレは……着いていくべきなのか? そうすれば、もう大事な人達を、共に戦ってきた仲間を、逆に失わないで済むのか……?」


「それは自分次第でないかね……? だが、戦うつもりならば、それなりの覚悟を決めてからにするべきだ。さぁ、どうする!」


 最悪の選択を迫られているユウヤだが、オーディンの言葉はほぼ耳に届いていない……いや、"聞き入れたくない、認めたくない"というのが正しいだろうか。


 あえて仲間を、大切な人達を裏切ることで、これ以上傷付けることを防げるならば……ユウヤの思考回路はもうグチャグチャ。線をはみ出し、デタラメに塗られた塗り絵のように乱雑でまとまりが無く、もはや"混沌"そのものだ。



『さて、1時間目は錬力術のすすめⅠ……これでオレも絶対に皆みたいになって、そしてモテ男になってやる』


『ピンチってやつだな……だが! 抑えてみせる、オレがここで……!』


『ごめん。今度あいつ探し出すつもりなんだ。こんなことされて黙ってられるか? それに朝の授業であんなこと俺がしなければ……ここまで酷くならなかったのかも』


『アイツはかなり強いヤツだから、まずは特訓と仲間探しをしようと思う』



 あの日。興味をそそられ履修した講義。そしてそこから始まった地獄。自分の発言が蘇る、子どもの頃誰もが思い描いたことのある、"かっこいいひーろー"。そんなものになれるワケなど無かったのだ、ましてや自分が……


「……どうした? なぜ黙り込んでいる? 早く決めるのだ、これじゃ時間が過ぎていくだけだぞ」


「……ハハハ。決めた。オレが選ぶべき、最適解を……」


 ユウヤはフラフラとよろめきながら立ち上がり、両手を背中の後ろで組みながら不気味にオーディンを見つめながら呟く。


「……親父。今から行くからよ、待っててくれや……」


「ハハハハ、ガハハハハ、ギャアアッハハハハハハ! やはりボレアスという名前を付けた我は正しかった! そして結局、生物は生まれ持つ本当には逆らえぬ! それでこそ誇り高き神の一族! さぁ、世界を支配にし進撃するぞ!」


「あぁ、こんな世界、もう呆れちまったぜ、薄汚い欲でまみれた世界なんてな……ハハハ、アハハハハハハ……!」


「フフフフフ、さぁ帰ろう。久しぶりの実家に――」


「先に行ってくれよ。さらに汚れた、底の世界へ」


「……は?」


 ユウヤは両手にありったけの力を込めて、風でバット……いや、大きな斧を作り上げた。そして容赦なくそれを、オーディンに叩き込む。


「トルネードリィ・スラッガー。殺意マシマシで吹き飛ばす」


「……この大バカ野郎――」


 ドガアアアアアアアアン……! オーディンの怒号をかき消すように、ユウヤの攻撃は爆音を響かせる。ユウヤの目にはもう、既に地獄しか映っていない。その瞳に光など見えず、強いて言うなら目の前の害悪を葬れるかもしれないという、黒く煌めく希望だけだ。


「……喰らえ。喰らえ。喰らえ。喰らえ。喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ……」


「グアアッ……くそ、少しは強くなったようだガッ! いい加減にその腕を止めなければ、どうなるかは分かってるはずだ――」


「関係無し。消す、消す消す消す消す……」


 ユウヤはただただ、構えた風の武器でオーディンに攻撃を加え続ける。息をするのと同じくらい身体が勝手に動く。

 この世界を塗り替えるのがホリズンイリスの本能だと? ならば、今は自分自身の"本能"。自身の父、オーディンを倒す。地獄に突き落とす。それだけだ。


(くそ……このガキ、狩りに行くのが遅すぎたか! ならばオレも黙っているなんて恥、こいつを分からせねばならまいな……)


 オーディンはこっそり、力と精神を上半身に集中させる。ユウヤを"狩り返す"。その準備である。


「……ボレ……ボレアスよ……分かった、申し訳無い……お前の言い分も聞こう、だからその腕を止め――」


「だから関係無し、消すのは確定――」


「消されるのはお前の方だ生意気な野郎が! 喰らえ、カミカゼグングニルッ!」


 オーディンの身体から強烈な光が発せられる。心を無くしたと言っても過言ではない状態のユウヤも流石に気付いた。これはヤバいと。


「なんなら地球ごと消し去っても良かったのだがな! 流石にそれは許されぬ。だから、お前を塵に生まれ変わらせてやらああああああああッ!」


「……っ!」

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