第202話 メッセージ

 ユウヤは戦いの間際、知人に一斉にメッセージを送ることにした。それも、戦況を伝えながらの音声付きだ。


「あー、あー。声、入ってるかな。えーっと……見ての通りさ、オレ、前から戦ってた。だけど、多くの仲間が死んだ。はっきり言って……オレが招いたことだと思ってる。だからその償いとして、オレは皆の前から消え去る、これ以上巻き込みたくないし、皆も巻き込まれたくないだろ?

 だからさ、その……今までありがと! 楽しかった青春だ!」


「ボレアス……なぜ泣きそうな顔をしている? それにこの状況でお友達にメッセージなどふざけているのか! ならばその腐った感情、叩き直してぶっ潰すしかあるまいなぁ、アァン!?」


「ゼピュロス、落ち着きなさい! 一体何を考えているの!? まさか……それだけはやめて!」


「……ううん。オレは一回、ホリズンイリスの神域に行く。連れて行ってくれよ、だからひとまず皆殺しだけはやめてくれ、父さん」


「ゼピュロス! どうしちゃったのよ、東雲ヒビキが攻めてきたあの日から! ずーっと、信念を貫いてきたじゃないの!」


「ボレアス、いいぞそれでいい! ハハハハ、ガハハハハ、ギャアアッハハハハハハ! 喜びの笑いが止まらんわ! ならば早速旅立とう、神聖な故郷へ!」


「……はい。分かりました、父さ……いいえ、お父様」


「そんな……ゼピュロス……!」


 ヘパイストスの思いが届くことはなく、ユウヤは突然考えを改め、オーディンについていくことを決めた。その表情は『無』であったが、ヘパイストスにとってどこかその背中は悲しく見えた。それはバイアスがかかったものなのか、あるいは事実か。その答えを知るのはユウヤだけだ。



 ユウヤのメッセージは知人全員に衝撃を与えた。何をほのめかしているのか、何をするつもりなのか。そもそも、戦っていたことを知る友人はほとんど命を落としてしまっているだけに、事情を知らぬ人からすれば全くワケのわからない置き手紙でしか無い。


 だけども、ただ1人。ユウヤのことを真っ先に心配した者がいた。

 それはカエデ。気がついたカエデは、ユウヤのメッセージを開き、人目をはばからず大声で泣いた。推測が推測を呼び、悪い展開ばかり考えてしまい、ただただ共に泣く人もいない中で、現実という悪魔を目の前に崩れ落ちた。



 地球とは、どれほど非情な乗り物なのだろう。


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