第188話 ケンタウロスに浮かぶ面影
「チッ……いい加減現れたらどうだ! いるんだろ、総大将さんがよぉッ!」
カナは1人、洗脳されし人間達と戦っていた。カナは元々「ポワソ」というコードネームでチーム・ウェザーに在籍していた。そして、今の騒動が黒幕・コウキによるものだということにも気付いている。
カナはとにかく負けず嫌い。それにどうせ戦うならば強い奴とさっさと戦いたい。そんななかなか叶わぬ闘争本能が、カナを苛立たせ続ける。
「アタイにビビってんのかよ、大ボスさんよぉ! さっきから……この世のものとは思えねぇ殺気を感じてんだよ! さっさと出てきやがれ、この野郎ォォォ!」
「……そうか。1秒でも長く生かしてやろうと思っていたのだがな」
「ッ! お出ましかァ!」
早く戦いたい、自分を利用していた奴らを木っ端微塵にしてやりたい。そして、実はちょっぴりこの恐ろしい状況から抜け出したい……いや、そんなはずはない。だって
「お前はチーム・ウェザーにいたはずだよな? なぜ裏切る、それではまるで出来の悪い息子と同じ……」
「うっ……!?」
だが、現実というのは時に自信や地位というものをいとも容易く壊してしまう。嵐のように参り、嵐のように暴れ、そして、嵐のように去っていく。
「喜べ。このオレが自己紹介をしてやるんだからな」
「……その顔、そんなはずは……!」
現実というものは残酷なものだ。理想論とは、現実とは程遠い、人類が作り出す平和な世界観。だが本当は、理想論が叶う社会こそあるべき姿なのかもしれない。
「俺の名前はジェフリー・オーディン・ホリズンイリス。ホリズンイリス四天王の1人さ。息子にも同じ名前ジェフリーという名を付けてやったんだが……どうも無能な息子でな。今は人間界でダラダラしているらしい」
「似ている、鳥岡ユウヤに……!」
「トリオカ、ユウヤ……。あぁ、なるほど、なるほど。どうやら息子と知り合いなんだな? それもその顔、ずいぶん仲良しと見た……許せんな、お前もあのガキも! 与えられた使命に歯向かうなどと……!」
親子、親戚、きょうだい。よそから見えば、彼ら彼女らは意外とそっくりさんなものなのだ。自分達は意識してなくとも、「たしかに顔が似てる」という感覚は、逆に他人からすれば敏感に感じとれる。
だが、オーディンとやらは例外であり、同時に典型的なそれであった。声のトーンとか、顔の感じとか、やはり鳥岡ユウヤにそっくりなのだ。だが違うのは、理性を持った人間と理性を持たない野生動物のような、どこか危険な香りのするオーラ。
そもそも何より、オーディンと名乗る中年の男の下半身は4本足の馬、まるでケンタウロスのようであった。
「使命だと……? アタイの道はユウヤが照らしてくれたし、これからアタイ自信が切り拓くッ! それに……お前なんて倒して……」
「ビビっているな? 声がブルブルと震えている……だがそれも仕方あるまい。オレは常にこの、聖霊の力を引き出した状態で生活しているんだ。
二流、三流の奴らは困ったときにだけ切り札的にその力を使うが……オレは一生この姿をキープできる。この意味が理解できるか?」
(このジジィ……決してハッタリなんかぬかしてねぇ! 聖霊の力を使っているのは完全に適応、いやそれらを顎で使える程の実力があるからだ! だいぶヤバくなったぞ、これ……!)
カナの前に立ちふさがるは、まさに「神」と表現するに相応しい、恐ろしくもどこか神秘的な人間。ここで逃げても瞬時にやられるだけだろう。そう感じた瞬間、既にカナの身体はオーディンに向かって動いていた。
――――――
『この子が、今日からこのクラブに加入してくれることになったスーパールーキーだ! さぁ、自己紹介を』
『はい、えっと……カナって呼んでください。よろしく!』
『よろしくねー!』
『おー! がんばろうなー!』
『いっしょに優勝しようねー!』
響き渡る拍手に挨拶。それがうわべのものであったと分かるのは、後の話。
そんな加入初日、当時のコーチはある話を説いてきた。
『カナくん……サッカー、いやスポーツをやる上で。絶対果たすべきことは何だと思う?』
『えっと……皆といっしょに、協力して、えっと……勝ち続けて――』
『もちろんそれも大事さ。だけどね、諦めないってことが……大事なんだよ。いかなる時もね』
――――――
「分かってんだよ……諦めないことなんて……でもアタイは諦めざるを得なかった、あの怪我で! 分かってんだよ、クソオオオオオオオオオオッ!」
「ほう……勇敢だな。まるで敵陣に1人で突っ込む孤高の勇者」
「うるせえええええ! セイレーン・サイレンッ! 出力3倍だああああああッ!」
「ほう、3倍だと……」
カナの必発技、セイレーン・サイレン。出力3倍というのは決して弱い数値ではなく、むしろ一か八かの諸刃の剣となり得る技。例えるならば、体重60kgの人が120kgの負荷を身体にかけながら活動するようなもの。危険を越え、そらに越えて越えた先にある危険。
それでもカナはその諸刃の剣を振るった。ユウヤとどこか境遇が似ているのだ。人間社会への脅威として生み出され、それを強制させ、時にはその力不足を中傷するオーディン。
そして、挫折の淵に落ち着いたときに甘い言葉で洗脳し、降りれば命を刈り取りに来るチーム・ウェザーとその親玉、ホリズンイリス一族。
「喰らえ、この野郎ォォォッ!」
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