第187話 天界
「……あれ、ここは?」
栄田が目を開けるとそこは辺り一面、わたあめのように白くて、ところどころ黄金糖のように輝いている大地。そして空は快晴。
空気は薄くない、気温は寒くない。太陽もそれほど眩しくない。というか、意識しなければ特に何も感じない、ふわふわとした感情のみが残る。
「おかしいですね……私は確か、大っぴらな態度の子ども2人を相手にしていたはずですが……」
栄田は辺りを散策する。だが見えるはやはり幻想的な世界が続くだけ。それでも栄田は歩くのをやめない。
「……おや?」
栄田は見つけた。ぽつんと不自然に佇む小さな建物を。吸い寄せられるように栄田はその建物に向かって歩いていく。まるでエサに釣られた魚のように、ゆらゆらと。
「……これは」
栄田が見つけたのは、見覚えのある小屋。それは自らが経営していた、小洒落たカフェだった。栄田はチェーン店を持っていない、フランチャイズ経営もしていない。こんな場所に、カフェ第二号なんて建てただろうか? いや、確実に無いはず……だが、栄田はそのドアを迷うことなく開ける。
カランカラン……レトロモダンな鐘の音が栄田を出迎える。カウンターの向こうには誰もいないが、客席には2名のお客が座っていた。ガタイのいい、ツーブロックの男と、ザ・占い師って感じのファッションをした、細身の女。カップルや親子のようには見えないが、栄田は彼らが誰なのかすぐに分かった。
「メイさんに……タケ、トシ君……!?」
「久しぶり……と言うには早すぎましたわね。2人分のコーヒー、淹れてもらえます? できればあと40年は待ちたかったですけどね」
「師匠も、来てしまったんですね……ごめんなさい、オレ……やっぱり、ああするしか盾になりきれませんでした」
栄田はタケトシがここにいることに困惑したが、メイがここにいることでそれを受け入れざるを得なかった。そして、この場に自分がいるということは……
――――――
『……義経、千本桜ッ! 砕け散れェェェッ! オッリャアアアアアアアアアア!』
『おい、またかよ! アイツ正気か!?』
『ま、またあの技!? 自傷行為どころじゃないよ!?』
『お子さん達……大人の、本気を超えた本気、それを超えた本気ってやつですよ……ハァァァァァァッ!』
『こ、この威力は……!』
『やっぱり連れてくるべきだった、他の筆頭戦士達を……!』
『『『うわあああああああああああああ!』』』
――――――
トーマスとアンナ、そして栄田の技は相殺、3人は互いに巨大な衝撃をモロに喰らった。そして、栄田の身体は滅びてしまった。栄田の雄姿は、双子の「神」を巻き添えに空へと旅立ったのだ。
最初、栄田は目の前に広がる事実を拒んだ。なんとなく、そこが現世でないことは察したが、それは自身がこれ以上戦うことができないことを意味する。だが、メイの姿がそこにある時点で受け入れざるを得なかった。タケトシも同席している事実は未だに受け入れられないが。
「そうですか……タケトシ君も……メイさんも、本当によくやりましたよ、理不尽に立ち向かって……」
「それは……師匠も同じじゃないですか」
思わず涙が目に浮かぶ栄田のもとに、タケトシが駆け寄ってきて包容する。
だが、流石師匠と弟子といったところか。タケトシの目にもうっすらと、涙が浮かんでいた。
本当は悔しい。平和な日常が、ワケの分からない一族とそいつらに洗脳された団体に破壊されて。もはや世界の存亡をかけた戦争にまで発展して……
本当は今頃、タケトシは最後の青春を謳歌し、メイも相変わらず占い屋を営み、栄田もカフェを切り盛りして……だが、3人は天界という別の世界に半強制的に引っ越すことになってしまった。
ただ、3人とも「願い」は同じであった。ユウヤに、カエデに、他にも平和のために戦ってくれている希望の存在を空から応援し続ける。魔法が日常になりつつも、破滅しつつある地球が、平和を取り戻して廻り続けるために。
天界は思っていたより普通で、思っていたほど極楽では無かった。ただただ、水平線のように幻想的な世界が広がり、ところどころに
空から、地上を見まもりつつ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます