第185話 双子の神々 その2

「ねぇねぇ、そこのおっさん」

「ねぇねぇ、そこのおじさん」


「……なんですか、双子さん達」


「なぜ、人間は『禁忌の力』を使うの? 実質的にやってることは変わらない、重罪だよ?」

「れんりきじゅつ、なんて名前にしてもムダ。やってることは私達だけに許されたことを真似してる、許されないよ?」


「ほう、どうやら本気で狩りに来たようですね。ならば相手しましょう……」


 栄田は軽く体をならし、戦いに備えて構えをとる。口先やポーズでは大人の余裕を見せているが、内心は「見知らぬ、神秘の存在」にかなり怯えてしまっている。錬力術という名の魔法や聖霊などより、おそらく何段階も上位の存在に。


 どういう攻撃をしてくる? どんな連携を見せてくる? そもそも奴らが望む世界とは? 考え出すとキリがない。だが、ただ分かるのは、それらをあれやこれやと考えていると、スキが生まれてあの世行きになる、ということだけだ。


「おっさん、戦うつもりなんだね? 本当にいいの?」

「おじさん、逆らうつもりなんだね? 後悔しないの?」


 さっきから2人が言うセリフは似たようなもの、まさに双子といったところか。今から始まるのは1vs2のハンデマッチどころではない、もはや「阿吽」との対峙である。


「ええ……"三本の矢"、連射アアアッ!」


 相手が100%の連携を繰り出せるならば、せめて99%にしてやる。鋭い水を矢のように3本飛ばす、それをできる限り繰り返す。数え切れない、3の倍数の矢がまだらに双子に襲いかかる。


(あえて矢はデタラメに射りました! さすれば、鏡に映ったような綺麗な連携は崩せるかもしれないッ!)


 栄田は既に読んでいる、いや断定している。2人は息の揃った戦術を取ってくるのだと、長年の経験でわかる。仮にこの読みがハズレだとしても、数撃ちゃ当たる戦法も兼ね備えたこの技で少しでも体力を削る。「とっても偉い存在」を名乗る双子は、決して見えを貼っているようには見えない。見かけ上は幼い双子だろうと、決して手加減はできない。


「まだまだまだッ! 三本の矢、追加射撃ィィッ!」


「ぐううう……鬱陶しいよ、このオッサン……」

「うゆゆゆ……しつこいよ、このオジサン……」


 双子の「神」はまるで眩しい日差しを遮るように、腕で顔を鬱陶しそうに覆ったまま動かない。何本、何十本と水の矢が突き刺さろうと、痛がる様子も痒がる様子も見せない。


(耐久力、なかなかのものです……私、これでもかなり力を出していますのに。こうなれば致し方ないですね)


「爆ぜなさい……魚雷チェイシング!」


「ち、違う技!?」

「ち、違う術!?」


「フフフ……ニンゲンを舐めない方がいいですよ。特に私のような歴戦の民を。自分で言うのもなんですがね」


 次に発射されるのは魚雷だ。フラフラと不思議な軌跡を描きながら、双子の身体ど真ん中めがけて魚雷が飛んでいく。


「こ、これは避けないと……!」

「こ、これは防げないかな……!」


 双子はようやく動き始めた、それも読み通り、鏡に写したかのような綺麗な面対称で。


(やはり動きは対称的! 挟まれても不意をついた回避で相打ちにすらできるかもしれませんね!)


 トーマスとアンナの2人は魚雷から逃げるように左へ右へとそれぞれ駆け抜ける。だが栄田の魚雷に「勢いが弱まる」なんて概念はない。ただ無限に、永遠にターゲットを追い続けるのだ。


「おっとお子さん達! そちらは『行き止まり』ですよッ!」


「……えっ?」

「……へっ?」


 トーマスとアンナが逃げた先には、栄田が倒した洗脳されし人間が無数に横たわっていた。無論、命は奪っていない、だが気絶させられた人間の山をピョンと飛び越えることなど、いくら「神」といえど子どもの体格では容易ではないだろう。


「……さぁ、フィニッシュですッ!」


 逃げ場を失ったトーマスとアンナは、やはり同時に魚雷に射撃され、爆ぜた。そこからは大きな煙がモクモクと上がり、地面にはぽっかりとマンホールほどの穴が空いている。


「やったか……とは、まだ言えませんね。なぜなら……」


 ドドドドドッ! 何かが高速で地中を這うような音が聞こえてくる。恐竜が突然現代に復活したかのような、そんな爆音を鳴らして。


「これじゃまるでモンスターマシン……これは……まずいですねッ!」


 爆音は瞬きをする間もなく、栄田の足元まで迫ってきた。誰でも分かる、栄田ももちろん既に察している。奴らは連携のとれた連撃を、同時に仕掛けてくる!


(子どもは時に、大人の考えを悪知恵で上回る。柔軟、自由、非常識! 先程と同じ回避方法など、既に対策済みかもしれません……ならば!)



 トーマスとアンナは、口や文字を使わずとも、まるでテレパシーのように意思疎通が可能だ。まるで見えない神経で脳と脳が繋がっているかのように。だが、流石は子ども。相手を怖がらせるためならば、あえて「不便」な方法だって利用してしまう。


「なぁ、おっさん。ボクは今、どこにいるかな?」

「ねぇ、おじさん。私は今、どこにいると思う?」


(私の真下からかくれんぼを!? こうくるなら、せめてノッてあげるしかありませんね……)


「うーん、ここかな〜? 違うなぁ、ここですかねぇ、いやここも違う……」


 栄田はぽんぽんと地面を軽く踏みつけては移動し、踏みつけてを繰り返す。まるで巨大なモグラ叩きを足でやっているかのようだ。

 しかし、これも栄田の戦略のうち。「同じ技」が通用しないならば、「違う用途」を見せればいい。栄田はふらふらと歩き回りながらも、もう一度先程の位置に戻る。1歩だけ、わざとズレた位置に立って。


「……見つけました。正解は『ここ』ッ!」


「ぶっぶー。惜しかったね〜」

「ざんねーん。惜しかったよ〜」


「「正解はここ! 地獄行きの駅のホームゥゥゥッ!」」


 2人は手にマグマを纏いながらアッパーを仕掛けてきた。栄田の読みが当たった、2人が完全に地面から出てきたタイミングで、再び仕掛ける!


「間違いはキミ達、正解は私ッ! 2回目の防壁シールディング、空までぶっ飛べェェッ!」




 

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