第184話 双子の神々 その1
「グギャアアアアア……ニンゲン、ケス……!」
「世界ハ、我ラノ物トナル!」
「邪魔スルナラ……消エテシマエッ!」
「次から次へと連戦、連戦……これじゃ休日出勤を強いられてばかりの社畜……だが、私がここで逃げるなんてとんでもありませんね……発動、“黄昏時”ッ!」
「グエエッ!」
「ゴアアアアアアアッ!」
「グオオオオオ……!」
「やれやれ……倒しても倒してもキリがありません、まるでどこかから無限に湧いて出ているかのような……」
栄田もまた、次々と現れる洗脳されし敵の退治に明け暮れていた。
いくら武道の達人と言えど、最近の戦闘の多さは流石に堪えるものがある。栄田もいい歳である、消費したスタミナを回復するのには時間を要する。
だが、栄田はここで助けを呼んだり、他の人に戦いを任せたりするつもりは全く無かった。以前のヒカリの暴走、メイの死、そして仲間達の死闘……それを考えれば、世界に渦巻かんとする陰謀に背を向けるなんてできるはずもない。
「まるでつい先程、無差別に洗脳でもされたかのようなこの数……元凶を倒さねば終わらない気すらしてきます」
「その通り〜! だってこれは、我らホリズンイリス族の逆襲行為なんだもんっ!」
「そうだよぉ〜。でも、お爺ちゃんは無理しないほうがいいんじゃない? だって……僕らは最強なんだから」
「えぇ、だからこそ元凶を……って、誰ですか? 今の声は?」
栄田は謎の「声の主」を探すが、それらしき人物は見当たらない。どこにいるのだ、どういう術を使うのだ? 長年生きて、戦ってきた経験で分かる。こいつはヤバい、背中を少しでも見せればその先に待つは「死」のみ。
(耳を澄ませ……精神を集中させろ、空気の振動を読むのです……方角は? 距離は? 落ち着け。落ち着くんだ、私!)
栄田は建物の壁に背中をピタっとくっつけつつも、右、左、上……くまなく「声の主」を探す。だが、一向にそれらしき人物は見つからない。
ついに栄田は一か八か、秘策に出ることにした。メイが遺した水晶玉、それを懐から取り出しながら呟く。
「……教えてください。あの声の主はいずこに? 私に、知恵を授けてください……」
これは決して、神頼みやヤケクソなどではない。メイの強大過ぎる錬力パワーが詰まったホンモノの水晶玉。おとぎ話に出てくる魔法のアイテムのように、答えを、正解を授けてくれるはず。栄田は確信を持ってこの作戦を決行したのだ。
「お願いします。この世界を守るため、迷える子羊に希望の道を……」
神頼みなのは分かっている。こんなことをしても、望んでいる奇跡なんてそうそう起きないことなど理解している。でもただ、メイから受け継いだ大事な遺志をしっかりと何度も何度も胸に刻むため、特別な水晶に話しかけたのだ。
(頼みます……! どうか、奴らの居場所を教えてください……!)
栄田がそう強く願ったとき、奇跡が起こった。水晶玉からか天からか、とある声が聞こえてきた。
「……『下』ですわ。奴らの能力は地面そのもの、と言えます。そして問題なのは……」
「……っ! 今の声は!」
聞き覚えのある、二度と聞こえないはずの声。だが、それは幻聴でも妄想でもなんでもなく、確かに栄田の耳に飛び込んできたのだ。山浦メイ、間違いなく彼女のものである。
「山浦、メイ君……応えてくれて、ありがとうございます……!」
「……感謝するのは早いですわ。奴らはモグラのように自由自在に地中を泳ぎ、即死級の技を何度も何度も繰り出してくる。その姿はまるで地底で生まれたメガロドン! それもただの人間じゃなく……!」
メイの声をかき消すように、突然大地がうなりを上げる。まるで地球全体が雄叫びを上げているかのように、大地の神が目覚めたかのように。メイの発言通り、それらは栄田の足元から突然姿を表す。
「……
栄田は土壁を足元に作り出し、簡易的な足場を生成して地面から一旦逃げる。それと同時に2人の子どもが地中から姿を表した。火山でもなんでもないのに、吹き出すマグマと共に。
「あ、危なかった……んで、あの2人が私を追ってきた敵、というワケですね」
その姿形は幼い男女2人組。だが油断は決してしてはならない、なぜならあれ程までの大地の唸り、そしてホリズンイリス族がどうのこうの、という発言。ただの人間ではないことは確実である。
だが、栄田はまずは様子をうかがうことにした。下手に動けば相手の策に溺れるだけ、まずは奥手で動く。
「2人共……名前を教えていただけますか? それと、活動の目的を――」
「えー、まずは自分たちから名乗りをあげてよー」
「そうだよー。私達、とっても偉い存在なんだよ?」
(この子たち……ただならぬオーラを感じます。まずは従ったほうが良さそうですね)
「私の名は栄田。趣味は武道やカフェの経営、あとキャンプなどです……以後、お見知りおきを」
「ふーん。ボクの名前はカストール。トーマス・カストール・ホリズンイリスだ」
「ふーん。私よ名前はアポロドーロス。アンナ・アポロドーロス・ホリズンイリスよ」
「そしてボク達は……」
「そして私達は……」
「「双子なんだ」」
「双子、ですか……確かにそっくりですね」
見た目は幼い子ども。だが、溢れ出るオーラや先程の術、そして知性から何まで本当に子どものものだとは思えない。まるで数千年生きている仙人、もしくはその生まれかわりかのようなものを嫌でも感じさせられる。
(1vs2ですか……先程までの有象無象とはワケが違う。正面突破は確実に無理、どうしたものですかね……)
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