第182話 爆炎
「おい説明しろ、この野郎! 皆が消えていくって……嘘、なんだろ……?」
「……感じられないデスカ? このナンセンスな空気の流れを。虫の知らせを!」
「虫の知らせって……そりゃあ、この国が今、全国規模でこんなことになってんだろ! ウチが聞いてんのは……仲間がどうこうって言葉の意味なんだよ!」
イチカはトムから意味深な言葉の真意を聞き出そうと声を大にするが、相変わらずトムはヘラヘラとしている。その無神経さにイチカはついに堪忍袋の尾が切れてしまい、その拳に炎を纏いながらズンズンと近寄る。
「ウチはまだ……ちょっと仕事が残ってんだよ。邪魔するってんなら、分からせてやってもいいんだぜ、あぁ!?」
「オー、ウェイト、ウェイトプリーズ……! いきなり乱暴だなんて悪いデ――」
「うるっせぇぞ、このデリカシー無し野郎!」
「オオウッ……! あの時よりは少し成長しましたネ。でもホントは、ボクも別にバトルをしにきたワケでは無かったデス。
しかし、そちらがそのつもりなら……ボクとしても逃げるワケにはいきませんよネ!」
「あぁ、面白えじゃなえか! せっかくだからお前も分からせてやる、マジ中のマジの方でなッ!」
「フゥン……なら、ボクはこれを有効活用させていただきマスよ!」
サムは道路に突き刺さっていた、マンティコアの尻尾を乱暴に引き抜き、剣のように構えてみせる。明らかに手元から変な色の煙が出ているが、サムは本当にアレに触って大丈夫なのだろうか? 勝手に自滅してくれるならそれでありがたいのだが、サムはチーム・ウェザー所属の実力者を何か思惑があるに違いない! イチカは一度冷静になり、サムの方をじっと見つめる。
(ここであの尻尾にやられてしまったら、お兄ちゃんの遺志を無碍にしてしまうかもしれない! 絶対にやられちゃいけないんだ、絶対に!)
(あの姿……おそらくフェニックスの力を解放していますネ。だとすれば、ノーマル状態のボクはやや不利になってしまう、それほどに聖霊の力はベリーストロング! だから、ボクも今回は聖霊マンティコアの力を擬似的に使わせていただきマス!)
「……ウチには、アンタの考えが全く分からない。ここまで不気味な野郎は生まれて初めて見た! だから……徹底的に戦わせてもらうぜ、いいな!」
「イグザクトリー。ボクも強き者と戦うのはウズウズしてたまらないデース! それじゃ……レディ、ファイトッ!」
「チッ……先手を取られたか! だが関係ない、あの尻尾に気をつければ……速いッ!」
サムの身体能力は、やはりとてつもなく高い。瞬発力はまるでアスリート並み、いやそれ以上かもしれない。アスファルトさえ瞬時にボロボロにしてしまうほどの猛毒、マトモに喰らえば何が起こるか分からない。
イチカは翼を羽ばたかせながら後ろに下がり、間合いを取り続ける。一定距離を保ち続けれることができれば、サムのスタミナを少しでも削ることができるかもしれない。
「ムム? どうしました、そんなに逃げ回って……さっきまで自信たっぷりだったはずデース!」
「フッ……ウチからのスタミナ勝負さ、三番勝負のファーストステージッ! 追いついてきな、永遠に!」
(まだ使い慣れてない力だから分かんねぇけど、なんだかこの姿、妙にスタミナが上がって感じるんだよな……フェニックスって永遠に生きるってイメージあるし、おそらくその賜物なんだろうけど……しかしあのトムとかいう野郎、ホントにしつけーな!)
イチカはもはや3分ほど逃げ続けている。だが、一向にサムの足が遅くなったり、息が荒くなる様子が見られない。ただ脳筋プレイをするだけではいけない……そう感じたイチカは、立体的に逃げることを試みる。
「スタミナ勝負は……合格としてやるぜ! 勝ち負けじゃない、合格だ! 次はパルクール対決……人間が伝説の鳥に勝てるかなァッ!」
イチカはビルの屋上に降り、サムの動向を監視する。流石にこの逃げ方ならば
「なっ、そんな……!」
「残念デス。本当に残念……三番勝負とやらの前に、本命のバトルの方にも決着がついちゃいそうですネ」
「ぐぬ……ウチが、アンタらに負けてはいけないんだァァァ!」
「オオゥ……やる気があるのか、無いのか。アイ・ドント・アンダスタンド、デース……」
「あるに決まってんだろ……グンソー・アルマーダァァァッ!」
「オオゥッ!? この前から戦闘スタイルを変えたみたいデスネ!」
「どっちだとしても……アンタを焼き焦がしてやらあァァッ!」
炎を纏った激しい回し蹴りがサムに襲いかかる。1回、5回、10回、30回……ドリルの如し勢いでサムに容赦なく力強い蹴り技と爆炎が襲いかかる。
「落ちやがれ、そのまま地獄にまでなァァッ!」
「ぐっ……! 流石に立ち位置的に不利デス……」
サムはまだ屋上に登る寸前、少しバランスを崩せば道路に叩きつけられてしまう状態だ。さらには片手にマンティコアの尾を持ち塞がっている状態、不利に不利が重なり、流石にトムの表情も曇る。
対して、イチカは「勝利」という2文字をどこか心の片隅で感じている。意識はとにかくサムを撃破すること、そしてマンティコアの尻尾を警戒しながら処理することだが、この盤面では無理もないだろう。
「決めてやるぜ! とどめだ、いっけえええええええええ!」
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