第181話 暴・威・留
(このライオン野郎が攻撃してこない時間はあと何秒ある……? いや、違うだろ。ウチがやることはただ1つ、0.1秒でも早く! 今すぐ奴をブッ潰すことだけだあああああああ!)
イチカは一度深呼吸をおき、鋭くマンティコアを睨みつける。マンティコアは相変わらず、猫が昼寝をするかのようなリラックスした様子で鎮座している。
「相変わらずナメられてる……許さんッ!」
イチカは道路を強く蹴り、全速力でマンティコアに向かって駆けていく。今自分がフェニックスの力を解放していふことすら忘れ、自らの脚で一直線にマンティコアへと近付いていく。
「これは……
「フッ……それはさっき、飽きるほど浴びた技だ! しかも全く痛くも痒くも無い、とうとう諦めたか、この小娘がぁ!」
「ほざけ! 思い知れ、お前の罪状を!」
イチカは慣れない兄の技でマンティコアに敵討ちを試みる。天国に登った兄に、強く成長した自分を見せるんだ。もう泣き虫じゃない、立派に、一人前になれた! その決意が、さらにイチカを後押しする。
「開け、風穴ァァァッ!」
「力技でゴリ押しする気か、小娘! 物分かりが悪いようだな……いい加減理解しろ、お前はワシに、そもそも劣り劣って、劣りすぎているのだあああああッ!」
「うるせぇ、その言葉そっくりオウム返ししてやらァァァッ!」
ふと、兄の姿を思い出す。毎日毎日、野球少年が庭で素振りをするように、雨の日も風の日も、一人で特訓していた兄の姿を。
『お兄ちゃーん、何してるのー?』
『イチカ……オレは強くなりたいんだ』
『強く、なる……?』
少女イチカが目にしたのは、ボロボロのサンドバッグ相手に何度も何度も蹴りの練習をする兄の姿。ある日、兄は教えてくれた。思いの積み重ねは、自分の人生の土台になるのだと。
ただ、生半可な決意やただ何となく歩き続ける毎日ではしっかりとした土台は作られず、その上に何かを成し遂げようとしても必ず失敗するのもだと。毎日を何かしら努力で塗り続ければ、いつしか何らかの形で、もしかしたら別の形だとしても、きっと自らの糧になってくれるのだと。
「ウチは……守るんだ……! だから立ち上げたんだ、
「さっきも聞いたぞ、同じようなことをッ! ワシを倒すなんて……ぐぬ!? グ、グアアアアアア!? 何だ、この威力はァァァ!?」
マンティコアに傾いていた優勢の天秤が、ゆらゆらと揺れ始める。その想いは太陽の如き熱く、まるで不死鳥のように永遠に残り続けるかのように「しっかりとした」もので……奇跡なんかじゃない、ついに勝利の女神はイチカに目を向けたのだ!
(お兄ちゃん……そういや、ウチの戦いのスタイルも、アンタとよく似た接近スタイルだった。嫌ってた時期もあったけど……常にアンタの背中に引っ張られていたのかもなッ!)
「いっけえええええええ! これがとどめの……全力キックだあああああああああ!」
「ぐ、ぐあああああああああああ! ワ、ワシのたましいが、くずれ、て、いく……」
マンティコアの身体が激しく発光する。そして老人の口から怪しい光を放つ玉が飛び出したかと思うと、そのまま雲に隠れる陽光のように、うっすらと消えていった。
「……とりあえず、倒せたよ。お兄ちゃん」
イチカは空を見上げる。空でカズが微笑んでくれた気がした。雲の形が、まるで兄の笑顔にそっくりだったのだ。
「倒した……のか?」
「やった……イチカさんがやってくれたぞ!」
「うおおおおおおおおお!」
観衆は喜びの声を上げる。だが、イチカはまだ気を抜くワケにはいかなかった。
相変わらず道路には尻尾が突き刺さったままで、そこからはイヤーな匂いがプンプンと漂っている。兄が「触るな」と伝えてくれたマンティコアの尾。これの後始末をしなければ、完全にマンティコアを倒したことにはならない。
「さて、コレ……どうしようか。燃やして変に化学変化とか起きても困るよなぁ……」
イチカが頭を悩ませていると、後ろから突然、何者かが声をかけてきた。
「オー、あの時よりかなり成長致しましたネ! ベリーグッドデス、ベリーグッド!」
「なっ……! その声は……!」
「オー! 覚えていてくれたようですネ! マイネームイズ、トム……チーム・ウェザーに籍を置いてい――」
「へぇ、ちょうどよかったぜ……アンタには最悪の借りがある。ついでにやってやんよ、オラ?」
「ノーノー。喧嘩はナッシング……今、こんなところで疲弊するワケにはいかないでショー?」
「……それ、どーゆー意味だよ?」
イチカはトムにガンを飛ばす。だが、トムは相変わらずの無神経な笑顔でこう呟いた。
「ハハハハハ……始まってしまいマース、ユー達のお仲間が、皆消えていく時間がネ」
「仲間が、皆が消えていく、時間だと……?」
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