第171話 綺麗な薔薇には棘がある
「……さて、お前がユウヤ本人ではないことは分かってる。一体どういう目的だ? 答えろ!」
「……オ前ニ話ス義務ハ無イダロウ? 我ハ我ノ道ヲ進ムノミダカラナ」
「そうか……消えろ」
空が一瞬光ったかと思うと、突然ユウヤに雷が襲いかかった。落雷の衝撃は凄まじい。まるで恐竜が歩いているかのような地響きが伝わってくる。この威力、カエデはすぐに察した。ヒビキは本気を出すつもりなのだと。
カエデは思わず固唾を飲む。ここは2人の対決を見守るしかないと。野次馬達も何だ、何だと集まってくるが、彼らを巻き込まないように必死に下がれと指示を出す。その後ろで、既に激戦は始まっていた。
「オラ、オラオラオラ! 聖霊に乗っ取られるとは情けない! さぁ捉えてみろよ、オレの動きをッ!」
「逃ゲテルダケデ、ソッチコソ情ケナイ! 忍者ノ物真似デモシテルノカァ!」
「違ぇよ脳筋、天空からお前を焼き焦がすためだよ! さぁ……その身体に宿ったことを後悔するんだな……喰らえ、連続する落雷をォッ!」
ヒビキは屋根から屋根と飛び跳ねるように移動し、ユウヤの頭上から無数の雷を解き放つ。ユウヤを焼いて灰にしてやろうとするその勢いに、周囲はパニック状態だ。
「うわあああああ、やべぇだろアレ!」
「ママーーー! こわいよぉぉぉぉぉ!」
「ちょ、誰か呼べよ警察、早く!」
だが、カエデはとある異変に気がついていた。どの雷もユウヤの身体スレスレのところに落ちるだけで、ユウヤに全くかすりすらしないのだ。激しい稲光ではっきりとは見えないが、どうにもユウヤがダメージを受けているようには見えない。
(ヒビキの性格からして、戦闘を避けるはずがない。だけど戦いの実力から考えると、あれだけ雷を撃って命中しないワケがない……なにかの準備なのかしら……まさか!)
カエデはとある情景を思い出した。大学内でユウヤと洗脳状態にあったヒビキが対決したとき、ヒビキも姿形を変えるとともに身体能力や錬力術の威力を向上させていた。だが、
そして、それは的中しており……眩い光と共に、まるでユニコーンをその身に宿したかのような男がそこに立っていた。正真正銘、本気の東雲ヒビキである。
「さて、鳥岡ユウヤ……準備は今整った! 今から迎え撃つ、その汚れた聖霊を!」
「ヒヒヒヒヒ……面白イナ。ナラ、返リ討チニスルノミ!」
「返り討ちにされないために、この力を発動したんだよッ!」
ヒビキの声が聞こえたその刹那、既にユウヤとの距離は数十センチにまで迫っていた。まるで音速とほぼ同じ速度、雷やユニコーンと例えるのに相応しいスピードである。
「今度はオレが勝って平和を守る番だぜ! さっさと目を覚ましやがれ、この野郎ッ!」
「ウルセエエエ、我ヲ見クビルナ!」
両者の拳がぶつかり合う。閃光のように目にも止まらぬ速さで鋭く食い込むパンチと、大ぶりで荒くれながらも巨大な兵器を彷彿とさせる逞しい腕から叩き込まれるパンチ。カエデはもはや見つめることしかできない。
(スピードのヒビキとパワーのユウヤ……どちらが勝ってもおかしくないけど、ユウヤは実質リミッターが外れている、それに対してヒビキは……)
強気の言葉を並べて果敢に戦うヒビキだが、その表情はかなり苦しそうである。まるで無理をして力を振り絞っているような、常に歯を食いしばって戦っているのだ。
(チッ……本当はこの力、あんまり多用すべきじゃねぇ……無理やり高圧電流を小さな回路に流すようなもの、いつオレの身体がショートしちまってもおかしくねぇ、だが……)
ヒビキはユウヤの腕を受け止めながらも、狂いに狂ったその目を見つめて決心する。
(ここに来たからには……それが義務だろうがッ!)
「神も恐れて泣き喚く雷をッ! ここに刻んでやらァ!」
ヒビキは勢いをつけて角をユウヤの肩に突き刺し、掛け声とともにその身を眩しく輝かせる。すると轟音と共にその角から凄まじい量の稲光が駆け巡り、ユウヤを継続的に攻撃する。
「アアアアアアアアッ! 痛いよなぁ、牛ちゃんよぉ! 痛いならさっさと……身体の主導権をユウヤに戻しやがれェ!」
「グアアア……人間如キガ……調子ニ乗リヤガッテェ……」
「それだけじゃねえぜ……雷雲は加減なんて知らねぇからな……さらに追加だ、億雷――」
「……
「何ッ!?」
ヒビキの猛攻に押されていたかと思いきや、突然ユウヤはヒビキを軽々と持ち上げ、ちり紙を投げるかのように軽く投げ、その巨体で思いっきりタックルを仕掛けたのだ。ヒビキは不意を付かれ、数メートル吹っ飛んだ。
「グアアアアアア!」
「次ハ我ノ番ダ! サァ、
「くそっ……何てバケモンを隠し持ってやがったんだ、ユウヤは……!」
「オイ、何ヲブツブツト、呟イテイルノダ? ソンナ余裕ハ無イハズダロウ……今カラオ前ハ……死ヲ見ルノダカラナ……」
「……ヒイラギッ!」
「……ム?」
ついにカエデが動いた。トゲトゲの葉を生成し、それを自分やヒビキではなく、暴走状態のユウヤに纏わりつかせたのだ。カエデは疼く片腕を抑えながらユウヤに宣告する。
「それは私の必殺技! 本当は護身用やカモフラージュの防御特化の技だけど……こういう使い方だってできるんだから……さぁ、好きに暴れなさいっ!」
「クソ……鬱陶シイ小細工ヲ!」
カエデが両腕をクロスさせると、無数の棘は鋭くユウヤに食い込む。ヒビキもその技の応用に一瞬驚くような表情を見せるが、その意味をすぐに理解して叫ぶ。
「ありがとよ……これでお互いに、時間を稼げる!」
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