第166話 岩屑流
「くたばれ……それだけだああああああああ!」
「おい、おい……! 何考えてんだよ! やめろ、やめろやめろやめろやめろ、タケトシィィィ!」
「野望……私の野望が……そんなの許せない! 小癪なガキがあああああああああああ!」
「へへへ……じゃあな……ユウヤ、月村さん、師匠、親父におふくろ、それに皆。今度こそ終わりだ。それと……ごめんなさい。約束、守れなくて」
タケトシの身体は火炎のように、いやマグマどころか太陽の如く輝いていた。誰が見ても分かる、タケトシは捨て身上等で、目の前の
「ちょっと待ちなさいよ、このガキ……うわああああああああああ!」
スズの叫びも虚しく、彼女は巨大な土塊に飲み込まれていった。それを見届けるように、タケトシもゆっくりと、地面に倒れていった。すぐにユウヤはタケトシに駆け寄る。
「おい……しっかりしろよ、おい!」
「へへへ……すまねぇな。この技の威力はオレの思いの熱さとかによって決まるんだ。それは公園の砂場に即席で作った小さな山から、何千メートルもある巨大な山まで、最小値と最大値の差はまさに雲泥の差なんだ……それに、他の皆の盾になるためには……仕方が無かったんだよ」
「おい……すぐに助けるからな! 救急車だって、なんなら……カエデに錬力術を――」
「そ、そうよ! 今から治してみせるから……アロ――」
「無理だぜ……月村さんだってこの前の戦いで結構な怪我を負ってる……それに、スズ《アイツ》のマークは今月村さんに向いてるだろう。
実際、今ので撃破できたとは限らない……よって錬力術を使わせて、消耗させるのは現実的じゃない……それにオレにはもう、三途の川が目の前にある……」
「おい、待て! 意識はあるじゃねえか、それならまだ……タケ、トシ……?」
「そ、そうだよ! タケトシくん……一体どうしちゃったのよ……!」
「……ごめんな。もう治る治らないのラインは超えちゃったっぽいんだ。今までお世話になったそう伝えてくれ、皆に。
それと月村……さん……ひとまずは無事でよかった、実は好……何でもない、ありがとう、あの日笑顔で話しかけてくれて。
最後にユウヤ……昔は世話になったぜ、嬉しかった……ずっと見守ってっから、鬼ごっこしたいからって……早くこっちに来たら……ゆるさ、ねぇ、ぞ……っ」
「タケトシ……タケトシイイイイイイイイイ!」
「嘘でしょ、そんな……! タケトシくん……!」
2059年4月末。岩田タケトシは……皆の盾となるためにその身を矛と化し、儚く砕けて散っていった……。
かつてタケトシが栄田と初めて稽古を付けてもらった日に見た、まるで未来の自分と喋るような夢。その中で未来のタケトシは、不思議なお願いを申し込んできたのだ。そのことを最期、ふとタケトシは過去の自分に会いに行くことにしたのだ。
「おおっと……ちょっと想像しただけで実行可能。マジで俺、死んじまったんだな……」
溢れることのない涙をこらえてタケトシは過去の自分に会いに行く。周りの風景は何も描かれていない真っ白なキャンパスのように虚無である。だが不思議とタケトシはある地点へと向かって行って、すぐに目的を果たすことができた。
「おっと、アイツが昔のオレか。客観的に見れば……確かに悪ガキっぽいな……って、おっと!?」
「痛たたた……一体なんだよ、これ!」
「おっと、ごめんな。気付かなかったよ、オレとしたことが……」
(オレとしたことが、過去の自分とぶつかっちゃったぁ。こうなることは分かってたはずなのに……過去は変えられない、ってことなのかな)
タケトシが時間という名の運命を悔やんでいると、幼いタケトシはどこからともなく聞こえる声に案の定驚いた。
「……えっ!? 喋った、空気が、風が喋ったああああああ!?」
「空気……風……」
(ユウヤ。今や、風といえばアイツのことしか思い浮かばねぇ……はぁ、辛いなぁ)
「……いや、なんでもないんだ。忘れてくれ」
「忘れてって……いや、そんなことできるワケないよ! 酸素とか二酸化炭素と会話できるなんて聞いたことないし! てか、誰なの!? もしかして……おば、け……?」
(その通りさ。死んでも忘れられない友達だよ、アイツは。それにしても『オバケ』か……自分にそう呼ばれるのはちと傷つくぜ)
「オバケ……ハハハハ、考え方によっちゃそうかもな……でもな、少年。あまり礼儀から目を背けるもんじゃないぜ。例えば、いきなり師匠をおっさんと呼んだりな」
「師匠って……いや、まだオレが負けると決まったワケじゃ……」
この会話は、今のタケトシにとっては聞き覚えがあるものだ。だが、過去の幼いタケトシにとっちゃ不思議な夢でしかない。でも、これからタケトシの身に起こり得ることをあれこれぶっちゃけるつもりは無かった。
自分に人生のネタバレをするのはなんか嫌だったし、タイムパラドックスとやらが起こってしまってはいけない。そう本能で、なんとなく察したからだ。
「……おっと、到着したみたいだぜ、それじゃ……運命に、抗えるだけ抗うんだ……んじゃ、おは――」
栄田の車がカフェに到着しそうなところで、タケトシは無理やり話を切り上げた。過去の自分にバトンはしっかりと託した。あとは過去のタケトシがしっかりと修行してくれれば、それでいい。
「……頼んだぜ、昔のオレ」
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