第164話 少年タケトシvs栄田
「……てか、誰なのマジで! 『知らない人と話をするな』って……先生が言ってたぞ!」
「え? 誰よりも君はオレのことを知ってるし、君はオレのことを一番理解してるはずだけどな」
「……え、その顔……オレ?」
「……おっと、到着したみたいだぜ、それじゃ……運命に、抗えるだけ抗うんだ……んじゃ、おは――」
「……よう。おはようございます、到着しましたよ」
気付くと、タケトシの目の前には栄田の顔があった。どうやら眠っている間に目的地へと到着したようだが、タケトシはまだ不思議な夢のことから頭を切り替えられない。
「んん……あれ、おっさ……栄田さん……オレ、変な夢を見てしまって……なんか、でっかくなったオレが夢に……」
「……ま、そういう夢もあるでしょう。ほら、今日は特別に臨時休業でさから。入っていいですよ」
「臨時休業なのに……? あ、はい……」
寝起きであまり回らない頭を、少し自らポンと叩いてタケトシは栄田のカフェの中に入る。カランカランという鐘の音が出迎えてくれた中には、まさにオシャレなカフェがどーんと広がっていた。
(うわ、いい匂いだ……お腹がすいてきちゃうよ)
昭和のレトロな雰囲気に思わずタケトシがうっとりする中、栄田はスーツとネクタイを脱いで壁にかけると、カウンター席のすぐ向かいにある大きな食器棚の扉に手をかけ、ゆっくりとドアを開けるように引っ張る。すると、なんとその棚の向こうには立派な道場が広がっていたのだ。
おしゃれなカフェからいきなり本格的な道場が現れたことにタケトシは驚き、思わず腰を抜かす。
「うわっ! え、カフェから和室が現れた!? どどどど、どういう仕組み!?」
「フフフ……今日見たものは、決して口外してはならないですよ? 私はあくまでも、しがないカフェの店主としてここに毎日立っているんですから」
「……通報しますよ、不審者として」
「ハハハ、冗談はさておき……タケトシ君。このカフェには隠し部屋があり、そこで私はたまに組手や稽古をしていまして、さらにすごいシステムも多数導入しており、いくら錬力術を使っても問題無し! 頑丈、それでいて怪我もしにくく修繕も簡単! この最高のスタジアムに……貴方を招き入れたかったのです」
「へぇ、すごいシステムねぇ……悪いけどなぁ、オレ達の世代はAIとかバーチャルリアリティとか、もはや家電とか日用品と同じような位置付けなんだよ? がっかりさせないでくれよ、おっさ……栄田さん」
「まぁまぁ、入ればすぐに納得しますって」
栄田はタケトシを優しく手招きする。栄田は半信半疑で“すごい道場”に入る。
床の感触や部屋の内装はかなりシンプルだ。いかにもすごそうな計測器が並んでいたり、ということは無い。昔ながらの武道場といった感じである。タケトシは着ていた小さなアニメキャラのワッペンが施された、黒色のシャツを脱いで白い半袖Tシャツと青いジーンズ姿になる。さらに少しでも雰囲気を出すため、まるで黒帯のようにシャツを腰のあたりに巻き付け、ぴょんぴょんと跳ねながら軽く準備運動をする。
「さっき言ってたよね……『そっちは錬力術は使わない』って! どんなに早い陸上選手でも……電車には絶対勝てないってこと、分かってるよなぁ!」
「ええ、当然ですよ。ですが……自分で言うのもなんですが、私は陸上選手どころか……チーター以上かもしれませんよ」
「……なら、オレは飛行機だってことを教えてやるぜ! 喰らいな……火山の力を!」
「……ぬっ!?」
タケトシが前屈みになり、膝に手をついていきみだした瞬間。タケトシの足元から床と畳を突き破り、大量の石がUFOに吸い込まれるかのように宙へと舞い上がり始めたのだ。
「驚いているようだなぁ、栄田さぁん! 今更降参なんてズルだからな……潰れろ、
「ほう……なるほどですね」
浮かび上げられた石は、まるで火山の噴火に伴い飛び散る岩石のように、まるでガトリングガンの弾のように拡散しながら栄田に向かって飛んでいく。
一発で決めてやったぞ、タケトシは既に勝利を確信してニヤリと口角を上げる。だが、やはり栄田はタダモノでは無かったのだ。
「……その技、名前の付け方。実に私と馬が合いそうですね。偶然、私も爆発、拡散型の技を持っていましてね……」
「な、何が言いたいんだよ?」
タケトシの脳内から「勝ち確」という言葉が消える。この栄田という男、初めから何か策を用意しているのだと!
「その攻撃、一欠片残さず迎撃しますよ……
「なっ……!」
なんと、まさかの栄田も同様に、同じような技を繰り出してきたのだ。まるで魚雷のように正確に飛び散る石を丁寧に捉えて衝突し、石を全て公園の砂場のようにサラサラとした粒体に変えてしまったのだ。
タケトシの心の底から、絶望と同時に怒りという感情がまるでマグマのようにふつふつと湧き出す。錬力術は使わぬ約束じゃないかと。それがメダルを冠する格闘家のやることなのかと。タケトシは彼なりの語彙と正義感で栄田を追及する。
「ず、ずるいぞ! そっちは錬力術使わない約束だろ!? それにさっき付けてたメダル……それなりの大会で結果残してんだろ!? 武道を……その……武道の心得ってものはねぇのかよ!?」
「あらあら……メダルについての洞察力は確かですが……私が言ったのはあくまでも、『錬力術を使ってタケトシ君を痛めつけたりはしません』です……つまり、防御として錬力術を使わないとは言ってません」
「そ、そんな子供騙しみたいな……バカにしやがってぇ……! なら、オレの本気の本気を見せてやるぅ! あああああああああ!」
タケトシは腕をブンブンと振り回して栄田に襲いかかる。だが所詮は子どもの悪あがき。大人、それも武道の達人である栄田にとってはもはや止まって見える動きであった。
「このっ! この、このこのっ! 当たりやがれ、ドッジボールでもプロレスでも……逃げて回るだけのヤツは嫌いだぜええええ!」
「そうですか、ならば……そらっ!」
「くあっ!」
タケトシは栄田に軽々しく持ち上げてしまった。まるでネコがネズミを捕まえたかのように……タケトシはジタバタ、ジタバタと暴れるものの、栄田は全く動じない。
「この……! こうなったら切り札を使わざるを得ないぞ、このヤロー!」
「切り札ですか、一体どんな技ですか?」
「へへ……ワンチャン、身体がぶっ壊れる諸刃の大技だよ……
その途端、タケトシの身体から強大な熱が放出し始める。驚いた栄田は思わずタケトシを離してしまい、その隙にタケトシは子どもの小柄さを活用して栄田の身を掻い潜って距離を取る。
そして……
(この技が親御さんから聞いていた大技……! タケトシ君、一体何を稽えて――)
「ゼェ、ゼェ……この技はな……本当にここぞって時しか使わないことにしている禁じ手なんだよ……毎回じゃねえけど……ものすごい疲労感や痛みに襲われるんだ……もう既に心臓がバクバクうるせぇし……だけど、だけど……!」
(なんだか地震のような揺れが……これはまずい!)
「
「これは……!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます