第158話 憤怒のスイッチ

「2人じゃどうにもできないって……たった乾電池2個の動力で、新幹線に勝てるとでも思ってるのかしら?」


「一体、お前がどこの誰なのか知らねぇけどよ……その傲慢さはあだにしかならないんじゃねえのかい?」


「それ、どういうことよ」


 スズはタケトシに攻め寄る。だが、タケトシは全く臆することなく、むしろ「隙を自ら作ってくれた」と思わず口角を上げる。


「……こういうことさ、防壁シールディングッ!」


「な、何ですって!」


「岩盤という牢獄で猛省しやがれええええええええ!」


 早速仕掛けたのはタケトシだ。タケトシは地面から大きな土壁をスズの身体の周囲に作り、たちまちスズを包囲した。

 スズは一瞬驚くような表情を見せたものの、軽くパンチしただけで左の壁に大きな穴を開けてしまった。そこから連鎖的に、壁が音を立てて崩れ落ちる。


防壁シールディング、なんてネーミングで驚かせておいて……餃子の壁レベルに薄いじゃない。結局、私の言う通り乾電池レベルね。所詮ただの人間――」


(確かにタケトシの作る壁はいつもより薄い……実はタケトシもどこか怪我を負っているのか? いや、タケトシのことだ、何かしら考えがたいあるはず……)


 確かに、いつもは防御技と表現して差し支えない程分厚く丈夫な土壁を作ることができるタケトシだが、今日に至ってはいつもの5分の1以下しかないのだ。これではまるで少ない泥を手で無理やり押し挟んで作った小さな出っ張りである。

 だが……タケトシの身体は無事だ。明らかにこちら側を見下しているスズの慢心を逆手に取り、わざと弱々しく錬力術を発揮したのであった。


「あぁその通りさ。お前の実力はさぞかしものすごいんだろう……だからこそ、あえて壁を薄くしたんだよ!」


「壁を、薄く……!?」


 まるでシャンパンタワーが崩れ落ちるかのように、周囲の土壁がボロボロと雪崩のようにスズの頭上に襲いかかる。死角からの急襲にスズはただ頭を腕で守ることしかできない。


「チッ、弱いがゆえの功名……だけど、今度は私がアンタ達を始末するターンなんだか――」


「今のだけで終わると思ったのか! 大地を沸騰させるアッチアチの火山弾ガトリングを今度はぶちかましてやるからよ……覚悟しやがれえええええええ!」


「チッ……鬱陶しい凡人共があああ!」


 間を置くことなくタケトシは追撃をスズに浴びせる。初動で削れるだけ削り切ってやる。それが今回のタケトシの戦闘スタイルである。

 もちろん、ユウヤもただそれを傍観しているだけでは終わらない。本気中の本気を出してスズを撃破する。そのために、まず精神統一を始めた。


(この女はただ者じゃない、だからありったけをぶつける必要がある……ペガサス、ケルピー! 同時に力を貸してくれ……!)


 そう念じた途端、ユウヤの身体は白と紺が渦の入り混じる神秘的でおどろおどろしい光に包まれた。メイが最期に託してくれた力。本当にヤバい時は、自らの身体に負担がどれだけかかろうとも、仲間を守るために、仲間が残してくれた力で対抗すると決めたのだ。


「うおおおおおおお……! 身体が潰れるように痛ぇ……だが……人を守るために戦う、そう決めたのはオレ自身だろうがあああああああ!」


 ユウヤはのたうち回りながらも、2体の聖霊の力を引き出そうと歯を食いしばる。タケトシがスズを止めてくれている間に、自分自身が責務をしっかりと全うしなければならない。そう心に決めたのだ。


「ウオオオオ……ウアアアアアアアアアアアアア……!」


「ユ、ユウヤ! 大丈夫か――」


「オレに構うな! 目の前の……あの女を……!」


「分かった! 背中は預けてくれよ……!」


「ごちゃごちゃとやかましいわね! もう私も容赦しないわ、最悪の現実を招いてあげる……!」


 スズは再び、地面に倒れたと同時に黒い陽炎に包まれた。魂を焼き、怨念を焦がすような音がメキメキと微かに聞こえてくる。


「これ……ユウヤとかと同じタイプの技じゃねえか!」


「……奴の“準備”だ、身構えろタケトシ!」







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