第157話 援軍

「さぁて……どうやって遊んであげましょうかねぇ……ジェフリーちゃんから読み取った情報によると……?」


 スズはカエデの負傷した腕をじーっと眺めながら、カエデの情報をぶつぶつと呟く。


「月村カエデさん、リサトミ大学の農学部。洗脳状態にあった東雲ヒビキが大学を半壊させたことにより、現在はオンライン授業による課題に追われつつも、コウキちゃんやチーム・ウェザーのことについて情報を持ち前の頭脳で集めている、と……なかなか迷惑なコトしてくれるじゃないの、このアマ!」


 自分達のことを調べられていることを再確認した途端、スズは唐突に機嫌を悪くする。それはホリズンイリス族に歯向かう者だからではなく、スズ自身の野望である「どちらの味方もせず、ただ第三勢力として戦う」上で想定外のことを起こされては困るからであった。


 スズの錬力術、いや魔術のスキルは卓越している。1つの技を生み出せば、その使い道を瞬時に10個は思いつくし、さらに改良して様々な追加効果も生み出せる。


 スズのIQは常人の数倍以上、頭脳戦で勝つことなどまず不可能である……が、そんな彼女にも弱点があった。それは想定外の出来事に弱いこと。

 頭がいい故、常人の行動を読みきれないのだ。「こうするのが合理的、だから普通な皆こうするはずだ」と考え、それに固執することがたまにある。例えば人間がハエを追い払おうとしたり、叩き潰そうとしたりしてもハエはそれを避けるものの、すぐに近寄ってくる。これが人間なら、危険回避のためにその者から離れようとする者も多いが、ハエは全くそれをしない、できない。

 これがスズと一般人の間にある「合理」の差であり、時々スズの足枷となっている。だからこそ、「変」な立ち回りをしているカエデに憤怒したのであった。


「今、夢の中かしら? そのまま永遠にその世界に閉じ込めてあげるからね……」


 スズが腕に力を集中させ、カエデの頭を掴む。その途端、地中から無数の人影が生えてきて、カエデの身体の上をくるくると舞い始めた。


「自分で撒いた種なんだよ、クソ野郎ちゃん……それじゃ、本当にお休みなさ――」


「待ちやがれ、その手を離せ!」

「おい! その人を傷付けたら……オレが許さねぇ!」


 間一髪、カエデの前に現れたのはユウヤとタケトシであった。ユウヤは何らかの方法で”拘束“から逃れ、“勇者御一行”グループで変な女に襲われそうになったらすぐ報告するように緊急で情報を共有していたのだ。

 これ以上、メイのように犠牲者を出さないために。



――――――

『くそっ……本当に動けねぇ、底なし沼にでも入っちまった気分だぜ……このままじゃ、タケトシが、イチカがカエデが、もしかしたら栄田さんに……真銅せ……いや、オレの家族、あるいは同じサークルのヒュウマに……ああ、一体誰なんだ!』


 スズという女は、今度は誰を襲いに行くのか。せめてまずはそれだけでも考えろ……頭をフル回転させていると、突然とあるアイデアが舞い降りた。

 ユウヤの脳裏に浮かび上がる、とある情景。かつて寂し山で老婆の悪霊に襲われた時になんとなく使ってみた技を思い出したのだ。



『どうせなら試してみるか、あの新技!』


『何? 新技じゃと?』


『この前電車の中でふと思いついた技だ、ふざけて思いついた技だが本当に使い時が来るとはな、ブラストスピットボール! さぁ、はやく成仏しな!』



(確かあの時、相手の拘束技を振りほどこうと使った技だ……)


 使い時が分からず、ほとんど実用化しなかった技、ブラストスピットボール。スピットボールとは野球のルール違反的な行為で、ボールに唾をつけることで回転が変わり、物凄い変化球が投げられる……といったものだ。

 ユウヤは拘束してくる異物を唾液に見立て、それによる生まれる不思議な回転により異物を吹き飛ばす……そのような一見ふざけた技を応用し、全身に風を纏って、全身で“ブラストプピットボール”を発動し、なんとか拘束から逃れたのだ。

――――――


「チッ……またまた邪魔者、妨害者、クソ敵ィ! 本当にバカ野郎ばっかりでイヤになっちゃう……私が絶対的に、永遠とわに正しいってのに!」


「バカ野郎なのはそっちだぜ、クレーマー野郎! 今はSNSっていう連絡手段が当たり前になってんだ、おーっと失礼、伝書鳩あたりで知識が止まってたかな?」


「お、おいユウヤ……一体何の話だ?」


「まぁ……因縁ってやつかな、こっちの話さ」


 ユウヤがしつこくスズを挑発したことで、怒りの矛先はユウヤとタケトシに向く。


「アンタ達……私のことナメてると、本当に地獄を見るわよ? なぜなら私の錬力値は……75000rはあるかしら? 確か、普通の人が200くらいだから……流石にこの意味が分かるわね?」


「錬力値……これってチーム・ウェザーの奴らが使ってた値じゃねえのか!?」


 タケトシはすぐに理解した。少なくとも、この女はチーム・ウェザー、あるいはあのコウキに関係がある人物であると。だが、フィジカルや人数ではユウヤ、タケトシペアに分がある。


「カ……いや、月村さんは今戦える状態じゃねぇ……オレ達がやるぞ。そしてカエデさ……月村さんはこの前の戦いで怪我しちまったんだ。もし……もし万が一のことがあれば、オレはもう……!」


「あぁ……これ以上”死人“は……出してはならねぇ」


「し、死人……?」


「しまっ……!」


 ユウヤは口を滑らせてしまった。メイが亡くなったことは皆にまだ明かしていなかった。タケトシは一瞬「何があった」「なぜ言わなかった」みたいな顔になった。

 だが、今やるべきことはスズの撃破だ。第3の野望を止めるために、2人は戦闘態勢に入る。


「本当に許さない、許さない、本っ当に許さないから! こうなったらこの3人、まとめて地獄送りにしてあげる!」


「させねぇよ……逆にお前に地獄を見せてやるよ」

「大分因縁が深いんだな、ユウヤ……だが、オレもいるからよ。共に戦うぞ!」

 

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