第159話 タケトシの覚悟
「アッハハハハハハ! そういえばジェフリー・ホリズンイリスちゃん。さっき、私のこの姿を既に見てたわね。だけどあんなの、実力の半分も出していない! 横のお友達と共に地獄へお見送りしてあげる!」
「気をつけろ、アイツはやべぇ! その気になりゃ、何振り構わず人の魂を喰らうことすら厭わない!」
「へえ……結構な地雷に目つけられちゃってんじゃねえか」
「さぁ、ご覧なさい……ケルベロスの力をね!」
ユウヤにとっては二度目、スズが意気揚々と見せた姿は腕に犬の首を鞭を巻き付けたかのように装着したようなものであった。だが、何より先程と違うのはスズも歯を強く食いしばり、八重歯がギラリと刃物のように鋭くユウヤ達を睨んでいることだ。
また、スズの目もまるで鬼のよう、これを見て怖気づかない者が果たしているだろうか? とにかく、今のスズは本当に本当に「ブチギレている」状態だ。
「1秒の油断も許されない……タケトシ、覚悟はできているな?」
「当たり前よ……こんな黒い正義に酔いしれた奴らに世界の未来は任せられんからな」
「黒い正義、ですって……?」
突然、スズはタケトシの言葉に反応する。
「そうだ……ユウヤから話を聞く限り、お前は逆らう者どころか自分が気持ちよくなるためだけに人を襲う……力と恐怖で取り繕った正義など存在しな――」
「……私達の寿命は人間を遥かに上回る。世界史の教科書をテスト前に眺める現代人なんかより博識なのよ!」
「な、何が言いたい?」
「……私はこれまで、多くの歴史を実際に目にしてきた。時代によってルールも価値観も裁き方も移り変わってきた! 他人の命を奪うことが悪とされる時代も、自らの領土を広げるためにどんどんそれが行われる時代も!
決定的な立証が求められる時代も、少しの証拠や根拠無しに、魔女やへの恐怖というふんわりとした感覚とこじつけだけで人を処刑する時代も!
だからこそ言える、正義なんて空想上のもの! どうせ数年経てば壊れて移り変わる、薄くメッキがかかっただけの屑鉄! だからこそ私は私の信念に従って生きるだけ! そして、早速それを見せてやるわ……喰らいなさい、バーサークッ!」
スズから生えた犬の首から、まるで嵐のように無数の弾丸が飛び出してくる。タケトシは
「まずい……この威力はッ!」
「……おらああああああああああああ!」
慌ててユウヤは突風を弾丸に向けて吹き荒らし、勢いを少しでも和らげる。だがあまりにもスズの力は強大であり、ユウヤがデッドリフトをするボディビルダーのように歯を食いしばりながら全力で応戦しているのに対し、スズの顔は気迫を感じさせるオーラを発しながらも、まだまだ涼しいままだ。
聖霊2体の力を使っても、全くスズには歯が立たない。そんな彼女からの攻撃を生身の人間がまともに喰らえば、致命傷で済めば幸運レベルかもしれない。いくら屈強でタフなタケトシとはいえ……ふと「最悪の光景」が脳裏によぎってしまったユウヤは、捨て身の覚悟でさらに力を振り絞る。
「グアアアアアアアアア……! まだだ、200パーの力をぉぉ……!」
(何よ……!? まだ力を出せるっていうの!? 本当に鬱陶しいガキめ……!)
「まだやる気なのね、ジェフリーちゃん! ”諦める“ってこと、いい加減学んだ方がいいんじゃない?」
「うるせええぇ……! 変な理想掲げやがって、諦める以前に破綻してんだろてめぇよおおおおおお!」
台風レベルの暴風と、ミサイルの如し弾丸が共にぶつかり、押し合う。1つどころか、もはや2つも3つも上の次元を目の当たりにしたタケトシはなかなか動けずにいる。
「何なんだよ、これ……」
ちょっと前まで、ユウヤとタケトシは大して特別な縁があるワケでもない、古くからの友達という関係であった。だが、ある日突然日常が壊れ、共に共通の敵と戦い、気がつけばユウヤは風のようにタケトシを置き去りにしてどんどん成長していた。言葉を失って突っ立ってるばかり、そんなタケトシを見てスズは嘲笑う。
「背中は、預けてくれよ……とか言ってた僕ちゃん……目の前で仲のいい友達が苦しんでるんだよぉ? 何もしないの? ほらほら情けないよ?」
「……あぁ、そうさ。情けない男だよオレは。一歩も動いていないんだからな……」
「苦しいでしょ? 逃げ出したいでしょ? だから楽にしてあげようって思ったけど……そこの
「あぁ、楽になりてぇよ。だから……」
突如、タケトシは空高くを眺め、意味深に呟いた。スズもその違和感に気付いて頭上見上げると、それは大きな大きな、まるで山のような塊が浮かんでいたのだ。岩、花や木、それらをミキサーにかけたような……巨大な茶色い塊だ。
ユウヤもそれにすぐに気付いた。何をしようとしているんだ? 一瞬理解できなかったが、数秒経って察した。タケトシもフルパワーを出すつもりなんだと。
「……今ここでお前を倒し、自信を得ることにしたんだよ!
「くそっ……棒立ちしてたのではなく、大技の準備をしてただけ! この野郎……”大人“をナメんじゃないわよ!」
「何歳なのか知らねえが……しっかりと学び続けることは大事だぞ? んじゃ……続きは地の下で」
「地の下……嘘だろ、おいタ――」
……違う。タケトシが発揮しようとしているのはフルパワーどころじゃない。身のキャパを超えた力。例えるならば、ラジコンカーで音速を超えようとしているような……その身を焦がさんとする覚悟が垣間見えたのだ。
「……うあああああああああああああああああ!」
ユウヤの声をかき消すようにタケトシは大声を出しながら指を鳴らした瞬間、ゆっくりとその塊はスズへ向かって落ちていく。
「くたばれ……それだけだああああああああ!」
「おい、おい……! 何考えてんだよ! やめろ、やめろやめろやめろやめろ、タケトシィィィ!」
「野望……私の野望が……そんなの許せない! 小癪なガキがあああああああああああ!」
「へへへ……じゃあな」
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