第154話 過ち
(ならばパターンその2。この霧は目眩まし、カメレオンのように擬態してどこかに隠れているパターンだ……だが、それだと本当に困る。オレに索敵能力なんてねぇし……デタラメに攻撃しまくるのも現実的じゃない、こうなったら……!)
「……おい、アヌビスとやら。こんな勝ち方をしてお前は嬉しいのか? それが神を名乗る一族の勝ち方なのか? ゲームのハメ技みてぇなことしやがってよぉ、ああ恥ずかしい恥ずかしい〜」
ユウヤは突然、スズを徴発し始めた。だが、これもユウヤの作戦の内である。もしこの煽りによりスズの怒りを買うことができれば、発せられる怒号からスズが隠れている場所をある程度絞れるかもしれない。あるいはスズが攻撃を仕掛けてくることで、それこそスズの隠れている場所を特定できる。
ここは一般人も多く並ぶアイス屋、派手な戦いは避けざるを得ない。普通は正攻法じゃない作戦も、安全に勝つためには狡猾になることこそが時には正攻法となり得るのだ。
「そっちから喧嘩売っといて隠れんぼですかぁ、いい歳してるらしいスズさんがー。ああそうですかそうですか、童心に帰りたい時もありますよねぇ」
(頼む、頼む! 反応してくれ、釣られてくれ! そんな慎重な性格で地獄の番犬とやらが務まるのか? 暴れろ、喰らいつけ、さぁ来やがれ犬飼スズッ!)
だが、それでもスズが反応することは無い。それどころか、作戦が全く通用しないことと、19歳といい歳して中学生みたいな煽りをした自分自身に煽りがブーメランのように返ってきては突き刺さり、思わぬ心理的ダメージを負ってしまった。
(あぁ……聞こえてたらどうしよう店長とかに)
そんな時だった。バックヤード外の方から、客のものと思われる怒号が次々と鳴り響いてきたのだ。
「おい! なんで店員が1人もいないんだ!」
「もうすっかり長蛇の列よ、あと何十分待てばいいのよ!」
「えっ、この店やばくない? 星1付けとこ……」
「っ! しまった、だがこんな時だと言うのによ……!」
忘れてしまっていた、今まさにワンオペで店番を任されていたことを。ついに、バックヤード扉の前に怒りをあらわにした客がぞろぞろと並び始める。だが
「も、申し訳ありません! ただ今説明しがたい大変な状況となっております、命の危険があるので絶対に皆様動かないよ――」
「うるせぇ! さっきから強盗なんてみてねぇぞ!」
「……てか、誰だよこの女!」
怒り狂った、ある1人の客がアイスを勝手にケースから取り出して雪玉のように投げてきた。それにつられてどんどん他の客もアイスを投げてくる。
「うわ、ちょ、ちょっとやめてください……!」
こちらも説明不足とはいえ、この店の客層はどうなってるんだ……そう思ったその時、久しぶりにスズの悲鳴が響き渡った。
「キャッ、ちょっと冷たいじゃないの!」
(……ん? 今の声は確実に
2Dスクロールゲームのような図で考えると、置かれたオブジェクトは左から扉、黒い霧、そしてユウヤ。ユウヤの目線からはスズの姿は見えないが、扉からは見える。
ついにユウヤは謎が解けた。簡単なトリックですらない、単純な隠れ蓑だったのだ。この霧はユウヤの目の前に表面上貼られただけの壁。恐らく前側からの攻撃を吸収するとか、マンガなどでよくあるタイプの防御技だった、それだけの話だったのだ。
まるで地上から見た、雲の上に隠れし太陽。地上にて荒れ狂う竜巻は、ついにその陽光を捉える道筋を見つけたのだ。
(そういやさっき、気になること言ってたな、寒さがどうのこうのって……)
『ああ、苦手なのよチョコミント……アイスはバニラかキャラメルしか食べないことにしてましてぇ。清涼感みたいなのが苦手なのよね〜寒さの二重攻撃? って感じで』
(寒さが苦手、冷たいのが苦手なのか……? いや、それは安直すぎる。それなら、そもそもアイスを食べに来ないような……いや、逆にそれこそ考えすぎなのか?)
ユウヤはバックヤードにアイスが飛び交う中、急いで冷凍庫に向かう。小さなビジネスホテルの部屋ほどある中から、霜や冷えた段ボールをこれでもかとかき集めてポケットにしまい、再び黒い霧の前に戻る。
「いるんだろ、そこに! 今度はお前本体に攻撃を食らわせてやるからよ!」
ユウヤはポケットから霜や段ボールのかけらを握りつつ、霧に向かって突進する。さらにダメ押しでケルピーの力も発動し、暴風・激流・冷凍のコンボで霧に拳を叩き込む。
「体感温度は一体どれくらいだろうなぁ!? さぁ貫くぜ、目瞑っとけえええええ!」
「なっ……! やめなさい、それだけは……!」
「おーっと、やっぱりそこにいるらしいなぁ、さぁ……攻撃開始だあああああ!」
ユウヤの拳は霧を貫き、スズにようやくダメージを与えることに成功した。スズはバックヤードの扉に叩きつけられ、ケルベロスの力を不意に解除してしまった。
一般的に、「聖霊の力」を発動している者とそうでない者の間には大きな大きな力の差が生じる。形勢逆転、ユウヤは勝ちを確信する。
「ハッ……しまった、私としたことが!」
「さぁ、覚悟してくれよ……繰り返すが、オレはお前と仲間になんて絶対になら――」
「……私としたことが、ついにリミッターを解除してしまったわ」
「リ、リミッター……だと?」
「ええ……本気と理性のリミッターを、お前がヘマをかましてくれたお陰でな!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます