第151話 聖霊ケルベロス

「……犬飼スズ、 それで、一体どういう理由でオレを攻めに来た? 説明するんだ!」


 ユウヤはスズをバックヤードに連れていき、ユウヤのもとを訪れた経緯を尋問する。しかし、対するスズは反抗的な態度を見せてくる。


「……本当にいいの? 私は一般人からすればまさに不老不死の存在。『彼ピッピ』とやらは星の数ほど作ってきたわ。そんな私に歯向かえば……さっきみたいになっちゃうわよ、ジェフリーちゃん?」


「……いいから答えろ。その名でオレを呼ぶってことは、何か重要な野望か事情でもあんだろうが?」


「あのねえ、私こう見えても歳上なんだよ? ホリズンイリス族は超長生きするんだから……ま、簡単に理由を説明してあげる」


 スズはユウヤを襲撃した理由を説明し始めた。幸い、未だ店長や店員は未だバックヤードの奥でヘタれている状態で、端から見れば厨二臭いこの会話を聞かれることはなかった。


「……あれはつい先日のこと。私の住む関東でも、コウキ・クヌム・ホリズンイリスのためにその身と理性を捧げる者が急増したわ」



――――――

『グエエ……コウキ様二、従ウゾ……』

『ギギギィ……理想ノ世界ヲ作ル!』


『うわあああああ! 助けてくれええええ!』

『いや、嫌ああああああああ!』


『コウキ様って……やれやれ。あの野郎、やってくれたねぇ!』

――――――


「最近はかなり増えたけど……以前から少しずつ、コウキの野郎……いや、当時でいうチーム・ウェザーに忠誠を誓う人は少なからずいた。私は形だけでもアイツらの上司として威厳だけは保っていたけど……どうしてもコウキをはじめとする多くのホリズンイリス一族のやり方や思想に賛成できなかったし、こっそりと逆に一族側に敵対し続けてたわ」


「へぇ……さっきは堂々とオレに襲いかかってきたくせにな。それに、オレも同じように戦い続けてる毎日だってのに」


「そう。そこで提案があるの。それはね……私と一緒に、第三勢力として一族と人類、両方と戦おうよ」


「……本当に馬鹿でスマン。文脈がつながってない気がする、オレは頭がパンパカパーンだからな、本当にごめんな」


 ユウヤはスズの提案になどハナから乗る気はない。ただ、一体何を企んでいるか全く持って意味不明なだけに、少しでも取調べをしておくべきだと考えたのだ。


「……いい? さっきのエントロピーの話と一緒。いくら人類のために戦っても、私達もホリズンイリスの名を冠している以上、いつしかスパイとかどうだと言って目の敵にされる日が来る。それなら、最初から第三勢力として動いた方が、後からバカな人類共にさらに絶望を重ねなくていいでしょ?」


「……簡潔にまとめてくれ、何が言いたい?」


「最初からネガティブに考えて動くべきだと言ってるのよ。とある物事により受けうる損害を数字で表すとして、一般的な回答が『10』 だとすれば、私達は最初から『50』だとして準備をしておく。

 そうすれば、例えば『20』とかが結果として現れても、『50』に対する準備をしておけば想定外の負債を負うこともないし、楽観的に『損害の量は3でしょ』と考えていたバカみたいに想定外のダメージを後から喰らうこともなくなる。

 ネガティブとはつまり、未来へのリスクヘッジかつ投資なのよ」


「……失礼だがオレはこの一族として生まれてきてもなお、人類を、仲間を、友達を家族を守るだけだ。お前の言う、その損害とやらを『9以下』、いや最低でも限りなくゼロに近い数値にするために動いてんだよ。オレはお前と違ってな」


 対話を初めてからずっと、ユウヤとスズは全く意見が合わない。考え方がまるで真逆、交わることは無い、2人の意見は平行線上、その線分の距離も限りなくかけ離れているのだ。

 極寒の大地のように凍てつく空気、それは同時に鉄球のように重苦しい。この女と分かりあえることは金輪際無いだろう、ユウヤは痺れを切らして乱暴に立ち上がる。


「大体さ、お互いにコウキ達と戦ってるならそれでいいじゃないか。オレはお前と直接バディーを組む気が全く無い。それだけだ」


「へぇ。悪い話じゃないと思うんだけどねぇ……せめて岩田君、月村さん、奥野さんに手を出すつもりは無かったんだけど」


「……っ! おい、何企んでやがる!? 脅しのつもりか、それが!」


「あれれ? 私別に、まだ『襲う』って断言したワケじゃないけど? 敵意振りまいてると、周りから人いなくなっちゃうよ?」


 突然、スズの表情が落胆から言葉では表し難い、とても邪悪なものに変わったのをユウヤは見逃さなかった。まるで、ユウヤの奥底に眠る何かを見透かしたかのように。


「アンタには……ざっと数えて5体は聖霊が取り憑いてるね。中でも最もヤバい影が見えるのよね。そいつがアンタの友達、身内、知り合い……すべての魂を喰らい尽くそうと。つまり破滅に導こうとしてるわ」


「は、破滅……だと!?」


 ユウヤの脳裏に、メイの姿がよぎる。まさか、まさかそんなハズがない。ユウヤは必死に否定する。


「オレが把握している聖霊はペガサスとケルピーの2体! それぞれ土壇場でしか実力を出し辛くなるのと、スポーツしてるときヘマをかましまくる、それがデバフだ!」


「ケルピー? そんなレベルじゃないよ、未だに奥底に潜んでる聖霊達はね。でもそのうち姿現すんじゃない?」


「……おい、頼むから教えてくれ! 一体何なんだよ、不安になるだけだろ!」


「……なら戦闘本能をむき出しにしなさい。さすればきっと姿を表すわ。このようにね!」


 スズは突然ゾンビのように床に崩れ落ちたかと思いきや、その身体は黒い陽炎に包まれる。そして中からは、牙をむき出しにした番犬の頭が、それぞれ両腕に載っかるように生えてきた。そして、スズの眼も深淵のように恐ろしいものに変わったのだ。


「私の聖霊はケルベロス。そして能力は、同時に3人までその魂を奪うこと……さぁ、お友達をここに呼んで断罪してやるわ!」




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