第150話 タテマエと本音
(スズとかいう不審者に攻撃すらできない以上、まずはアイスを売ってこの列を捌くしか……)
「し、失礼いたしましたぁ! チョコミントですね、お次の方は……カフェオレですね、次の方は――」
「ふーん、意外とテキパキ動けんじゃん。これは『使える』わね……」
(こいつ……絶対出禁だけじゃ許さねぇ)
スズはニヤニヤと笑いながらユウヤの仕事っぷりを観察する。ユウヤはスズの傍若無人っぷりに苛立ちながらも、顔に表情が出ることを抑えながら長蛇の列を捌いていく。
だが、1つ問題があった。今はゴールデンウィークという繁忙期、ユウヤ1人で到底何とかなる人数ではない。
実は、ここにもスズの「策略」があった。スズは既に同じシフトを組まれていたバイト仲間をバックヤードに軟禁していたのだ。「働くのがダルい……」内心そう思っていた1人のアルバイターの気持ちをユウヤ以外の店員に襲いかからせ、全く動かない状態にしたのだ。
「ほらほらー、早くしないとどんどんお客様は増えていっちゃうわよ? 仕事が遅い店員がいるって……本部にクレーム入れちゃおっかなぁ?」
(ああもう……! 何なんだよこいつは、てか
イライラが既にマックスに達しつつあるユウヤは、意図せずとも仕事が少しずつ粗くなっていく。そして、仕事というものはそういう時に限ってやらかしとなり現れてしまうのだ。
「いらっしゃいませ注文はバニラですね料金は300円となり――」
「あ゛ぁ? んだてめェ、その工場のライン作業みてぇな接客はよぉ、気に入らねぇ……なあぁぁ!」
「ぐああっ!」
突然、コワモテの客から矢が飛び出し、ユウヤは防ぐことができず撃ち抜かれてしまった。何が起こったのだ、周囲は騒然とする。
「こ、これは何だ……いきなり矢が現れて……まさかこの男もコウキの刺客なのか!?」
「ノーノー。その人の『思い』よ。『ムカつくからくたばっちまえ』とでも思ったんだろうねぇ。あ、あくまでも私の術によるものだから……恨むならやらかした自分か私のどっちかよ?」
「クソ女ぁ……よくも……ぐふっ!」
ユウヤは胸を押さえながら体勢を崩しながらも、ギロリとスズを睨みつける。どうせ攻撃しようにも再び客から「店員に対するヘイト」という名の呪縛に自分が苦しめられるだけ、ユウヤはただじっとすることしかできない。だが……
「おいおいおいおィィ! 早く注文に答えやがれ、ゴラッ! さもなければ、この通りにしてやんぜぇ?」
怖い客の男はメモとペンを放り投げてきた。そこには「10秒以内にケジメつけろ、さもなければ痛い目に合わすことを誓います」という殴り書きと共に署名欄が用意されていた。
変に名前を書いて「契約成立」させられ、後から法外な要求をされても困る。一体どうすれば……ユウヤはダメもとで、男に謝罪を申し出る。
「大変、申し訳ございません……今から署名いたしますので、少しお待ちを……何せ僕は今、血だらけで力が出な……い……ピンチでございま――」
「ハァ? 言い訳してんじゃねえぞゴラァ! さっさと書け、責任取れるヤツの名前をよぉ! さぁ、早くしやがれぇ!」
「ゴブァァ!」
「キャハハハハハ! あー、面白い面白い……このまま無様な姿を見届けようかしらね」
さらなる攻撃がユウヤに襲いかかり、それをスズが嘲笑う。だが、誰もユウヤを助けようとも、男を止めようともしない。まさかこれも、スズの能力の1つなのだろうか。ついにユウヤは何かを決心したのか
(責任、か……なら、仕方あるまいな……)
ユウヤは腕をプルプルと振るわせながら文字を綴り、男に見せつける。早速、男はそれに目を通す。
「フン。なになに……『責任を取るのはそこに立ってる女、スズです』だと? てめぇふざけてんじゃ――」
男の脳内に、一瞬でも「スズが責任を取る」という情報が走る。その瞬間、今度は男の怒りがスズに向き、鋭い矢がスズを狙いすまし男の身体から飛び出したのだ。
「えっ、ちょっと何で私!?」
「お前が言ったんだぜ、ハァ、ハァ……他人からの様々な思い。それが『すべて対象者への攻撃となる』となぁ。文章で『責任を取るのはそこの奴だ』って書きゃあ……一瞬でも意識はそいつに向くよなぁ?」
「な、な、そんな……!」
「ヘヘッ、かなり動揺しているなぁ、スズさんよ。後から聞かなきゃあ成らないことは山ほどある。だから……今はこれくらい弱らすことで許してやるからよ!」
「わ、私が負けるなんて……ありえな――」
「タイフーン・ストレート……キャッチボールバージョンだあああああ!」
「ひ、ひゃあああああああああ!」
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