第139話 栄田の本気
「三本の矢……くらいなさいっ!」
「グゲェェェ……」
「グアアアア……」
「グオオオオ……」
「やっぱり栄田さん、すげぇなぁ……」
まだ古傷が痛む中でも、栄田はどんどん敵を倒していく。一瞬意識をそちらに持っていかれそうになったが、背後から肩を掴まれたことでユウヤも我に返る。
「ぐわっ、あぶねぇ! あっちいけ!」
「グエエッ!」
「フガッ!」
栄田が合流してくれたことで、異形達の残りの数は6体になった。今のところ一般人が巻き込まれた様子はない。ここはまとめて決着をつけよう、ユウヤが必殺技の準備を仕掛けようとしたその時だった。
「フガアアアッ!」
「ギャアアアア!」
突然、異形達が自ら倒れ始めたのだ。まだ攻撃してないのに、まるで電池が切れたロボットのように、全員ゆっくりと倒れた。
「な、何だ!? 一体何が起こってるんだ!」
「鳥岡君、ここは後ろに下がって!」
「……え?」
「……ハハハハハハ、お見事、お見事! 第1ウェーブ、見事クリアだ!」
「誰だ!」
ユウヤと栄田が頭上を見ると、メイの館の屋根に男が1人立っていた。ユウヤも栄田はその人物に見覚えがない。だが、彼は一方的にこちら側のことを知っているらしい。
「オレの名は砂越アラン……チーム・ウェザー、いやコウキ様に仕える戦士。そして、今のゾンビ野郎達を操っていた張本人でもある」
「ゾンビを操る……!? まさか、アクセサリーを模した洗脳装置をこいつらに装着させたのも!?」
「その通り! コウキ様が作った洗脳装置。どれほどの効果があるのかオレも把握しておきたくてねぇ、無理やり指にはめ込んだのさ」
コウキは2つの顔を持つ。表向きは有名インフルエンサー、そして裏の顔は恐怖と力による世界統治を企む、ホリズンイリス族の仲間。どうやらこの男は、コウキが表向きにアクセサリーとして販売した指輪の効果を試すために、通行人に無理やり装着させたのだという。
なんと残忍な男だろうか? こんな奴、絶対に許すワケにはいかない。1秒でも早く始末してやる、ユウヤはアランに詰め寄ろうと足を進める。
「この野郎……消す」
「無駄無駄。オレはお前の情報をすでに仕入れている。弱点、戦闘スタイル、必殺技など全てな!」
「と、鳥岡君ちょっとお待ちを! アイツ、かなり危険な香りが――」
栄田の静止を振り切り、ユウヤは聖霊の力を発動させる。藍色の繭に包まれたユウヤは、魚の尾と馬の鬣を両立させた人間ともでも言うべき姿に変貌していた。
(な、何だこの姿は!? 確かユウヤの野郎、ペガサスとしかコンパウンドできないはず……!)
「フン、どうやら驚いてるご様子だな……その顔、まるで『聞いてたのと違う』とでも言いたげだ」
「別に勝つのはオレだ、どっちでもいい。ま、興味あるから見せてくれよ、お前の新たなスタイルを!」
「言われなくともやってるさ、既に」
「は?」
アランがふと足元に目を向けると、巨大な渦潮が既に両足を拘束していたのだ。アランは慌てて跳ねたり足を払ったりして逃れようとするが、すると逆に渦潮はアランを飲み込もうとする。
「マリアナ・プレデター。そのまま沈んで消えな」
「ぐあああああ! 溺れてしまう……!」
「最期に言い残すことはあるか、砂越」
「……馬鹿野郎」
「……あ?」
アランは屋根から飛び降り、両足に噛みついていた渦潮を振り落とすと、ニヤニヤと笑いながら自分の左腕を高く空に掲げて叫んだ。
「コンパウンド発動、サラマンダーだぜ!」
砂漠の太陽を彷彿とさせるような、真っ赤な光と陽炎がアランを包み込む。そしてその中から現れたのは、トカゲのように長細い尾を生やし、全身から炎のようなオーラが溢れ出ている。
「……こ、こいつも聖霊を!」
「ギャハハハハハ、その通りさ! 聖霊は聖霊をもって制する! それくらい当然だよなぁ、さぁくたばれ鳥岡ユ――」
「……聞かねばならぬことがあります」
「ぐっ! な、何じゃジジイ!」
突然、栄田はアランの前に立ち塞がった。誰も認識できなかった、栄田が動くのを。アランは栄田をどかそうと殴る、蹴りを繰り返すが、栄田はじっと仁王立ちでその猛攻に耐え続ける。
「さ、栄田さん何してるんです! 聖霊の力は人間の数十、いや数百倍! 気がついたときには骨と肉、全て溶けてるかもしれませんよ!?」
「ヒ、ヒヒヒ! その通りだぜジジイ、お前はオレの攻撃により燃え尽き、砂漠の砂のように消えていくんだ! この一撃でな、ミラージュ・バーントォォ――」
「貴方、先程『洗脳した』と言っていましたね、ここに倒れる数百人を」
「……焼き崩れろ、クソジジイイイイ――」
「言いましたよね、洗脳したと……無関係の人間をっ!」
「…………………ブゴォッ!」
「っ!? な、何が起こったんだ!?」
栄田はアランの猛攻に全く臆することなく、逆に強烈な反撃をくらわせた。アランは一瞬、ラグが酷いFPSの敵のように小刻みに素早く振動すると、そのままドリルのように回転しながら地面に叩きつけられた。
「ハガッ……フゴッ……この、ジジイ、一体何をしやがったんだ……」
「『一体何をしやがったんだ』、その質問をお返しします……答えなければ、分かってるでしょう」
「チッ……」
「さ、栄田さん……」
言動が180°変わり果てた、見たこともないまでに激昂した栄田の姿が、ユウヤの目の前にあった。
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