第138話 栄田と山浦 その3

「な、何だよ……出してみなよ、答えてやるよ!」


「……今、7本。これなんだ?」


「な、7本!?」


 スフィンクスは鳩が豆鉄砲くらったみたいな顔をする。そもそも問題の意味が分からない。いくらでも回答へりくつが考え出せそうな問題だし、でも分かりませんなんて言えるプライドも無いし……慌ててスフィンクスは答えを考える。


「ラクダは違うし、クモでもゴキブリも違う……え、三輪の車を牽引してる人間2人……? でも『今』って――」


「時間切れ、不正解。正解は……父に残った毛の本数です」


「し、知るかそんなのおおおお! ノーカウントだ、ノーカウント!」


「おやおや……口ではそう言っていても、本心は違うようですよ」


「なっ……!」


 スフィンクスは、自らの体が再びメイの中に戻りつつあることに気がついた。それは霧のようにどんどん薄れていくような感じで、気がつけば豪雨もだんだん弱まりつつあった。


「栄田……この野郎、いつか見返してやるからな、むごい方法で――」


「……貴方のその力を、封印する方法は一体なーんだ?」


「この期に及んでまだクイズをぉぉ……!?」


「答えられないなら不正解。さぁ、答えるのです……!」


 スフィンクスは完全に詰んでしまった。答えてはそのまま封印される、嘘を付いたり答えなければ、それは不正解を意味してしまう。スフィンクスはもう意地を張るのをやめて、小さな声でつぶやく。


「……何かしらの物体でこの霧を包むだけだ。本当は獄霊石がベストだがな」


「ならば……このメモ帳にでも封印しましょうか。おらっ!」


「な、何だとおおおおお!? メ、メ、メモ帳ぉぉぉぉ!?」


「さぁ、その罪を償うのです! 幼い少女にの中に潜み、よからぬ野望を叶えようとした罪を!」


「ぐぉ、ぐぁ、ぐあああああああ! たす……て、……ス様ぁぁぁぁぁ!」


 不思議な断末魔を残しながら、スフィンクスはメモ帳に封印された。しかし、栄田が安堵してリュックにメモ帳をしまおうとした瞬間、奇妙な現象が起こった。なんと、勝手にメモ帳がバタバタと音を立てながら浮かび上がり、激しい光とともに全てのページがバラバラに抜け落ちてしまったのだ。


「まさか……まだ生きているのか!? 魚雷チェイシング! シュレッダーにかけるので……って、これは……?」


 抜け落ちたページをよく見てみると、何やら文字と絵らしきものが描かれていた。乱雑な殴り書きや走り書きで認識するのは難しいが、それぞれ「戦車」とか「世界」が表現されていることに気が付いた。


「……タロットカードですか」


 スフィンクスが不意打ちしてこないか神経をとがらせながらもカードを回収していると、メイが目覚めたようで栄田に話しかけてきた。


「ふぁあ……何がありましたの……」


「いえいえ。お嬢さんを蝕んでいた聖霊とやらを、ここに封印したんですよ」


 栄田はタロットカードをメイに渡す。


「確かに、肩が軽くなったように感じるわ……」


「それなら良かったです。ちょうど雨も上がったようですし……私はそろそろ行きますね」


「え、ちょ、待って、待ってくださいまし……!」


 メイは慌てて栄田を制止する。栄田が振り返ると、メイは不思議な水晶玉を両手に抱えながら語りかける。


「……時々、夢の中に出てきていいですか? あのスフィンクスに与えられた力、色んな種類があって……わたくし自身も、色々と探求したいことがまだあるの」


「探求……錬力術とか、あのスフィンクスのことですか?」


「はい……私も気になる、だからお願い! ……おじさん、結構物知りそうですもの……」


「そうですか……分かりました。私の方でも、古文書等を探してみます。なにか情報があれば……お互い夢の中で、交換しましょう」


「……うん!」


 こうして、一旦栄田とメイはお別れをした。突然の大雨に見舞われたので、残念ながら栄田のキャンプは中止となったが、彼は落ち込むことなく近くの図書館に出向き、早速聖霊や錬力術に関する本を読み漁った。


 対するメイも、スフィンクスという腫れ物を体内から追い出したことで、錬力術をかなりコントロールできるようになり、やがて孤立することも少なくなっていった。


 それから定期的に2人は夢の中で聖霊等に関する研究を行うようになった。結局、栄田は最後まで「取り憑いた者にバフとデバフを与える」ことしか分からなかったが、メイはその先、様々なことを発見できた。そして、メイが短大を卒業した21歳の春。占いの館を開き、オカルトから人間関係まで、様々なことで悩む人々を助ける凄腕占い師として活躍したのであった。


 だが、そんなメイも命を落としてしまい、ユウヤと栄田の前には無数の異形が蠢いている。栄田の眼は、これまでに見たことがないほどに燃え上がっている。


 2人はお互いに顔を合わせると、黙って頷き、それぞれ反対方向へと駆け出した。

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