第136話 栄田と山浦 その1
時は2044年5月上旬、今から約15年前に遡る。
栄田は当時プロの武道家として名を馳せており、どんなに大きい規模であろうと、大会に出ればほぼ確実に決勝戦までたどり着いていた。
そんな栄田の趣味はミニキャンプであった。テントを張って一晩そこで過ごしたりするワケではないが、山などに出かけて自然の中で温かいご飯を食べるのが好きだった。
「久々に連休も取れたことですし……関東の方にも行ってみますかね」
繰り返しになるが、栄田の好きなスタイルは日帰りだ。実は虫があまり好きではないので、刺されたり噛まれたり、いつの間にかテントの中にでっかい謎の虫が侵入してたり……そんなことを嫌って、ご飯を堪能したらさっさと帰ることにしている。
だが、この日だけは珍しく遠くのキャンプ場へ行くことにしたのだ。普段なら考えもしないプラン。だがこの日だけはまるで何者かに導かれたかのように、気付けば宿を予約し、一泊分の荷物も用意していたのだ。
朝早くから栄田は車に荷物を詰め込み、早速高速道路に乗って目的地へと進む。幸いこの日はかなり道路も空いていて、気がつけば県と県を次々とまたぎ、あっという間に目的地に到着した。
「ほう……思ったより人は少ないようですね」
栄田はガラ空きの駐車場の隅に車を停めると、荷物をまとめて早速山へと入っていく。木漏れ日が心地よい山道を進んでいると、見知らぬ少女が1人、ぽつんと切り株の上に座っていた。周囲を見渡したところ近くに知り合いはいなさそう、まさかはぐれてしまったのだろうか? 栄田は屈んでその少女に語りかける。
「おやおや、大丈夫ですか? 近くにパパとママはいますか?」
「いえ……逃げてきたんです」
「逃げて……きた?」
栄田がその言葉についてふと疑問に思った瞬間、突然少女は指先を空に向かって突き上げる。すると青空の中に浮かんでいた巨大な入道雲が真っ二つに裂け、周囲の木から生えていた青々とした葉っぱも全て抜け落ちたのだ。
(あ、明らかに今のは5年前発見された錬力術! しかし、まだ12歳ぐらいのこの子が、これほどまでの力を!?)
驚く栄田を見るやいなや、彼女は悲しそうに栄田に話し始める。
「
「一体……まさか、ひどい仕打ちを受けているとか?」
「まぁ……むしろ私自身が怖がられてる感じですわ。今のおじさんみたいに」
「えぇっ……ごめんなさい……」
意図せず少女の傷を抉ってしまったようだ。栄田は頭を下げる。だがなんとそれを見るやいなや、少女は逆に謝り返してきた。
「いえ……私が悪かったの。だって……私は3歳の頃から……こうやって変な力で周りの人に迷惑かけてきちゃった」
「3歳……つまり今から9年前、ってことは……錬力術が発見されて1年後ですか!?」
「うん……でも私だってわざとじゃなかったもん! ただイメージしたものを生み出せたり、人の感情をコントロールできたり……でも、悪気は無い! ただちょっと脳裏によぎっただけでも、それは現実のものになってきた!」
メイは辛い出来事を思い出したのか、手を顔に当てて泣き始める。すると、それに共鳴するかのようににわか雨が降り始めたのだ。
「もう私を止めてよ……ムカつくって思っただけでその人は少なくとも大怪我をしちゃうし、大好きだった体育の授業でもカッコつけてボールを投げたりしたらそれは砲弾みたいになる! もうイヤなの、私がいたら世界が、世界がおかしくな――」
「なりません! ほら、受け止めますとも私がその力を!」
「えぇ!? でもそんなことしたら、そんなことしちゃったら……あっ……!」
雨はさらにその勢いを増し、風は地面を抉らんとする勢いで暴れ回る。大地は震えて空を貫こうと試みるし、木々は悲鳴と狂乱の絶叫を上げる。
「ほら……さっそくなの! 私が恐れられるのは当然、だから……だから……!」
「ぐっ……! だが、こういう時こそ急がば回れ、まずは”
栄田は足元を踏みしめながら、地面に巨大なエネルギーを送る。すると轟音を立てながら大きな大きな土の壁が現れたのだ。それを見たメイは一瞬、暴走状態が落ち着かせた。
「お、おじさんも同じ力を!?」
「えぇ。まだまだ発展途上ですがね……さらにいきますよ!」
栄田は生成した壁を変形させ、なんと簡易的な小屋を作ってしまったのだ。
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