第130話 メイからの警告

 ユウヤとイチカが、そしてタケトシとカエデが敵とそれぞれ戦った日の翌日。大雨が降る中、とんでもないニュースがお茶の間に流れていた。


『速報です。昨日さくじつから急激に全国各地で増えている、錬力術を用いたトラブルや事件。その影響を受け、緊急で下水流しもずる総理は会見を開きました』


「全国各地……! ヤバいじゃねえか、これ……!」


 ユウヤはテレビの音量をこれでもかと大きくする。


『……人類の歴史に新たなる風を吹き込んでくれた錬力術。それを悪用した事件が急増していることは誠に、誠に遺憾である!

 捜査当局、そして特殊錬力隊の警備体制を直ちに強化し、我々も法整備などを急ピッチで進めていく、以上!』


『総理、総理! 質問に答えてください、総理ー!』

『総理! 一昨日の、例の生配信との関連性は無いとお考えですかー!』


 ニュースでは他にも、視聴者から提供された数多くの映像が添えられていた。突如、錬力術で施設や人が襲われる映像、他にも山で土砂崩れを起こしたり、川を反乱させたりする映像。コウキの策略により、わずか1,2日にして日本各地は大パニックに陥ってしまったのだ。


 かつて洗脳されたヒビキがリサトミ大学を破壊したあの光景が、日本のあらゆる場所で行われているのだ。そして、テレビの前に釘付けとなっている今も、どこかで悲鳴が起こっているのだろう。

 ユウヤは特に焦燥感に駆られていた。1人でも多くコウキによる洗脳を解かなければ大変なことになると。数秒間で周りの状況は変わらないなんて分かっているのに、何度も何度も窓から外を見たり、家の中をうろつき回ってしまう。


(今日は4月27日、まずい……ゴールデンウィークとなれば、人が集まった場所でアイツらが事件を起こす可能性だって高い!)


 ついに居ても立ってもいられなくなったユウヤは、メイに「敵が多くいる場所」、「最寄りの現場」を占いで教えてもらうことにした。スマホを開き、通話開始ボタンを押す。


「頼む、出てくれよ……!」


 通話アプリの、独特な呼び出し音が連続して鳴り響く。だが、一向にメイが出ることはない。ダメ押しにと、特に意味のないスタ連で催促してみるが、それでも変わらない。


「……ああっ! こうなったらもう、オレが空飛びながらパトロールするしか――」


 呼び出し状態にしたままスマホをベッドに投げ、おもむろにパジャマを脱ぎ、外着に着替えようとしたその時だった。メイが1通のメッセージを、メッセージグループ「勇者御一行」へと送ってきたのだ。慌ててスマホを見ると、そこにはただ一言、



「くるなこっちにげてすぐ」



 と、残されていた。メイが通話に出ることはない。ただ不穏なメッセージと共に、聞き飽きた呼び出し音が鳴り響くだけだ。


「来るなこっち、逃げてすぐ!? な、何があったんだ……それに何が来るというんだ! 教えてくれよ!」


 当然、返答は無い。だが、何ただなる存在と恐怖が間違いなく、ユウヤに一歩一歩、近づいてきている……それを実感せざるを得ない。


 念のためユウヤは、カエデ、タケトシ、イチカにも電話をかける。カエデは腕をひどく怪我してしまっていたが、命に別状がないことを確認できた。今のところ、3人が無事であるということが分かったが、気になるのはメイの身に起きたことだ。SNSでエゴサーチをしてもそれらしき投稿は見られないし、カエデ達もメイに関する情報を何も持っていなさそうだ。


 真実を掴むにはメイの館に駆けつけるのが一番手っ取り早そうだが、本人から「逃げろ」「来るな」とだけ残されてはなかなか下手には動けない。

 それに、いつもはお嬢様を繕っていたはずのメイが、「くるなこっちにげてすぐ」と送ってきたことが気がかりで仕方が無い。


「……どうしたらいいんだ、こういう時! 間違ったら……確実に死ぬ!」


 今家にいるのはユウヤだけ、母はパートに行っている。逃げろと言われても、家を出て状況を知らない母を家に独りにすることはできないし、かといって動かなくとも敵は迫っているんだろうし……

 ああ、どうすればいいんだ! あたふたしているユウヤのところに、ついに「奴」は来た。カーテンとカーテンの隙間から確認できた。確実にユウヤの家の前に、こちらを眺めている何者かが立っているのだ。


「……まさか、アレが?」


 ユウヤは「奴」にバレないようにそっと外を見ることにした。ノートパソコンに小型のWEBカメラを接続し、それを窓のレールに設置する。そしてパソコン側から「奴」を監視していると、突然「奴」はその場で踊りだした。


 大きく手を振りながら、小刻みに激しく跳ねる。時々口を開けて何かを叫んでいるようにも見える。大雨の中、傘ではなく紫色の帽子みたいなものを振りながら、ずーっと、踊っているのだ。


 ……ユウヤはその紫色の帽子の正体に気付いてしまった。メイの帽子だ。いかにも占い師って感じの、ミステリアスな被り物。

 最悪の心配が確信に変わってしまった。「奴」はメイを倒して、今度はユウヤを倒すためにやって来たのだ!

 

 ユウヤは恐怖と驚きのあまり心臓が止まりそうになる。まるでユウヤの存在とその行動に気付いているかのようだ。慌ててカメラをオフにしようかとも思ったが、気付かれている可能性が高い以上、その行動は逆に危険かもしれない。


 ユウヤは深呼吸をし、再びパソコン画面の映像を注視する。すると、今度は何やらポケットから折りたたまれたノートの切れ端とペンを取り出し、何やら文字を書き始めた。

 だが、雨の中なので当然、すぐに紙はダメになった。ボロボロになった紙を「奴」は10秒くらいじーっと眺めると、怒り狂ったように地面に叩きつけて踏みつけ、ついにはユウヤに向かって、


「使えねぇ、クソ紙がぁ! おいお前、お前もこうしてやるから出てこいボケがぁ!」


 と叫ぶと、再び変な踊りを再開した。もうユウヤは、どうしたらいいのか分からない。本当にメイを倒したならば、下手に攻撃をしてしまっては瞬殺されるかもしれない。メイの錬力術は栄田マスターお墨付き、そんなメイがあんなヤツに討ち取られたなんて……少なくとも今のユウヤは、怒りよりも得体のしれない恐怖が勝っていた。







 








 


 

 


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