第129話 呪いの写真
一方、H県。タケトシはカエデを念願の初デートに誘うことに成功していた。2人は港町に到着すると、潮風に包まれた都会の景色を堪能していた。大パニックが今から起ころうとしているのを知らずに……
「わー、見て! あの船すっごーい!」
「マ、マジっすね! クソでけぇ、いやーマジすごいっすね!」
「ねぇねぇ、タケトシ君! せっかくだし写真取ろうよ、顔出し看板もあるし!」
カエデが指差したのは観光地にありがちな顔出し看板だ。海原をバックに立った航海士風の人の顔部分が切り抜かれており、そこから顔を出して写真を取ることができる。
「お、おおう! んじゃそこの人に撮ってもらおう! すみませーん、
タケトシは近くにいた芸術家風のやや年老いた男に写真を撮ってもらうことにした。男は快く撮影を受け入れてくれて、2人が看板から顔を出すのをゆっくりと眺めている。
そして、手持ちのチェキでニタリと笑いながらシャッターを押す。その瞬間タケトシは違和感を持った。なぜスマホではなくそのカメラなのか、と。だが、時すでに遅し、シャッター音が鳴り響いた瞬間、2人は意識を失ってしまった。
「……あれ? 確か写真を撮ってもらって……体が動かない、なんでだ……?」
「……え、私寝てた? ってあれれ……金縛り? 何これ?」
「気付いたようですなぁ、ワシの呪いに!」
「の、呪い……!? って、うわあああああああ!」
男は早速プリントした写真を2人に見せてきた。なんと顔出し看板の穴の部分にはイラスト風のタケトシとカエデの顔が埋まっていたのだ。つまり、2人は男の呪いとやらで顔出し看板と一体化してしまったのだ!
「ワテの名は
「とんでもねぇ野郎だ……カ、カエデさんとオレを早く元に戻せ!」
「そ、そうよ! 早く解いてください!」
「駄目じゃ! アンタらはコウキ様のご意向で、消さねばならぬ存在なんですぞ!
このままアンタらは雨に打たれ、潮風を浴びて、流れ行く時と共に錆びて朽ちる運命、現代文明の崩壊と共に消えていくんですな!」
ネンザブロウはベンチに腰掛け、ビールを飲みながらに看板と化したタケトシとカエデを眺めている。腹が立ったタケトシは、力でネンザブロウに抵抗することにした。
「かなりやりにくいが、仕方がねぇ!
「タケトシ君それ大丈夫!? あの人倒しちゃったら、逆に私達一生このままになったりしない!?」
「ちょ、ちょっとビビらすだけさ……」
タケトシは周りに落ちている小石を中に浮かび上がらせ、着火してネンザブロウに投げつけようとする。だが、これも呪いによってなのか、看板の周りに落ちてある石がタケトシの錬力術に全く反応しないのだ。
「くそっ……おかしい、なぜだ!」
「ケヒャヒャヒャヒャ! 言ったはずですぞ、今アンタらは『看板のイラスト』という2次元空間と一体化している、と。この世界、つまり3次元世界の物に直接干渉することはできませんなぁ!」
「嘘……だろ!?」
「しかしっ! 3次元であるワテからアンタらに攻撃することは可能ですぞ!
晴れた日のイラストでも、上から絵の具で雷雨に描き変えられるように、水平線のイラストに無数のサメを描けるように! その他にもこの小石を……ガトリングゥ!」
「キャアアッ、腕がぁっ!」
「大丈夫、月村さん!?」
ネンザブロウは足元に落ちていた小石を看板にぶつけて傷付けることで、カエデにダメージを与えたのだ。イラストと同化し、ポーズが一定化されているので動くことができないが、本来であれば腕を抑えてうずくまってもおかしくない程には苦しみの声を上げている。
「クソジジイ……良くも月村さんを!」
「……助けてやる条件が1つだけありますなぁ。それは……コウキ殿に従い、この錬力術とやらで溢れた世界を壊すことじゃ!」
ネンザブロウは腕につけた洗脳装置を高々と掲げながら大声で宣言する。彼が言うには、タケトシ達は死ぬかコウキに従うか、その2択らしい。そんなことしてたまるか、タケトシは意地でもネンザブロウを黙らせようとするが、今は看板に閉じ込められた状態、ピクリとも動くことができない。
(3次元世界の物に直接干渉ができないなんて……この看板の中に描かれているのは海と木目の港だけ、オレには成すすべが無い!)
タケトシが頭を抱えていると、カエデが何かを思いついたようにタケトシに話しかけてきた。
「今、心の声……漏れてたよ……?」
「月村さん! その腕、大丈夫!?」
「ううん、ありがと。『木目』で私も思いついた、この状況を打破する方法を!」
カエデは気合を入れ、念をイラスト上の木板に集中させる。すると木板はガタガタと音を立て、浮いたかと思いきや看板を抜け出し、ネンザブロウに向かって一直線に飛び出したのだ。
「まずい! この木板をイラスト化して無力化せねば! 早く写真を、写真を……!」
「私の術は植物を操り、または生成する! 今写真を撮っても遅いわっ! さぁ、悔い改めなさい……!」
(月村さん、結構怒ると怖いんだな……)
バタバタバタアン……と音を立て、ネンザブロウは木板に埋もれてしまった。その衝撃で気が抜けたからだろうか、ネンザブロウの術は解け、2人は看板から開放された。腕を抑えてその場に腰掛けるカエデを背に、タケトシはパチン、パチンと腕を鳴らしながらネンザブロウに詰め寄る。
「ヒ、ヒィ……! すまんかった、すまんかった! あのコの治療なら、ほら! とあるアニメ作品から持ち出してきた薬草に、お金だって! これで治療を受けに行くことだって――」
「……うるせぇ、そのカメラを置け。そしてその腕輪を貸しやがれっ!」
「ひ、ひぃ、それは……!」
タケトシは洗脳装置を地面に叩きつけ、
「消えろ!」
と叫んで燃やしてしまった。ゼェ、ゼェと息を荒くしながら怯えるネンザブロウだが、それを見てタケトシは、今度は呪いのチェキとらを取り上げて観察し始めた。
「へぇ、これで2次元世界に行けるんだぁ……名前何、だったかな……オレ達の仲間に、物に錬力術のエネルギーを込めている人がいるんだ。その類かなぁ」
「そ、そうかもしれませんな! 早く返してくれませんかな、ほら……もうコウキとやらには従わな――」
「あー待て待て。反省してもらわないとな、2次元の世界で……」
タケトシはカバンの中から1冊の紙を取り出し、折り目をつけてネンザブロウの後ろに立たせた。
「な、何をするんだ……!」
「なーに、弟がこの前勝手にカバンに入れてきた迷路さ。ただ……」
「た、ただ?」
「『リタイアするか捕まるかすると、挑戦者はバケモノに喰われる』って設定付きだけどなぁ! はい、チーズッ!」
「ぎ、ぎにやぁあああああああああああ!」
ネンザブロウは迷路の世界へと吸い込まれていった。それを確認したタケトシは、怪我をしているカエデに駆け寄る。
「大丈夫、その腕……? 酷いな、肩から二頭筋まで大きな傷になってやがる……」
「だ、大丈夫だよ! 痛くて錬力術はしばらく使えなさそうだけど……タケトシ君も大丈夫?」
「だ、だ、大丈夫だ。ありがと。
それにアイツは……今度は迷路の世界に行っちまったみたいだし」
「迷路の世界……?」
一方、その頃……
「ギャハハハハハ! オレサマはマスター・ウルトラハイパードラゴンギャラクシー・スーパーマスターファイアメテオレジェンドゴッドドラゴンドン2世だ! 喰ってやるぅぅぅ!」
「く、喰われるぅぅぅ! 『マスター・ウルトラハイパードラゴンギャラクシー・スーパーマスターファイアメテオレジェンドゴッドドラゴンドン2世』に、喰われるぅぅぅ! 嫌ああああああああ!」
ちゃんちゃん。
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