第128話 ビリビリ注意報
「イチカ、大丈夫か! イチカ!」
「ん……うぅ、ユウ、イチ……?」
「ユウヤだ! いっつも名前間違えやがって……でも安心したぜ……」
イチカはユウヤの声掛けですぐに目覚めた。どうやら命に別状は無さそうだ。このままデート再開と行きたいところだが、ユウヤの目の前にはまだ洗脳されし狂戦士達が立っている。こいつらを倒さなければ、平穏は訪れない。ユウヤはイチカに手を貸して立たせ、互いに背中合わせになって周囲の敵を見つめる。
「……戦えるか、イチカ?」
「バッチシよ! それじゃ、またまた勝負やっちゃいますか! 多く倒せた方が勝ち、それだけだ!」
「ヘヘッ……受けて立つっ!」
ユウヤとイチカは同時に駆け出し、目の前の敵に攻撃を仕掛ける。いくら人数では圧倒的不利でも、2人には自信があった。特にユウヤには……
「ケルピーよ、黙っててくれよ……! コンパウンド、ペガサスッ!」
「おいっ、ずるいぞ! こうなったらウチも……フェニックス、再び力を貸しなっ!」
ユウヤの体が白い光に、イチカの体が赤い光に包まれ、それぞれ翼と尾を生やして敵に向かって攻め立てる。ユウヤもイチカも、暴走状態には……陥らない。
「はっ! おらっ! ぶっ飛べぇぇっ!」
「グオッ!」
「ンギャッ!」
「オラオラオラオラァ! わからせてやっからな、コウキが掲げるのは偽りの正義だってことを!」
「アチィッ!」
「ンキャアア!」
流石、聖霊の力だ。普段の何倍、何十倍もの力を発揮できている。仕組みは定かではないが……そんなの今は関係ない。
バッタバッタと、流れ作業のように敵をダウンさせていく。そして、ついに残るは最後の1人となった。
「観念しやがれ、ラストの生き残りさんよ!」
「アンタもわからせてやる、ウチがなぁ!」
「……クッククククク。面白いなぁ、面白いなぁ2人共ぉ!」
突然、最後の1人は笑い出した。何か隠し玉でもあるのだろうか、ユウヤとイチカは気を引き締める。
「コウキ様が昨日やったみてぇに、最高のショータイムを今から見せてやる! さぁ、ご覧あれィ!」
男は大げさに指をパチンと鳴らす。すると同時に街中の光がストンと消えた。停電だ。昼間なだけに周囲が暗くなるということはないが、なぜか唯一、駅に取り付けられた巨大なモニターだけが何やら映像を流し続けている。
《……す! 速報です! ただ今、日本各地で暴徒と化した男女が暴れまわっている模様です!
中には翼やツノなどを生やしたような者も存在し、共通して『コウキ様』『ホリズンイリス族』という意味不明な言動をしているとのこと! 皆様、どうか不要不急の外出は……って誰だお前、ウアアアアアアアア――》
ニュースの速報らしき映像は、アナウンサーが「何者か」に襲われたところでカラーバーの映像と音声に切り替わった。
四方八方から悲鳴が聞こえる。逃げ惑う足音が聞こえる。その光景はリサトミ大学がヒビキに襲われたあの時とそっくりであった。怒りのあまり唇を噛みしめるユウヤとイチカを見て、謎の男はさらに続ける。
「今から始まるのは現代事変ッ! 人類が何百年も積み上げてきた記録はリセットされるのだ! 農地も家畜も、様々な発明も、この娯楽に溢れた現代も全てな!
火が発明されるかどうかくらいまで時間は巻き戻され、そして魔術を使えるホリズンイリス族が今度こそ、世界を支配し歴史を創るのだァ!」
「何者だ、お前……! タダモンじゃ無いみてぇだがなぁ!」
ユウヤが男の胸ぐらを掴み、至近距離で問い詰める。すると男はユウヤを鼻で笑い、そっと呟く。
「オレの名はカイル! 得意な術は電気と電波、そして磁力の操作! ただそれだけさ!」
「ほーん……わざわざ手の奥を明かしてくれたなら、お礼に素早くぶちかましてやらぁ! タイフーン・スト――」
「そのお前のニット! ニットってなぁ……オシャレだけどモノによっては肌がチクチクするよなぁ? 一体なぜだろうなぁ?」
「まさかっ……離れ――」
「無駄だぜクソ野郎! 溜まりに溜まった静電気を増幅させ、お前の頭からつま先まで襲わせてやらぁ! オラアアアアアア!」
「ぐ、ぐああああああああああ!」
ユウヤは全身を駆け巡り続ける電気に襲われた。身動きが取れず、ただその場にとどまり続けることしかできない。
それを見てイチカはカイルに奇襲を試みる。
「大丈夫か、ユウゴ! そいつ吹っ飛ばすから待ってろ!
「気付いているぞぉ! お友達だ、ほらほら止まれ止まれぃ!」
「くっ……
イチカは急遽ブレーキをかけると同時に別の技に切り替える。燃え盛る脚を舞うようにカイルに突き刺す。だがカイルはそれも読んでいたのか、自らの体を横にブンッと振って胸ぐらを掴んだままのユウヤを盾代わりにする。当然、攻撃はユウヤに命中する。だが……
「ぐああああああ!」
「す、すまんユウ……キャアアアアア!」
「フッ……本当に馬鹿丸だしだなぁ! 当然、お
「くそっ……それにしてもなぜオレはイチカに蹴り飛ばされずに繋がったままなんだ……グアアアアア!」
「磁力を操ると言っただろう! 血液中の鉄分、そして靴やベルトやらに使われている微量の金属を反応させてんのさ!」
「くそっ……大ピンチだぜ……!」
最悪だ。服を着ているというだけでカイルはそれを武器として利用できる。仮に絶縁体の服を着てきたとしても、今度は街中の電波や電気を武器として利用するだけだろう。どうしよう、こうしようと考える間にもどんどんユウヤとイチカの体力は奪われていく。
「くそっ……大体、なぜ
「あぁ? それはこの服が絶縁のヤツ、そして中にゴム板を入れて――」
「ほう、どうやら自分は電気から逃げたいらしいなぁ、違うか?」
「電気から逃げ……? ハッ!」
「へへへ……動けるか? イチカ……イチカがこうして繋がってから、少し電気の威力が下がった気がすんだ……回路とやらが2倍になったからかな?」
「……あぁ、分かってるぜ。言おうとしてることはぁ!」
「ヘヘッ……じゃあいくぜ、せーのっ!」
ガシッ、ガシ! 2人は同時にカイルの足首と肩を掴む。すると今度はカイルの体にも電気が流れる。
「グゥゥッ……! まずい……! グアアアッ!」
「かなり悶絶してんなぁ、カイルさんよぉ! もしかして本当は弱いんじゃねえのか? オレはさらに、威力が弱まって楽になったけどな?」
「その通りだ! このままじゃ自滅しちゃうぞ、カエル!」
「ぐっ……小癪な……!」
カイルは攻撃を中断する。だが、既にカイルはユウヤやイチカ以上にダメージを負ってしまっているようだ。それを見たユウヤとイチカは同時に技を放った。
「タイフーン・ストレート・千本ノックだあああ!」
「
「ふ、ふごおおおおおおおおおお!」
猛攻に耐えきれず腕輪が割れ、蜂の巣状態となったカイルは空高く飛び、イチカのとどめで花火のようにドカーンと爆発した。
「うまくいったな!」
「おう!」
だが、喜んでなんていられない。いつ、どこから敵が何人襲ってくるか分からないし、その危険はユウヤとイチカだけに留まるものでは無かったからだ。
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