第127話 怒り猛る台風
イチカは敵に囲まれていた。軽く数えただけで10人はいるだろうか? いくらイチカの錬力術のスキル、格闘センスを持ってしても、コウキにより超・強化された人の相手をまとめてするのは難しい。
イチカはとにかく視線をぐるぐると回しながら死角から攻撃されるのを牽制する。だが、一歩踏み出すということができない。下手に動けば、ドライバー男のタックルがイチカに襲い掛かる。
「くそ、まずはユウヤとか誰かが助けに来てくれるまで粘るしか……」
「んな暇ねぇだろがぁ! 突撃だああああ!」
「ふおっ! あぶねぇぞお前!」
先にしかけてきたのはドライバーの男であった。まるで闘牛のような突進を間一髪かわすことができたが、さらなる追撃がイチカに襲いかかろうとしていた。
「コウキ様の力を……」
「コウキ様からの恩恵を……」
「コウキ様……見ていてください……」
「こ、こいつら一体!?」
10人以上が、一斉に手元に錬力エネルギーを球状に作り出す。炎のように燃えるような球、水のように揺らぐ球、岩石のようにカチカチな球……その姿はまさに十人十色、合わさり虹でも描かんというそのカラフルな球がいっせーのーで同時に投げつけられた。
「「「くたばれ、散れえええええ!」」」
「
周りからの猛攻に、それぞれ火球をぶつけて対抗するイチカ。四面楚歌な鍔迫り合い状態の中でも、地面に脚をしっかりと踏み込み、いきみながらも攻撃を防ぐ。
しかし、単純計算でもイチカに降りかかる負荷は10倍以上。いつまで
「ぐっ……! 肩がはずれる、膝が砕ける……!」
「グアアアアアア……奥野、イチカ! よくもチーム・ウェザーを妨害してくれた! コウキ様いわく、アイツらはいい駒だったというのに……グアアアアアアアアア!」
「へッ、へへへ。随分と苦しそうじゃねえかよ……ウチだって、その腕輪を破壊できればそれでいいんだ。さぁ、大人しく差し出しな……」
「あぁ、分かった、分かったから……そっちに行く、だから……」
「あいよ、んじゃ……腕差し出しな」
意外にもドライバーの男は唐突に180度態度を変え、両腕を前に差し出した。未だ攻撃を受け続けているイチカは既に全身が汗だくだ。イチカは口元に小さな火球を作り、それを腕輪に向かって放射しようとしたその瞬間だった。
「んなワケねぇだろ、アホクソ野郎! 脳みそじゃなくて腐りかけのナスビでも詰まってんのかこん野郎ぉぉぉ!」
「ぐふっ!」
やはり男は洗脳から逃れようなんてしていなかった。強烈な膝蹴りがイチカの横っ腹に突き刺さる。力が抜けたイチカに、色とりどりで残酷な猛攻が降り注ぐ。
「ぐあああああああああああああ!」
「ハッ、ハハハ……ギャッハハハハハハハ! ずっと思ってたがバカだなぁこの野郎……! オレは付いていくと決めたのさ、コウキ様に、そして……」
「「「「ホリズンイリス族に!」」」」
気絶し、全く動かないイチカ。その周りを男達は取り囲み、わざと弱々しい威力で水の錬力術をぶつけ、ビチャビチャになった姿を見てさらに高笑いした。
「ギャーッハッハッハ! 次はオレがやるぜ、ギャハハハ!」
「おいおい、オレの番だって!」
「いや、アタシよアタシ! 水の扱いは自信あるんだから――」
「へぇ。ずいぶんと盛り上がってんじゃねえか、混ぜてくれよ」
「おぉ、いいぞいいぞ……って、テメェはさっきのチビ!」
イチカのもとに駆けつけたのはユウヤだった。ドライバーの男はかなり驚いているし、周りの見知らぬ仲間も何だ、何だと言わんばかりにユウヤを見つめる。
「覚えてくれていたか、ありがとな。だが、これは『お礼』じゃなくて『布告』だぜ」
「ふ、布告?」
「よくもオレの大事な仲間を、友達を、イチカを! ここまで侮辱してくれたなぁ、本当にありがとう、そして散りやがれ、ゴミ野郎」
「い、一体何が言いたいんだ!」
「反吐が出るほど名乗りたくねぇ名前だが、特別だ。オレはホリズンイリス族に逆らいし、現代社会を愛する反逆者……ゼピュロス・ホリズンイリスさ」
「ホリ……それって!」
「あぁ……それに、オレ達の力の源として、破壊衝動が挙げられるらしい。そして今、オレが消そうとしてるのは……」
ユウヤの体から、ビルすらつんざいてしまいそうな突風が吹き荒れる。それはまるで風音が殺意を持っているかのようで、一周回って耳元には穏やかなレクイエムとして届く。
「……腕に巻かれた洗脳装置、そしてお前の腐った性根だ!」
「さ、さ、させるか! コウキ様こそ……ホリズンイリス族なのだあああああ!」
「……消えろ」
ユウヤは拳を固く握り、そこに全身のエネルギーを集中させる。そしてまるで弾丸のようなスピードで突進してくる男を迎え撃った。
「ぐ、ぐぎゃああああああ!」
「まだまだだぜ……この左手で、さらにっ!」
今度は左手に風の力を集中させ、右手とはさみ撃ちにするようにその力を解き放った。男はもはやファイルに挟まれたレジュメのように、全く身動きが取れない。だが、男が今受けているのは突風と弾丸の挟み撃ち、無理はない。
「ウィンドスラッシュ・弾丸ライナーだあああああああああああああ!」
「ぐあ、ぐあああああああああああああ……」
「野球の応援歌には時々……無茶ぶりがあんだ……『物理的に絶対不可能だろ、ってところまで打球飛ばせ』みたいななぁ……オレも今、その限界に挑んでやるさ」
「何が言いたい! おいお前ら、攻撃しやがれ!」
「御意」
「了解」
「オッケー!」
再び、男の仲間らしい人物は色とりどりの球を作り、ユウヤに向かって投げつける。だがユウヤは全く臆することなく、そっと男を宙に投げ、そして台風のバット、トルネードリィスラッガーで遥か彼方へとかっ飛ばす。
「んぎゃああああああああ!」
だが、仲間達の攻撃がユウヤのすぐ後ろまで迫っていた! ようやく振り返ったユウヤは、風を指元に集めてパチンと鳴らすと、その球は軌道を変えて男の方へと向かって飛び、やがて激突して男をさらにふっ飛ばした。
「……ざまぁ見やがれ」
その姿は見えないが、十数秒後どこからか男の断末魔が聞こえてきた。
「ぐぎゃうああああああああああ!」
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