第125話 熱血ヒーロー、モニトー
「あぁ……やっと到着した……」
ユウヤがやっと目的地に到着すると、見知らぬ男の前に長蛇の列ができていた。皆色紙や帽子にサインを求めているが、ユウヤはその人物が誰なのか全く分からない。
「誰なんだ……? スポーツ選手、とかではなさそうだけど」
「ほい、ありがとねー。おお、キミもボクに憧れてくれてるんだ! ありがとねー、頑張って! はいはい、押さないで押さないで……」
「わーい、やったー! モニトーさんのサインだー!」
「ありがとー、モニトーさん!」
「モ、モニトーさんって誰だぁぁぁ!」
聞いたこともない。モニトーさんなんて。ご当時ヒーローとかの類なのだろうか? でも、見たところイベント開催中でもないし……
ユウヤが怪訝そうにその様子を見ていると、突然モニトーとやらは何かを叫びながらユウヤの方へ走ってきた。
「やい、そこにいる昨日の生配信に出てたヤツ! お前は今、オレに怪しまれている!」
「……え?」
「昨日の生配信に出ていた、洗脳装置とかいうワード! そして今ボクが戦った5人は、それらしき物を身についていたぁ!」
「……ま、まさか既にアレが蔓延してい――」
「やはり心当たりがあるようだなぁ! ボクは今、それを調査している! 謎の手紙に誘われたそこの悪者! ボクと戦え、そして“分かりやがれ”っ!」
「……いや誰だこいつううううう!? てかアレ書いたのアンタかい!」
ヒーロー気取りのモニトーは全くユウヤの言葉に耳を貸さない。というより会話が成立していない。ユウヤはこのまま無視して帰ってやろうとしたが、モニトーはしつこくユウヤの前に立ち塞がる。どうやら戦わなければ分かってもらえないし、どいてくれなさそうだ。
ユウヤはパーカーを脱いでTシャツ1枚とズボン姿になると、軽く体を慣らしながら構える。
「さぁ、かかってきやがれ! お前らの望む世界は作らせないぞ!」
「……だからオレも同じ目的のために活動してるんだっての」
ユウヤはいつも通り先制攻撃を仕掛けようと先に動き出す。だが、モニトーがこれまでの敵と違うのはその動きである。まるでバネのようにしなやかで、さざ波のように流れるような構え。どこからどのような攻撃を仕掛けてくるのか分からないが、とにかくユウヤは攻撃してみることにした。
「ヒーロー気取りなら、オレの拳で悪か正義か察しやがれええええ――」
「シノビ・ハステイラッ!」
「ふぉっ!?」
突然の足払い。ユウヤは一瞬転びそうになるが、すぐに体勢を直して再びパンチを繰り出そうと拳を突き出す。だが、まるでその動きも読まれていたかのように、既にモニトーはユウヤの背後に回っていた。そして一瞬ニヤッと笑うと、目にも止まらぬ速さで回し蹴りを繰り出してきた。
「グンソー・アルマーダッ! 飛び散れぃっ!」
「ぶああっ!」
ユウヤは数メートル蹴り飛ばされてしまった。その刹那、ユウヤは悟った。正面からの格闘バトルでは勝てないと。ユウヤは周囲の風を球状に圧縮させ、お手玉のようにポン、ポンと跳ねさせながらモニトーに近づいていく。
「おい、その風の球をどうするってんだ! 名前は多分タイフーン・ストレートとかなんだろうけど……そんなんじゃあボクは倒せない」
「わ、技名を知っている!? しっかりと昨日の配信を見てたのか……」
「そうだと言ったはずだ! ボクが一度でも見た技は通用しない、さぁかかってきやがれ!」
(くそ、これじゃピンチじゃねえか……! 流石に、無限に技を生み出すなんて不可能……いや、応用してやれば!)
「一度見た戦法、か。ならやってやらぁ!」
ユウヤは球を投げると見せかけ、そのままダッシュでモニトーに詰め寄り腹元で球を爆発させる。流石のモニトーも不意をつかれたようで、驚いたような表情を見せる。
「次に吹っ飛ぶのはお前だぜ、モニトー! 風に吹かれて頭冷やしやがれぇ!」
「くっ……こんなハズじゃ、ボクが負けるなんて――」
「それだけじゃないぞ! 追撃のトルネードリィ・スラッガーだ! バックスクリーンまでお届けだああああ!」
「し、しまっ――」
ユウヤは持ち前のスピードでモニトーを先回りし、ホームランを打つようにモニトーを上空に向けて叩き込む。モニトーも反撃しようと脚をバタバタと動かすが、その攻撃がユウヤに届くことはない。
「これでとどめだ、モニトー! えっと……ダイナミック……フルパ――」
適当に思いついた技でモニトーにとどめを刺そうとした瞬間、子どもたちのモニトーを応援する声が響き渡った。
「ま、負けないでモニトーさん!」
「頑張れ、頑張れー!」
「もし地上にも太陽が生まれるならー! それはきっとモニトーの仕業だぜー!」
「な、何だそのテーマソング的なの! てか太陽作るとか迷惑どころじゃねえだろ! 悪役はお前だろ、お前――」
「へ、平和を愛するキッズ達……そうか、ボクはここで負けちゃいけないんだあああああああ!」
(え、もしかして無視されてる?)
モニトーがそう叫ぶと、まるで何かが覚醒したかのように彼の体が光り輝き出す。そして天使が地上に降り立つように、ゆっくりと地面に着地した。その体は太陽のように熱いオーラを放っている。
「フーハハハハハハッ! どうやらキッズ達が、ボクにチカラを与えてくれたようだぁ! さぁ、覚醒モニトー・ファイアータイムのお披露目だああああああ!」
そう叫ぶとモニトーは全身に炎を纏いながら、ロケットのような勢いで向かってくる。その熱気はまるで太陽、そう形容するのがふさわしい。
近くにいるだけで全身が溶けてしまいそうだ、その熱さのせいであまり頭が回らずに突っ立っていることしかできないユウヤ。そこに突然バイクに乗った集団が現れた。
「こらー! ちょっとツーリングに来てたらこんなことになってて……街中で暴れるならば、ウチがわからせるっ!」
「マ、マイシスターじゃねえか!」
「そ、その声って……イチカ?」
突如、モニトーは攻撃を中断して
「マイシスター、なぜ昨日の配信に! 説明してくれ、兄ちゃんに!」
「そういキャラ作りやめてくれよ、もう25だろ!」
「オー、現実を見せないで……」
モニトーという男はイチカに叱られている。どういうことなのかイチカに尋ねようとすると、イチカは呆れ口調で返答してきた。
「ウチのアニキ、ヒーローごっこでお金稼いでるんだよ……最近無理しすぎて両手の指3本ずつ、深爪してるってのに」
「ア、アニキ!? 兄弟だったの!? しかも深爪って……それで蹴り技ばかり使っていたのか」
「ち、違うわ! カポエイラはボクの主体スタイル、深爪は関係ない!」
「あぁ……疲れたからオレは帰るわ。そのアニキの処理よろしくな、イチカ」
「え、マイシスターが!? それだけはやめてくれ、マイシスターは怖いんだよ結構……」
「うるさいぞアニキ! さっさと帰りやがれ! ウチはこいつに……用があるんだから」
「そ、そんなああああああ!」
モニトーは無理やり電車に押し込まれて、自宅に帰らせられてしまった。その様子を見届けたイチカは、ユウヤの耳元でささやく。
「あ、あのっ! もしよければ……ウチと観光しないかい? せっかく……一緒になれたんだし」
デートの勧誘。ユウヤにとって、それを断る選択肢は無く、ニコッと微笑みながら首を縦に振った。するとイチカはユウヤの手をギューっと握り、小走りにユウヤを引っ張っていくのであった。
「い、痛い痛い! 力強すぎだろイチカ……!」
「う、うるっせぇ! ほら行くぞ……!」
「マ、マイシスター……好きなあのユウヤとかいうヤツと、今頃デートできてるかな……」
モニトーはぼんやりと電車の窓から、K府の景色を眺めていた。
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