第123話 スタート、絶望の未来

「二ーヒャヒャヒャヒャヒャ! だから我がこの場にいる敵対者を全員始末する! それで構わないですよね、コウキ様!」


「まぁ、いいけど。でも……」


「……へ?」


 コウキは突然、太陽のように巨大な火球を生み出した。そしてそれをブティフールの上に掲げる。


「な、何だこれ……? もしや貴方の力を頂けるのでしょうか――」


「……なワケねぇだろ。んじゃあね〜」


「ぐっ! なっ……吸い込まれるっ!」


 ブティフールは渦を描くように回転しながら、そしてその体を引き伸ばされながら火球に飲み込まれてゆく。もはや抵抗するどころか、話すこともジェスチャーを送ることもできない。ただ、火球にあっという間に飲み込まれながら、その身を焦がして消滅させられた。


「……だからそれは禁忌の術なんだってば。人間風情が……」


「コウキ……やはりお前はオレ達を利用していた側だったんだな!」


「その通りっ! チーム・ウェザーが世界の王として君臨し、自分達が錬力術を使える世界を作るだって? んなワケ無ぇんだよ!

 本当の理想は……薄汚れたこの文明を破壊し! オレ達が今度こそ! 理想の世界を作るということなのだああああ!」


 コウキは高笑いする。ここにいる全員がコウキを睨んだり、拳を握りしめて怒ったりしている中、ヒビキの体は一番早く動いた。


「消えろ……この野郎ぁぁぁぁぁ!」


「おぉーっと! 無駄だぜ、よく周りを見てみな……!」


「せ、洗脳装置が……アイツのところへ吸い込まれていくぞおおお!」


 床に散らばった洗脳装置の残骸。それらが全てコウキのところへと飛んでいく。そしてコウキは、それを戦車並にゴツいトラックに作り変え、さらにその中へ手元で生み出した洗脳装置を大量に詰め込んでしまったのだ。


「このトラックの耐久力は……戦車の100倍以上! さぁ、革命のスタートだあああああ!」


 コウキはトラックを思いっきり蹴り飛ばすと、トラックはそのままエンジンがかかり、そのままどこかへと走り出そうとする。

 このままではマズい、ヒビキ達は慌てて各々の必殺技でトラックを引き留めようとするが効果は無意味、洗脳装置はついに全国へと運び出されてしまったのだ。


「終わったぞ……この国、いや世界が……」

「そんな……アタイの人生もそのうち終わっちゃうの……」


「アッハハハハハハハ! 人間が踏み入れてはならない神の領域! それを20年以上も使い続けた罰だ!

 ITとかAI技術ぐらいでやめておけばよかったものを……自業自得だぜ、欲に溺れた因果がこれさ」


「ウ、ウチはバカだからわかんねぇけど……神のお叱りとかなのかよ、これ……」

「そ、それにしても……あんまりですよ……」


「それでは、視聴してくれてる皆にも最後に一言。

 魔法を学び栄えた人類へメッセージを送ります。さぁ、今から互いに争え、滅べ、そして取り返しがつかなくなっちゃってからやっと……その罰を省みるんだな!」


 そう言い残すと、コウキはどこかへと消えていった。


 

 モニターに映されていた生配信も、いつの間にか終了していたようだ。コメントを遡ると、初めから最後まで99.999%の書き込みがコウキに好意的なものばかりだ。


 何より恐ろしいのが、皆が洗脳装置の到着を待ち望んでいる、ということだ。ここにいる中で洗脳装置の恐ろしさを一番知っているのはヒビキとカナ。ヒビキは怒りのあまり、モニターを叩き割って空へと叫んだ。


「何でだよ……何でだよ、おい! 何でこうなったんだよ……! おかしいだろ……こんなのぉ! うああああああああ!」


「ヒビキ……アタイも許せないよ、この裏切り組織が、あの野郎達が……!」


 ヒビキとカナはやがて泣き叫び、その場に崩れる。それを見てカエデ達も怒りを爆発させ、壁をぶん殴ったり蹴飛ばしたりする。

 そんな中、一人でずっと悶絶していたユウヤが落ち着きを取り戻し、ゆっくり立ち上がる。


「ハァ、ハァ、ハァ……何だ、何があったんだ……」


「ユウヤ! 今起きたのは地獄の開門なんだ、落ち着いて聞いてくれ……」


「タ、タケトシ……一体何が」


「実はな……」


 タケトシは、ユウヤが苦しみ悶える中起きたことを全て話した。あのコウキと名乗るストリーマーの男こそ、チーム・ウェザーを直接動かしていたボスであったこと、そしてタケトシを誘拐し、洗脳したブティフールはコウキによって消滅させられたこと。


 ユウヤの中には、どうしても葛藤があった。自分が関わってないことにせよ、本来の自身の生まれであるホリズンイリス一族が世界滅亡に向けて動き始めたこと。

 だが、今すぐ現状を動かすことなんてできない。できるのは、今後も戦い続けるということ。それだけだ。


 絶望の未来を、食い止めるために。




 第2章、完。

 





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