第122話 錬力術の発見 その2

 彼が「何か」に邂逅してから約半年が経過した頃だ。彼はある日突然、原因不明の高熱にうなされる。体温計が示すのは40.0℃、そして体の内側から冷やされるような気持ちの悪い感覚。彼はその倦怠感と戦いながらも無理やり目を固く瞑り、昼間から眠りに落ちる。


『ん、んん……どこだ、ここは? 天国……なのか?』


 気がつくと彼は不思議な空間に立っていた。あたり一面真っ白で、熱くも寒くもない、眩しくも暗くもない不思議な空間。彼があたりを散策していると、突如雷鳴を彷彿とさせる勢いの地響きと共に、透明の人影が現れた。陽炎のようにうっすらと見える程度だが、パーカーのフードのようなものを被っているのは確認できた。


『錬金術を知っているか? かつて多くの科学者が精を出した分野のことだ』


『……だ、誰だね! 急に現れて!』


『だがその研究も、今は行われていない。金が貴重な金属なのは数百年同じままだ』


『だ、だから誰だというのだ!』


『名乗る意味は無い……だが、あえてお前には名前を付けなければな。うーん、そうだな……

 お前今、体調が良くなればおいしい料理でも食べたいと考えているな? ならば名前は……フランスのフルコース料理にあやかりブ――』


『素人文句で恐縮だが、人の話をしっかり聞くのだ! あと、そんなスパイのコードネームみたいな名前などいらぬ、我の名はグレーゾだ! 覚えておけ、グ、レ、エ、ゾ!』


 謎の人影は彼の言うことを聞こうとしない。グレーゾが何と言おうと、人影は自分の話だけを進行させる。


『ハァ……グレーゾよ、今お前の体を蝕んでいるものは、人間に隠されし能力の制御が効かない状態、いわば魔法の暴走だ!』


『ま、魔法……!? それは我が求めし技術、詳しく教えてくれ!』


『……グレーゾ、お前はもうその条件を満たしているのだ。第一に<神を名乗り、強大な力を持つ一族、ホリズンイリス一族>と邂逅すること! そして第二に、自らの精神と大自然を調和させ、任意の箇所に力を込めて念じること! 一度やってみるがいい』


『……こ、このような感じか!?』


 グレーゾはとりあえず拳を握って腕を力強く振り下ろしてみた。すると、微量ではあるが拳から霰のようなものがポロポロとこぼれたのだ。驚くグレーゾの耳元で、人影はそっと呟く。


『そうだ。それが魔法。グレーゾは……どうやら研究者のようだな。この研究を重ねて実用化し、未来永劫幸せな世界を作るがいい』


『だ……だが、再現性も無しに研究結果と認められるワケが……』


『……オレの知り合いに、正義の心を持ったホリズンイリス一族がいる。グレーゾが以前会った奴とは真逆のな。

 彼の能力で、全世界の人々の夢の中に現れてもらい……第一の条件を全員クリアさせようと思う。

 そしてこれからの未来に生まれてくる人にも同様の条件を達成させるために、遺伝性の呪いを――』


『そ、それでこの魔法はどのようなことが可能なのだ!?』


『人の話くらい最後まで聞くべきだぞ……まぁ、身の回りのことが全てラクショーにできるようになるし、技術も娯楽もパワーアップ! それに……悪の心を持つホリズンイリス一族の襲来の対抗手段にもなる。

 だけども奴らはこの能力のことを嫌っているだけに、見つからないためにも乱用をしては……って聞け、大事なところを、おいっ!』


 人影の忠告を途中で遮るように、グレーゾは夢の世界から抜け出してしまった。人影は「これはまずい」と言わんばかりの挙動を見せ、最後に、


『あの野郎……やはりダメだったか!』


 と意味深なことを呟き、嵐のようにどこかへと消えていった。



 それからグレーゾは毎日「魔法」の実用化に明け暮れた。そして月日が経ち、時は2034年7月6日。それはついに世界で利用され始めた。


 かつて多くの研究者がその生涯をかけて研究した錬金術。だがそれは夢に終わってしまったのだ。だが、今回は人類が皆思い描くファンタジーの存在、魔法を実際に発見でした。グレーゾはかつての研究者に敬意を払い、その魔法に名前をつけた。


 様々なエネルギー、つまり力を錬成する術。もとい錬力術として。

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