第113話 仇

 大きな衝撃音が鳴った。重たく大きなものが何かを叩きつけたような音。そして、振り下ろされた触手の周囲にヒビキの姿は確認できない。叩き潰せたのだ、ナギサは勝利を確信した。


「アハハハハハ、やっぱザコじゃあん……通常時の錬力値6000r,コンパウンド発動後もせいぜい10000r程度……しかも、その力の動力源を洗脳装置に頼ってたアンタは、今はさらにザコザコになっちゃって。本当にバカねぇ」


「……それじゃあお前はどうなんだよ」


「えー私? 確かこの前の測定ではぁ、普段が4000rでぇ、今が40000r……ってその声!?」


「ああそうだよ、正真正銘、東雲ヒビキだ! 40000rの出力を持っても無防備の相手を倒せないとは……まさかその数字、盛っているな?」


「あぁーもう! 仕留めそこねてるじゃん! あーもう、ヤダヤダヤダヤダ! ……次は本当に始末してやっから」


 床に完全に拘束してきたヒビキは、どういうワケか振り降ろされる槌から生還し、ナギサの背後に立っていたのだ。さらにそれどころか、傷1つすら付いていない。強がってはいるものの、ナギサはその状況を全く理解できずにいる。


「……い、一体何をしたのよ、すぐに答えなさい!」


「ナギサ、どうやら怯えているな? 震え声になってるぞ……まぁいい、種明かしをしてやろう……単純明快、この通りっ!」


「わ、私の拘束作戦が解かれている……!?」


「さっき『タコやイカをイメージした』と言っていたな? その時思い出したのさ、水生生物がよく体に纏っている『ムチン』というヌタヌタ物質も、あるいは大体の接着剤は、どちらも熱に弱いこと。

 そこてオレは強力な電気を足に発生させ、その副産物として生まれた熱でそれを溶かし、さらにはそのエネルギーを流用して横にぶっ飛んで回避したのさ」


「はいはい、わざわざ解説ありがとさん……ムチンとか熱とか、勉強ができるのは分かったから……今度こそ始末する!」


「ほう、その状態でどうやるんだ? 触手が接着された状態で!」


「し、しまった……! 私の触手が床から離れな……い……!」


 失態。ナギサは、自らの武器である接着攻撃が仇となり、攻撃の要である職種を床に強く接着させてしまっていたのだ。


「何よこれ、取れないじゃないの……! こうなったら別の技で……レイニー・クロ――」


「おーっと、水は電気を流すってのに……永遠に苦しめ、雷雲地獄」


「……あ」 


 ナギサは雷雲のような灰色のモクモクに包まれた。そして何かを考える暇すら与えず、無数の雷がナギサに襲いかかった。


「ンギャアアアアアアアアアアアアア!」


 攻撃しようとナギサが身の回りに浮かべた水。それがさらに電気を通すせいで余計に雷はその威力を高める。やがて絶叫する声も雷鳴にかき消されてしまい、ナギサはその場に大の字に倒れてしまった。


「……ゆる、さない……ヒ、ビキ……」


「ふぅ、ラクショー……には終われなかったか、それに……」


「何事だー!」

「誰だ、そこで騒いでる侵入者はー!」

「確保しろー!」


「……この雑魚どもの相手を、今からしなくちゃならないんだからな……行くまでヘマかくんじゃねえぞ、ユウヤ達!」




――――――

 一方カナ率いるユウヤ達はどんどん倉庫に向かっていたが、異変に気付いたとある者がその行く手を阻んでいた。


「……くそっ、まさかこいつに見つかっちまうとはねぇ! ユウヤ……ここはアタイに任せて、万が一のために背後からの不意打ちに備えておいてくれよ」


「チッ、謀反の味に酔いしれたようだな、ポワソよ……こうなれば我に封印されし闇の力、開放せねばならぬな」


「……ケンジ! アタイが好きなだけ相手してやんよ、何秒でボコボコにすればいい?」


「逆だ、ポワソ……パークの無念を晴らすため、汝らをまとめて葬るのみっ!」






 



 


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