第114話 ケンジの弱点

「……あの、カナ」


「ユウヤどうした! まさか、敵か来たのか?」


「いや……ここはオレ達全員で、こいつと戦わねぇか?

オレはこの前こいつと対峙したんだ、そして複数人で挑んでも全く歯が立たなかった……」


「えっ、知り合いだったの……それでつまり、それは『共闘』を提案してるのかい?」


「ああ、当然だ……先生とメイも、ヤツに総攻撃を仕掛ける。力押しだけどそうするしかないんだ、だからオレが指示したタイミングで、同時にあのケンジとかいう中二病――」


「おい……煩わしい、長い、鬱陶しいぞこの野郎っ!」


 ケンジは激昂する。体から禍々しいオーラが溢れている。見ただけで思い出す、初めて戦ったときのあの絶望感を。こいつは確実にヤバい……気付けばユウヤ達の頬には冷や汗がつたっていた。


「一瞬で闇に葬る。そして気付けばお前ら全員、地獄に突っ立ってることだような……全身が疼く技だが仕方がねぇ……ダーク――」


「うるせぇぞ中二病が! アタイ見たからな、ベッドの下に隠してあったオリジナルマンガ的なの!」


「ぐっ……! 見たのかあれを……! な、ならば余計に葬らないといけなくなっちゃったなぁ!」


(あ、明らかに動揺した!?)


 カナがケンジをまくし立てたその瞬間、ケンジは必殺技のチャージを突如中断しておよおよと動揺し始めた。もはや誰が見ても明らかだが、ケンジは黒歴史を掘り起こされてたじろいでいる。


「あー、くそ! こうなったらマジで許さねぇからなぁ、許されねぇことになっちまったんだからなぁ、自分のせいでな!」


「うるせぇ! これでも喰らいな、セイレーン・サイレン!」


「ぐあああっ! 舐めやがって……許さねぇ!」


「う、嘘だろ!? 弾き飛ばしたぞ、あのケンジを!」


 カナは動揺しているケンジの不意を突き、水の塊で攻撃、壁へとふっ飛ばして叩きつけた。ユウヤは驚いた。カエデやイチカとの協力をもってしても全くかなわなかったケンジという強敵にダメージをくらわせることができたのだから。

 今なら倒せる、そう決心したときには既にユウヤの体は動いていた。


「メイ、一緒に攻撃してくれ! タイフーン・ストレエエエエト!」


「は、はいですわ! ……出ました、力の正位置! 大きな衝撃を喰らいなさいですわ!」


「ちょ、ちょっと待ち――」


 カナの静止した時にはもう遅く、風の球とどこからか現れた巨大な握り拳が既にケンジに襲い掛かっていた。だが、ケンジはそれを軽く跳ね返してしまったのだ。


「ふんぬっ!」


「ぐああああっ!」

「ひゃああああああ!」


「だから待てと言ったろ、ヤツに攻撃できるのは限られた一瞬のみ、それは――」


「次は我の攻撃! これで汝らは消滅する……魔忌覇王虚像ヴァーチャルタナトスッ!」


「ま、まずい……っ!」


 カナは慌ててユウヤ達を庇うように前に立ち、ありとあらゆる罵詈雑言をケンジに浴びせる。あからさまにケンジもその言葉に苛立ちを見せ、解き放った漆黒の霧状の攻撃は明後日の方向へと飛んでいった。

 そしてその霧は虚空を捕食するかのように一転に集まると、そのまま消えていった。その跡には、ただ穴を開けられた頑丈そうな壁が残るのみだ。


「……ポワソ、ひひひ卑怯だぞ! あのようなメンタル攻撃など、道理に反するではないか!」


「何言ってんだ! お前らチーム・ウェザーは『人々を洗脳して野望を達成させる』という道理に反するどころじゃねえことを続けてきたくせに!」


「……なんだとおおおお――」


「あ、もしもしー? うん、久しぶりぃー。てか聞いてくれなぁい?」


『やっほー、カナじゃん。ってどうしたの?』


「何か知り合いの男がさー、来月で26のクセして中二病なの! そのノリをアタイにずっと続けてくるの、ほんと嫌になっちゃう!」


「え、カナ? いきなり電話してる余裕なんて……」


 カナはおもむろに友達と思われる人物に電話を始めた。そしてその内容は、明らかにケンジを指しているものである。これはユウヤにも経験がある。初めて敵として戦ったとき、このように戦闘中にいきなり友達に電話で誰かの愚痴を話していた。

 真銅はユウヤに、これはカナの作戦ではないか、と耳打ちしてきた。相手のペースを乱すとともに可能ならば挑発もする。それが一種の作戦なのでは、と。


「いやホントにそれ! うん、うん。いやマジでヤバいよ、一回見てみる?」


『アハハハハハ、カナってホントに男運無いよねー』


「……ポワソ、我を挑発しているな……? 明らかにこちらをチラチラ、チラチラと見てきやがって……許さん、許さんぞおおおおお!」


「いやもうマジで! ウンザリしちゃうわー。あ、今そいつの顔送った」


『え、何この髪の毛! 湿気たイガグリみたいじゃん!』


「し、湿気たイガグリとはなんだああああ! 初めて聞いた例えだし、その……さっきからそれ、相手の話し声をスピーカー出力にして周りに聞こえるように……して……いる……な……」


 ケンジはショックのあまり膝をついて倒れた。カナは電話を続けながらも、ユウヤ達に目で合図を送る。今が攻撃のチャンス、そのメッセージだろう。


「よし、それならもう一発! トルネードリィ・スラッガアアアアアアア!」

「ならばわたくしも! 日頃のストレスを八つ当たり、連続パンチですわああああああ!」

「私もやりますよ! えーっと……落単キーック!」


「ぐ、ぐあああああああああああ!」


 先日の強者、ケンジはどこへやら。カナのおかげで、簡単にケンジを倒すことができた一行は、倉庫へ向かって再び進み始めた。



 

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