第110話 背徳の提案

「な、何ですって!? それならあの2人と戦うことに――」

 

「おーっと、待ちなっておばちゃぁん。アタイ達にここで戦うつもりは無いよ? それにアンタ達……とある目的のために今日、ここに忍び込んだのよね?」


「え? それってどういう……?」


「ポワソ……いや、カナの勘が当たって良かったんだ。今日は1つ、取引を持ちかけようと思ってな」


 カナとヒビキは突然「取引」を提案してきた。一体どのようなものかと真銅が問い返すと、ヒビキはニヤリと笑いながら答える。


「間もなく、オレ達が付けさせられていたのと同じようなアクセサリーが全国へと出荷される。それを一緒に食い止めるか、もしくは大人しく捕まって実験台にされるかだ」


「ヒビキ……まさかそれは『利害一致の共闘』をしようってことか?」


「利害が一致? フフ、オレ達も許してくれなんて言わないさ。ただお互い、頭数はあった方がいいはずだろ?」


 振り返ると、カナやヒビキは洗脳装置アクセサリーを強制的に着用させられ、チーム・ウェザーの一員として活動させられていた。だが、その事実があったとしても、大学を襲撃してきたりしたのは彼らであるというのも事実だ。ユウヤの心は、完全にこの2人を許すことがまだできていない。


「……もし断ったらどうする?」


「もしそれなら……お前らを捕まえる『フリ』だけでもしなくちゃならないな。どち道、オレらはこのチームを潰すつもりでいる。だけど裏切りの容疑をかけられちゃまともにその作戦を実行できない、だから一応捕まえる、などの真似事は必要になる」


「……真似事?」


「やれやれ、一応リサトミ大の学生だろ? その頭使って考えてくれよ、オレらはお前らと戦う気がないと言ったはずだ、他のメンバーが捕まったお前らをどうするかは別だがな」


 聞く限りは、本当にカナとヒビキにはユウヤ達に対する戦闘意欲は無いようだ。だが、人間という生き物は優柔不断なもので、未だにユウヤは彼女らに着いていくべきか決められない。その様子を見かねて、ヒビキはユウヤのフォローに入る。


「てかさ、元々ここに来た理由は『野望の阻止』だろ? それならオレ達のことをどう思ってようが、それを突き通せばよくね? 迷ってる暇なんてほとんど無いぞ、だって……」


「だって?」


「そこ。ゴリラの野郎が起き上がっちまったぜ」


「えっ」


 ユウヤが階段上を見上げると、拘束していたはずのヴィアンドがゆっくりと起き上がり、明らかにキレているのを隠すように笑みを浮かべながら階段を1歩1歩降りてくる。


「へへへ……もうブチギレたぜ、スクラップじゃ済まさねぇ。理科室で物質をすり鉢で粉々に砕き混ぜるみてぇに、お前らの身も骨も未練も全部跡形も無くぶっ潰し! ここの屋上に砂場を作ってやるぜ、覚悟しやがれ――」


「……既にスクラップですよ。ココ、のほうがね」


「……ほへ?」


 ヴィアンドは爆発した。チャコールバインドの追加効果とでも言うべき、「拘束中に大きく動いた者を攻撃する」効果により。特にヒビキは、その光景を掃き溜めでも見るかのような目で見ていた。


「はぁ……単細胞め。あほちんしかいねぇぜ、この組織には」


「ヒビキ……マジでここチーム・ウェザー、嫌いなんだな」


「あぁ……だからこそ謀反を起こすことにした」


「アタイもここは大っ嫌いだからね、やるなら徹底的にやる、勝ってやる。味方が敵になればダメージも脅威も大きくなるんだからね」


「ヒビキ、それにカナ……」


 ユウヤはもう決めた。少なくとも今どうするべきかを。チーム・ウェザーにはケンジやサムなど、強敵がまだまだ従事している。はっきり言って、今のユウヤに勝てる相手ではない。だから、少なくとも今は……


「……分かった、着いていく。倉庫に案内してくれ」


「鳥岡君、正気!?」


「ああ……本当の敵に近づけるんだからな」


「ブラボーだ、ユウヤ。オレ達に続け、ただし……」


「ただし?」


「道中にはたくさんの戦闘員がいる。あいつと戦うための肩慣らしとしておけ」


「……ああ、分かった。先生とメイも、お願いな」


 3人はヒビキとカナに連れられ、ついに問題の倉庫に向かうこととなった。





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