第109話 ヒビキ班の再来
「怖いですわ、あの人……逆らったらマジで生きて帰れなさそうですの」
「ああ……でも本当は弁当届けて即退散、なんてできないししないんだけどな」
「シッ、2人とも声が大きいですよ。誰かに聞かれたら大変なことに――」
「なっ、誰だ君達! 社員カードもぶら下げず、一体どこの部署の者だ!」
「えっ!?」
ユウヤ達3人を咎める男の声。突如横から声をかけられ、恐る恐る顔を上げると……いかにも屈強そう、そしていかにも重役っぽい雰囲気を醸しだす男が3人を見下ろしていた。
3人は慌てて「倉庫作業者に弁当の注文を受けた」と説明してごまかすが、男はそれを信じ切っていないようだ。
「フム……今は門外不出の大事な作業をしているはず……一体誰が注文を入れたのかね」
……まずい。コウキのハンドルネームの
ドロドロとした冷や汗で着たばかりの服がビショビショだ。
「申し訳ございません……直ちにこの住所の倉庫に、としかお聞きしておりません……」
(えぇっ!?)
(通用しますの、そんなんで……!?)
単純。真銅から放たれたのはいかにも単純な言い訳だった。下手に口を滑らせないための、矛盾を起こさないためのありふれた言い訳。だが、あれもこれもと着飾らないシンプルなものの方が、案外通用したりするのだ。実際、男の眉間に寄ったシワも消えており、重苦しい雰囲気も和らいていた。
「あぁ、それならいいんだ。1階の奥にあるから、弁当届けたら倉庫の中はあんまり見ないでね。絶対だっ、ガハハハ!」
「……か、かしこまりました。それでは弁当をお客様にお届け完了次第、すぐに撤退させていただきます」
「はい。ちゃんと頼んだよ」
そう言うと男は階段を上っていった。間一髪助かったと言いたいところだが、またまた釘を刺されたことから3人は気が抜けない。
何より、オフィスでもこの踊り場でも共通して「倉庫の中を見るな」と忠告されていることから、洗脳装置のバラ撒き計画はかなり重要なミッションとして位置付けられているのだろう。それがリーク、または告発でもされればチーム・ウェザーとしてはタマらないのだろう。でも、だからこそこの計画を阻止しなければならないのだが。
「……またまた、念をおされましたわね……」
「ああ……かなりヤバいことしてる、って本当は自覚してるんだろうな」
「はい……もし今回のミッションを失敗でもすれば、今度は
「はい……2人とも、慎重に進みましょうね」
「「……はい」」
3人が再び足を進めだしたその瞬間。何も踏んでいない、何も押していない、何にも足を引っかけていない。そんなはずなのにも関わらず、赤いライトとうるさい警告音が鳴り響いたのだ。
《プーーーン、プーーーン。A棟3階階段、侵入者発見。繰リ返ス、A棟3階階段、A棟3階階段ニテ3人組ノ不法侵入者ヲ発見。係員ハ直チニ、不届キ者ヲ抹殺セヨ。プーーン、プーーン……》
「な、なんだよこれ!? オレ何も触ったりしてねえぞ!?」
「わ、
「も、もちろん私も――」
「おいおい……さっきので誤魔化せるとでも思ったかぁ? 鳥岡ユウヤ、この声に覚えがあるはずだよなぁ!?」
「っ!」
再び階段上に現れた男。スーツ姿とメガネのせいで気が付かなかった。その正体はユウヤがこの前、リサトミ大学内で戦ったヒビキの部下、ヴィアンドであったのだ。
「ヴィア……ゴリラ野郎、また現れやがって……!」
「反抗してられるのも今だけだぞ? 今はオレが強い時間帯、今度こそスクラップにしてやらぁ!」
「あぁ、オレもあれから成長してんだ、今度は14時を待たずとも瞬殺してや――」
「待ちなさい、鳥岡君! ここは一旦下に逃げますよ、チャコールバインドッ!」
「……っ、ぐああああ! 動けねぇ……なんでオレの仕事にはいつも邪魔が入る……」
拘束されてうずくまるヴィアンド。それを見て真銅はユウヤとメイと引っ張るように階段を駆け下りようとした瞬間、なんということか2人の男女に先回りされていたのだ。片方は長身スレンダーな女、そしてもう片方は小柄ながらも雷のように恐ろしいオーラを放つ男。
彼女らは口を揃え、ニヤリと笑って立ちはだかった。
「久しぶりね、ユウヤ。その帽子、被ってないほうがアタイの好みよ」
「少しずつ思い出していたぜ……鳥岡ユウヤ、なんて嫌な響きだ!」
「あ、あれ……カナに……ヒビキだ」
「……え、鳥岡君今何と?」
「カナに東雲ヒビキ、オレが戦った張本人だ!」
「……っ!」
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