第108話 潜入

「潜入したはいいものの……どのルートで向かうんですか」


「はい……まずは皆様、この作業着を羽織ってください。そしてこの弁当、これを持って普通にうろつきます」


「えっ、それ大丈夫ですか!?」


 真銅が手渡してきたのはどこにでも売ってそうな作業着、伊達メガネ、付け髭、マスク、キャップ帽などたくさんだ。ダクトや天井裏などから目的の場所へと進んでいくのではなく、これを着用して普通に堂々と中を歩き回るらしい。弁当を持つとのことからデリバリーのフリをするのだろうが、うまくいくか心配だ……


「せ、先生……じゃあなぜ段ボールの中をくぐり抜けるようなトレーニングを」


「それは『自ら罠を踏まないようにする』という意識付けのためです。貴方、その時の気分でふっとばしたりするクセがあるでしょう。一体いくつ墓穴を掘るつもりですか」


「そ、それは……」


 ユウヤは何も言い返せない。


「それに、今は昼時。今弁当を持って歩いていても、『誰かが注文したのかな』としか思われません」


「た、確かにそうですね! それじゃ、早速レッツゴーといきましょう!」


 3人は今着ている服の上からさらに作業着を重ね着する。特に顔が割れているユウヤはさらにメガネ、カツラ、マスクなども付ける。

 重ね着しているせいで上から下までかなりモコモコとしていて動き辛いし、ちょっと動くだけでシャカシャカと音が鳴る。そして何より、ちょっぴりとだが痒い。


「う、うるさいですわね。これ……」


「それにこの痒い素材……セーターとかですかこれ」


「ほら、文句は言わない。早速行きますよ」


 真銅に連れられ、ユウヤとメイは階段を降りてオフィスにたどり着く。皆作業に必死で、誰一人としてこちらに気付いていない。

 それをいいことにユウヤは早速適当に一番近くにいた男に「倉庫はどこか」を聞き出そうとするが、慌てて真銅はそれを止める。幸い、男はそれに気付いていない。真銅はユウヤの肩をコツンとつつき、耳元でささやく。


「何してるんです、死ぬところでしたよ!」


「でもだって、倉庫にたどり着かないと洗脳装置が……」


「いきなり倉庫とか言ったら怪しまれるでしょう、ここは私に任せてください」


 早速真銅は動き出す。まずはあからさまにオフィスを左から右まで見渡し、時には声に出してまで「どこに行けばいいか分からない」アピールをする。


「あ、あれぇー? 確かここだって受付の人に言われたのに、あれどこに届ければいいんだ……弁当を種類はテキトー、倉庫前によろぴくぅ! って言われたのにパリピっぽい人いないじゃんどこに渡せばええのかなぁ……

 いやーそれにしてもホントどこなのかしら、思わず屋上まで行っちゃったわホントにどうすればいいの、てか私昨日何食べたかしらん……」



((いやもっと怪しいわー!))


 心の中でツッコむユウヤとメイだったが、案外その作戦はうまく行ったようだ。奥の席から親切そうな男が、手書きの簡易的な地図と共に説明してくれた。


「おぉ、倉庫に弁当の注文じゃな。それなら1階まで降りて、突き当たりまでガーって進んでバーって曲がってドーって進んでいったら倉庫前にたどり着く、そこに弁当を置いといてくれれば代金も置いてあるじゃろう。それと引き換えたらおつかれさまです、じゃ」


「ありがとうございます。それでは早速お届けに――」


「ああ、待ちなさい!」


 男は真顔で3人を引き止める。そして、どこか釘を刺すような、かなり威圧感のある言い方で、


「……。見るでないぞ、絶対に見てはならぬ」


 と忠告してきた。目がギンギンに開き、ロボットのように淡々と忠告するその姿に、3人は首を縦に振ることしかできなかった。

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