第107話 ロラバター
「ぐああああああああああ……って、生きてる!?」
「……間に合ってよかったです」
「ふう……間一髪でした」
爆散したかと思われた車は、真銅の技に守られ、そして藤川の技によりそのまま人工衛星のように宙をぷかぷかと浮いていた。窓から下を見ると、雷宗はターゲットを始末できたと満足そうに高笑いをしているのが分かった。
「あの野郎……完全にオレ達を始末した、と思ってるみたいだな」
「搦め手タイプなのか脳筋なのか……分かりませんわね」
「いいえ……あれはそうプログラムされた存在……その内消えると思われます」
「プログラム? あぁ、確かに自分で自分のことを影分身だとか言ってたなぁ……それに前も分身とやらと戦ったような」
分身。ユウヤは先日、別の分身と戦っていた。その名は空浦。リモート授業を受けている時にいきなり攻撃をされたような、されてないような……1つ覚えているのは、サムが空浦をいとも簡単に消し去ってしまったことだ。
覚えている限りのその特徴を真銅と藤川に話すと、藤川は小さな声でささやくように、ユウヤに返答をしてきた。
「チーム・ウェザーと深い関わりのある、ホリズンイリス族……その中でもとりわけ実力と権威を持つ者がいるといいます。彼は無限に人間をかたどった分身を生み出し、やがて人間世界を内側から破壊するように動く、いや動かされる……その中の1人なんでしょう」
「……それ! オレの知り合いにも、そんな感じのことを話している人がいました!」
ユウヤの中に、心当たりがさらに2つ見つかった。シュウタロウとヒカリだ。カフェで事件があった際、そして彼らとユウヤ達が対峙した際、意味深なことを話していたのだ。
ーーーーー
『ハ、ハハ……ギャハハハハハハハハハ! アアアッハハハハハハハ! 地に墜ちた神々、ホリズンイリス族の使命を今! 叶えなければならないのだぁ! ギャハハハハハハハ!』
『鳥岡ユウヤ、そして真銅カミコ……なぜお前は使命に則って生きない? ホリズンイリス族の使命、それは現代文明の破壊と自然との調和のはずやろ……?』
ーーーーー
「……彼らは望んであのような生き方をしているのではありません。ある者は生まれた時から、そしてまたある者は生成された瞬間からホリズンイリス族復活のために、そのためだけに生きて、次の世代にまたそれを託し……」
「……」
「そのような「役割を任されたホリズンイリス族の分身」は”Rolavater“……そのように呼ばれるようです」
「ロ、ロラバター……バターロールみたいですね」
どうやら、空浦、ヒカリ、シュウタロウ、そして雷宗。彼らはロラバターとしてその任務の下に生きて、または活動しているらしい。
残酷な話だ。ヒカリの泣きじゃくりながら暴走する姿をはっきりとユウヤは現地で見ていた。本当はやりたくないのに、でもやらざるを得ない、やらなければならないと思わせられる運命。
そしてシュウタロウの、どこか達観したような表情。今思えば納得がいく。もうその運命に逆らわずに生きていく、その方が楽なんだと。
ユウヤは怒りの炎が燃え上がっていた。チーム・ウェザーだけでなく、それを利用して自らの野望を達成しようとする謎の一族を。
たとえ自身がその末裔なのであったとしても関係無い。身内だろうと悪は悪、他人だろうと正義は正義。ホリズンイリス族の野望が自分達の繁栄、そして邪魔者となる現代社会の破壊なのであれば、現代社会で育ったユウヤは、彼らに抗う盾と剣となる。
ホリズンイリス族達からすれば、ユウヤは裏切り者となる。だが、そんなの知ったこっちゃない。ユウヤはユウヤの信念を、友達を、仲間を、平和な世界を守る! ただそれだけだ。
「……皆さん、到着しました。下は監視が厳重です、なので上に停めますね」
ぷかぷかと浮いている車は、並ならぬ恐ろしい雰囲気を漂わせているビルの屋上へと到着した。玄関前には、確かに監視員と思わしき人物が6人ほど座っている。
屋上に車を下ろした藤川はドアを開け、ユウヤ、メイ、真銅の3人に声をかけた。
「……頼みますよ、ここを失敗しては奴らの野望が現実のものになる。失敗は許されない、世界のためにです!」
「「「……はい!」」」
返事をした3人は、駆けてチーム・ウェザーの拠点へと入っていった。
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