第106話 追跡する影分身

「チッ、まさか早速見つけてくるとは……!」


「見つける、どういうことですか!?」


 ユウヤが藤川に問いかけた瞬間、バックミラーに写っていた顔面は瞬時にユウヤの真横の窓ガラスに貼り付き、車と並行して飛んでくる。


「トリオカ……と呼んでやろう。おいトリオカ、貴様はここで始末される、受け入れるか仲間を代わりに生贄にするか! どうしたいんだ?」


「……うわっ、顔面が話しかけてきた! 幽霊系はもう飽き飽きしてんのにぃ……」


「早く答えろ、質問内容は『自分の死か仲間を生贄、どっちを選ぶ』かだ! それにそれがしは別に死んでなどいない、これはある方による“殺意を持った影分身”っ!」


「どういうことは理解できねぇが、ただ1つ分かるのは……こんな状況で襲われては、大ピンチなんだってことだぜ……!」


 周りには車が沢山走っており、下手に錬力術などを使っては大惨事を引き起こしかねない。だが、このまま何も手を出さなければ間違いなく命が無い、ということだ。なぜならば……


「お前らは今、チーム・ウェザーの拠点に向かっているのだろう! それを阻止するのが某の役割だからなぁ……おらぁっ!」


 顔面はその目を金色に輝かせたその瞬間、突如街中の光が消えたのだ。信号も、ビルから漏れる灯りも、広告パネルの映像も全て消えてしまった。


「な、何をするんだ!」


「いくら錬力術が発達しようと……急な停電を人力で全て補えるワケねぇよなあ? それに電気がいきなり無くなりゃこの通りさ、ほら」


 顔面は交差点の方に目を向ける。すると信号が切れた影響か、次々と玉突き事故が起こってしまったのだ。さらにパニックはそれだけに留まらず、周りの建物からは次々と多くの人が飛び出し、不思議そうに建物を見上げている。


「ここで自己紹介、某の名は雷宗らいむね! 某の錬力は単純に貯めたエネルギーから様々なものを作り上げる! 人間が電気から熱、音、運動……様々なエネルギーに作り変えるように、それを超大規模、強制的に行うのが某だ!」


「そ、それなら……オレの技で地獄まで吹き飛ばすしかないな――」


「お待ちくださいまし! ここはわたくしにおまかせを!」


 メイはユウヤの攻撃を制し、懐からタロットカードの束を取り出す。そした目をつぶって1枚選び、思いっきり勢いをつけて雷宗に突きつけた。


「喰らうがいいですわ! 教皇の逆位置……拘束攻撃ですわ!」


 メイが宣言した瞬間光り輝く縄が現れ、雷宗を強くぐるぐる巻きにしてしまった。表情を変えることすらできなくなった雷宗を見てメイは高笑いする。


「これで貴方は金魚のフン状態! ただこの車に着いてくることしかできない、次のカードでとどめを刺しますわ!」


「フゴ、フゴゴ……」


「ネクスト攻撃っ! とどめのカードは……死神の正位置! 即死級の攻撃を喰らいなさいっ!」


「フゴゴ……」


 雷宗の背後に、黒い鎌が浮かび上がって追走している。そしてその釜が大きく振り上げられた瞬間、メイはこれまでのキャラからは想像もできないような口調で雷宗を嘲笑う。


「このまま消えろ……ギャヒヒヒヒヒヒヒヒィ!」


(やっぱりお嬢様キャラ無理して作ってたんだ……)


 大きな鎌が勢いよく振るわれ、今にも雷宗の息の根を止めようとしたその瞬間、突然雷宗は笑いだし、縄の拘束を解いてしまった。


「……なーんてな、バカ野郎! 某の錬力は吸収したエネルギーからエネルギーへの変換、この錬力エネルギーだって全て飲み込めるんだぜ?」


「……ま、まさか!」


 雷宗は鎌も縄も光に替え、そのまま自らの体に取り込んだ。そして突然頭部が発光したかと思うと、街中に響き渡る程の大声で、


「くたばれぇいっ!」


 と叫んだ。するとユウヤ達が乗りこむ車が突然宙に浮き始め、風船のように大きく膨張し始めたのだ。


「こ、これ……やべぇぞ!」


「……まずいです、このボールに爆発する未来が映し出されましたわ……!」


 焦るユウヤ、メイ、藤川。それを楽しむように雷宗は見つめている。ざまぁみろ、とでも言わんばかりにニヤニヤと笑いながら見つめてくる。

 その中でも真銅は深呼吸し、一か八か奥の手を発動した。


「……皆さん目をつぶっていてください、タングステ――」


 だが、その言葉を遮るように、車は爆発してしまった……。



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