第105話 チーム・ウェザーを知る者、藤川

「……起きてください、鳥岡君」


「んん……え、あ……先生ですか」


 真銅はユウヤを車両を移動してまで起こしにきた。目覚めたもののまだ寝ぼけたユウヤは、あまり状況が分かっていない。


「かなり疲れが溜まってるみたいですね……軽食、食べますか」


「はい……軽くアイスでも」


「分かりました。それじゃ、買ってくるので売店の前で待っていてください。あ、他にほしい物は?」


「特にないです、ありがとうございます」


「了解。それでは」


 真銅はカバンから財布を取り出すと、そのまま真っすぐ売店へと歩いていった。まだ頭が回っていないが、なぜか今の真銅はユウヤに対してとても優しいことが気がかりであった。別に病気をしたワケでもないのに、それはそれは熱を出した幼児をいたわる母親のようである。


「……何でだろ、潜入前のエネルギー補給、なのかなぁ……?」


 ユウヤは目をこすりながらゆっくり売店の前に向かう。サラリーマンや旅行中のグループが作る列に何度もぶつかりそうになりながらエスカレーターに乗ると、後ろから聞き覚えのある声がした。


「……あの、あの!」


「……はい、どちらさまです……ってメイ、なぜここに!?」


「あら? 約束したでしょう、私も奴らのところに行く、と」


 声の主はメイだった。どうやら同じ新幹線に乗り込んでいたらしい。メイは時折怪訝そうな目でユウヤの胸元を見るが、対するユウヤはそれに気付いていない。

 だが、妙に嫌な予感がしたメイは小さな声でユウヤに問いかける。


「あの、もしかして……”憑き物“、摘出しましたの?」


「憑き物……? あ、ペガサスとかのこ――」


「シッ! 声がでけぇございます、傍から見たら不審者どころじゃないですわ」


「じゃあなんでその話題切り出してきたの……」


 ユウヤはエスカレーターからひょいと降りると、早速メイの耳元で憑き物云々がどういうことか聞き出そうとする。だが、メイは人気ひとけのないところでしかそれ以上話したくないようで、指でバッテンを作って見せる。


(なんだ、憑き物を摘出って……)


 ユウヤが疑問に思っていると、真銅がアイスを買って売店から出てきた。


「鳥岡君、これでよかったですか。それ食べたら早速着いてきてください。あとそれとお隣の方は……」


「ありがとうございます、あとこの人はオレの仲間、ついそこで合流しました」


「了解。それではお迎えがきてますので、駅を出てすぐのところに停まっているシルバーの車に乗ってください」


 そう言うと真銅は駅を出ていった。ユウヤはアイスをガブガブと食べ進めながら真銅の背中を見ていると、真銅は車の前で何やらボソボソと話をし、助手席のドアを開けて乗るとそのドアをすぐさま閉めた。


「お迎え……チーム・ウェザーに詳しい人でもいるのか?」


 ユウヤはアイスを口に詰め込み、頭がキーンとなるのを我慢しながら小走りでその車に向かう。言われた通りのシルバーの車、そのドアの前に立った瞬間自動的にドアが開いた。


「待っておりました、話は聞いております……鳥岡ユウヤ殿、ですね」


「あ、あなたは……! それにその腕輪……!」


「ハハハッ、気付きましたか。これは奴ら、チーム・ウェザーの腕輪。もう洗脳システムは壊したものですがね。あっ、申し遅れました。私は藤川。藤川ジュンマと申します」


「藤川、ジュンマ……?」


「申し訳ないですが、私はチーム・ウェザーの元一員でございまして……時には命令に従い各施設への襲撃などを行うこともありました。今となっては、当時自分は何をしていたんだ、そんな気持ちです」


「元、メンバー……」


 初対面で乗っている車の運転手が敵対している組織の元メンバー。そして、恐らく真銅と藤川は知り合い。話についていけず困惑していると、真銅が分かりやすく解説してくれた。


 どうやら藤川は9年前、とある怪しい人物により洗脳され、2年にわたり無理やり活動を手伝わされていたらしい。彼の場合ヒビキなどのような表立った活動では無かったようだが、アクセサリーを模した洗脳装置などの製造ラインに立っていたという。そして何より、驚愕の事実を藤川から突きつけられる。


「……そして何より、これは何度思い出してもそれだけで肝が冷えてしまうことなのですが……チーム・ウェザーは……」


「チーム・ウェザーは?」


「本当の話なのですが、元々は善良な地域のボランティア団体、だがある者の参加により一瞬で乗っ取られ、今の過激団体に成り果てたのです」


「チ、チーム・ウェザーが、ボランティアを!?」


 ユウヤは驚くあまり車内で大声を上げてしまった。横に座っているメイに睨まれながら舌打ちまでされてしまったが、どういうことなのか何度も藤川に問いかける。


「どういうことなんですか、それ!」


「……真銅さん、例のやつ見せてあげてください」


「分かりました。これです」


 ユウヤは真銅から鍵付きの黒いファイルを手渡された。言われたとおりに鍵のナンバーを動かして其の中身を開けると、ブログをプリントアウトしたようなものが閉じられていた。



“WE creATe tHE futuRe,略してWeather!”


2050年4月7日 虹が出てたよ〜

2050年1月10日 あけおめで〜す

2049年7月6日 イリさんが加入してくれました!

2049年6月19日 スポーツ大会実施!

2049年5月25日 錬力スポーツ施設を視察!”



 それ以降は各ページを印刷したと思われる文章の羅列だった。だがユウヤが一番気になったのは「イリさん」という名前である。最近、嫌と言うほど聞いた「ホリズンイリス」という謎の存在。そのイリさんなのか、ユウヤはそう感じた。


「あの、イリさんについて、もしかしたら知ってるのかもしれないのですが――」


「ま、まずい! 早くその資料をしまうんだ!」


「えっ!?」


 藤川は突然口調を変えて大声で叫んだ。驚いて前を見ると、視界に入ってきたバックミラーに見知らぬ、推定約30歳男性の奇妙な顔面が1つ、ニタリと笑みを浮かべながら写っていた。






 

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