第103話 アチアチドロドロ、錬力生配信!?

「お前……そもそもなんでこんなことを……」


「あらあら、随分余裕ぶっこいてんね。理由は単純、ただ思い立って近くにいたからよ」


「ち、近くに……? とにかく……これをやめてもらおうかっ!」


「あらあら……やる気、ね」


 ユウヤはスーツを脱ぎ捨て、シャツのボタンを開けて涼しい格好になる。体感ほとんど暑さは変わらないが、何より動きやすいのでこの格好で戦うことにした。


「それじゃあ……ウチもやらしてもらうわ。ルーティーンってやつを」


「ル、ルーティーン?」


 何だ、ルーティーンって? ヒナの様子を注意深く見ていると、ヒナは缶バッチを大量に付けたバッグから小型マイクのようなものを取り出し、装着して話し始めた。


「どーもおはよこんにちばんわハローッ! 今回はボクが! 錬力術を使って戦っちゃいまぁす!」


「な、何っ!?」


「と、鳥岡君……まさかこれって配信されているのでは、全世界に!」


「えぇっ!? ちょ、おま、撮影禁止でーす! やめてくださーい、やめろやごるぁぁぁ――」


「それではボクの第一攻撃! 溶けちまいな……喰らええええっ!」


 ヒナは自らの拳にアイスを乗せ、ドロドロに溶かしながら殴りかかってきた。本当にやる気だ、この街中で!

 ユウヤは慌ててその攻撃を避けるが、飛び散ったアイス液がユウヤの右腕に飛び散り、まるで火傷するような痛みがユウヤに襲いかかる。


 熱い、まるで湯のようだ! ユウヤは左腕でそのアイスを拭い、ヒナのことを睨む。だがヒナは容赦なく次々とアイスを飛ばしてくる。


「ひとっしーさんコメントありがっと! えーそうだよね、アイスなのにwwwwwあついwwwwってwwwww」


「この野郎……楽しみやがって」


 ユウヤと真銅がが苛立っているのに対し、ヒナはかなりこの状況を楽しんでいるようだ。今にでも反撃したい気分だが、猪突猛進しては体力を失って倒れてしまうかもしれない。そうなればかなり危険だ……


 どうするか迷っていると、後ろから真銅の声がした。


「チャコール・バインドッ! このままやっちまいなさい、鳥岡君!」


「キャッ! ボク動けなくなったんだけど! お前ら助けてぇぇ、誰かああぁっ!」


「ありがとうございます先生! 1VS2ってのは信念に反するけどなぁ……決めさせてもらうぜ、はたき一発で!」


 ユウヤは右手に周りの風や空気を集め、そのまま思いっきりはたくことでヒナをノックアウトすることにした。腰を下げ、意識を右腕に集中させる。


(くそ、まさにピンチってやつだ……! さっきのヒナからの攻撃で右腕がただでさえ痛ぇってのに……さらにアチアチな空気をそこに纏わなくちゃならないんだからな……)


 ユウヤの右腕は熱く疼いている。歯を食いしばりながら力を貯め続けるが、熱さに耐えられなかったのかユウヤは膝をついて倒れてしまった。汗がダラダラと頬を伝うが、それさえ熱されては困るとユウヤは慌ててその汗を拭う。


 真銅はヒナを抑えるのに必死だ。だが、ここで真銅からヒナに攻撃してもらうワケにはいかない。ヒナの能力が能力なだけに、一瞬でも隙を与えればすぐに反撃してくるだろう。


 ユウヤがどうしようと迷っていると、またまた真銅はユウヤに話しかけてきた。


「難しく考えないこと! 腕にこの灼熱の空気を纏わなくても……鳥岡君には違う技があるでしょう!」


「違う、ワザ……? そうか、そうすればよかったんだ!」


 ユウヤは思いついた、打開策を。ユウヤは急いで、その準備に入る。ヒナが激怒し本気で攻撃してくる前にそれを終わらせなければならない。


「この量産男とファッションセンス終わってるおばさん……許さないよ、ボクをこんな目に合わせる……なんて……!」


 ヒナは今にも拘束を解きそうだ。真銅のチャコールバインドは動いた敵を爆発攻撃する機能が付いた技ではあるが、今ユウヤと真銅の周りの空気はアチアチ状態である。この異常に蒸し暑い空気に爆発の炎が広がり、自分達が巻き込まれてはいけない。よって、真銅はヒナを拘束し続けるしかないのだ。


 溜まれ、エネルギーよ、今すぐ! ユウヤは風の球を大きくしていくが、かなり体力を失っているだけになかなか球が大きくならない。


「こ、これじゃ野球ボールどころかビー玉……だがもうやるしかない! 喰らえ、タイフーンストレート……アチアチバージョンをなあああああ!」


「し、しまった、そのは……!」


 ドオオオオオオオン! その小さな風の球は30センチほどヒナを突き飛ばした。まるで強風にあおられた、もしくはアイロンセットをミスしたかのようにボサボサになった髪の毛をガラスで確認したヒナは、突然パニックになってしまった。


「ん、んぎゃあああああああ! ボクの髪の毛が下敷きで擦って持ち上げました的なのになったああああ!」


「……ヒナと言ったな。よくもこんなことしてくれて」


 いつの間にかユウヤと真銅はアチアチの空気から開放されていた。汗をかなりかき、体力も失われた2人だがたちまちヒナを追い詰めてしまったのだ。もう後が無いヒナはヘヘヘと笑い声を漏らすと、マイクを突然外し……


「す、すみませんでしたああああああ! どうか、どうかお許しをおおおおおお!」


「き、切換え早ーーー!」


「私、最近錬力術系インフルエンサーになりたくて……! それで調子に乗ったの、本当にごめんなさいいいいい!」


 ヒナは人目を気にせず号泣し始めた。どうしようか、とユウヤと真銅は顔を合わせる。すると……


「こらー! 石坪、また騒ぎを起こしてるのかー!」


「えっ……! この声って」


 ユウヤはその声に聞き覚えがあった。それは1回生のとき、友達とふざけて履修した鬼のような講義である。


 毎回レポート提出、テストは持ち込みなしの記述式。オナラをしただけで大説教を受けた人もいるらしい、その上授業内容は複雑過ぎ……そんな講義だ。


「せ、先生ぇ……! さ……なに先生でしたっけ……とにかくこれは、ウチは暴れてたとかというか……」


「全部見てたぞ、オンライン講義なのに出席も課題も出さない! ちょっと話がありますから、来なさい!」


「そ、そんなああああああああ! うええー」


「あの子、鳥岡君と同じ大学の子だったとは……」


 ヒナは名前も忘れた鬼教授に連れて行かれてしまった。きっと大説教が待ち構えているのだろう。そもそも課題を出してないなんて……あの講義でここから巻き返しは無理だろう、そうユウヤは察した。


「あぁ、確実にピンチってやつだな……あの人」




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